第036話 詐欺師を騙そうとするとはいい度胸だ
「蛇ってなーに?」
フィリアが目を開け、俺を見ていた。
起きてたのか……
「おはよう。人のベッドでよく寝るな?」
「おはよう。あっちの世界のリヒトさんのベッドが恋しいよ」
俺もだわ。
あっちのふかふかベッドが良い。
「やることやったら帰るよ」
「連れていってね……それで蛇って?」
「んー? お前、蛇に心当たりある?」
「すごくあるよ。夢にも出てくるし……」
出てくるのかー……
意外と自己主張が強いのかね?
「これはデリケートな話だからどうするかはお前のじいちゃんに相談してからだな」
精霊となると、教会が怖い。
もしかしたらフィリアのじいちゃんはこの蛇に気付いているかもしれない。
それなのに勝手にどうにかしたら教会を敵に回す可能性もある。
「そう……あ、それはそうと、砂糖が売れたよ!」
「おー! マジかー! いくら?」
「金貨54枚!」
は?
「多くね?」
「頑張ったから! オリバーさんがすごく嫌な顔をしてた!」
あのプロの商人みたいな人がそんな表情をするって相当だぞ。
まあ、がめつい修道女が相手だからしゃーないけど。
「お前の取り分は金貨6枚でいいぞ」
「いいの? 金貨5枚と銀貨4枚だよ?」
「お祝いだよ」
予想以上の額だったし、ボーナスだ。
「ありがとー。じゃあ、これ、金貨48枚」
フィリアは袋を取り出すと、中から金貨を6枚抜き、袋を渡してきた。
それを受け取ると、カバンに入れる。
「確認しないの?」
「信用してる」
「そう? まあ、トイレに行けない呪いをかけられたくないから何度も数えたし、大丈夫だとは思うけど」
たとえ、金貨が2、3枚足りなくても気にしないけどね。
そんなもんはこれからの大仕事の前には誤差だ。
「残りも頼む。こっちも氷の輸送の目途が立った」
「ホント? どうすんの?」
「やはりヘイゼルとは縁があった。あいつ、収納魔法が使える」
「え!? ホント!? すごいことだよ!」
フィリアの驚く気持ちはわかる。
それくらいに貴重な魔法らしいしな。
「隠してたようだけど、見てたらわかった。あいつ、ドジすぎだわ。杖しか持ってねーのにポーションを10個持ってきたって言ってたし」
しまいには目の前で黄金草を収納しやがった。
「あー……まあ、ポンコツ魔法使いだからねー。本人に言ったら泣きそうな顔をしてたからもう言わないけど」
「だなー」
ドジのヘイゼル、成績は優秀だけど、バカなヘイゼルだったかな?
「それにしても、よくヘイゼルさんと上手くいったね? あの人が優秀な魔法使いであることは皆、知ってるけど、頑なにパーティーを組まない人だったのに」
「タイミングだよ。ピンチの時に声をかければ、人はそれが悪魔だろうが、飛びつく」
実際、あいつは地獄の一歩手前にいた。
それを直視したくなくて、酒におぼれていた。
「うーん、人助けをしたんだろうけど、リヒトさんが言うと、いかがわしいね」
「まあ、実際、詐欺師のテクニックだからな」
よく言えば、心理学を応用したコミュニケーションだ。
「詐欺師って怖いね」
「普通に生きてりゃ会わない人種だよ。まあ、悪いけど、フィリアもあいつを気にかけてやってよ。多分、そのうち、高慢ちきに頼んでくるから」
借家のこと、契約書の確認。
多分、俺にも頼るだろうが、同性であるフィリアに頼むことも多いだろう。
「それはいいけどねー。それでどうする? これでやることは終わった? あっちの世界に行こうよー。もう菓子類がなくなっちゃった」
「その前に神父様に会わせてくれ。帰るのはその後だ」
「あー……ギフトのことがあったね。金貨30枚も集まったし。じゃあ、金貨30枚をちょうだい」
フィリアはそう言うと、右手を差し出してきた。
さっきの金貨が入った袋を取り出すと、金貨を20枚取り出し、フィリアの右手に置く。
「ん? 足りない……」
右手の金貨を見たフィリアが首を傾げたので、俺はフィリアの左手を取り、残りの10枚を置いた。
「………………」
フィリアは両手の金貨を見比べると、口元を引きつらせながら俺の顔を見る。
「高いチップだな」
「き、気付いてたの……?」
「お前、最初に値段を聞いた時、20枚って答えかけて、30枚に言い直しただろ」
この守銭奴は俺が出すと思って、値段を上げ、差額を懐に入れる気だったのだ。
本当の鑑定料は金貨20枚。
そもそも金を受け取るのは神父様であって、たかが修道女のこいつではない。
「か、返すよ!」
「いい。取っとけ。チップだ」
「高いよ……」
「大丈夫。俺は気にしない」
こいつにはそれ以上の額を稼いでもらわないといけないのだ。
これくらいは気にしない。
「……おじいちゃんを紹介するから教会に行こっか!」
フィリアは金貨をしまうと、俺の腕に自分の腕を回しながら部屋を出ようとする。
「同伴出勤みてーだなー」
「……私もそんな気分。あーあ、詐欺師を騙そうとして看破され、落とされそう……その時はお願いだから娶ってね?」
「お前、それをよく言うなー」
「私も18だしねー。それに詐欺師の嫁も悪くないよ……」
フィリアの俺の腕を抱く力が強くなった。
そこは詐欺師じゃなくて、霊媒師って言ってもらいたかった。
せめて、占い師……
お前のじいちゃんに詐欺師だけど、孫をくれって言うの?
俺がお前のじいちゃんなら殴るわ。
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