第034話 ポンコツ
「そういうの、魔法系でないか? めっちゃ軽いのにめっちゃ強いの」
よくゲームとかであるだろ。
弱い魔法使いや僧侶が着るやつ。
「あるにはあるけど、高いわよ。私が着ているこのローブだって、刃物を通しにくい素材でできてる」
「ほうほう」
腰の剣を抜く。
「いや、やめて! 死んじゃうから! これ、そこまで良い物じゃないから! 木の枝が引っかかっても破けない程度の物だから」
森を歩くのには便利だし、それでも十分にすごいと思うが、防御力はないわけか。
「お前のそのローブでいくら?」
「学校でもらったやつだから具体的な値段はわかんないけど、金貨50枚以上はすると思う。戦闘で使えるレベルってなると金貨1000枚はいくんじゃない?」
たっけ!
それを買える金があるなら冒険しなくてもいいだろ!
「無理だな……」
「でしょうね」
「お前、魔法使いだろ? 回復魔法は使えるか?」
「無理よ。管轄が違うもん。そういうのは教会の領分。ほら、フィリアとか」
魔法使いは攻撃魔法で教会が回復魔法か?
同じ魔法なのに……
「じゃあ、俺らはかなり危ないわけだな」
防御力もなければ、回復手段もない貧弱2人。
「一応、ポーションを持ってきてるけど、そうね」
ポーションを持ってきている?
その言葉を聞き、改めてヘイゼルを見る。
こいつは黒のローブで自分の身長くらいはある木の杖を両手で持っている。
だが、カバンらしきものは持ってないし、ローブはポーションとやらを入れる収納スペースがあるようには見えない。
「いくつ持ってきている?」
「納品するやつとは別の低級ポーションだけど、10個は持ってきている。治せるのはすり傷程度だからあまり期待はしないで」
10個?
ふーん……
「どうしたの?」
ヘイゼルは考え出した俺を見て、首を傾げる。
「いや、今後の防具をちょっとな……まあ、帰ってから考えるわ」
「それがいいと思うわ」
こいつは今後、とっても役に立ちそうだ。
いい拾い物をしたなー!
こいつが収納魔法を持っていることを隠していることに気付き、内心ほくそ笑んだ。
しかし、こいつは本当に隠し事や嘘をつくのが下手だわ。
その辺がちょっと心配になるな……
よく今まで無事でいられたもんだ。
俺達がそのまま話しながら歩いていると、大森林に到着した。
「今日もダウジングってやつ?」
カバンをごそごそしていると、ヘイゼルが聞いてくる。
「だなー。これが一番確実に探せる」
「便利だけど、両手が塞がるのが怖いわよね」
それな。
いくら危険を察知できるとはいえ、視界が開けていない森で両手が使えないのは痛い。
どうしても初動が遅れてしまうからだ。
「本当はもう少し、人がいると良いんだけどな」
「悪いけど、報酬で揉めそうだからちょっと………」
まあ、今回はほぼヘイゼルの総取りだからなー。
「実際、パーティーって、どれくらいの人数なんだ? フィリア達は3人だった」
フィリアと猫ちゃんとアンナ。
ゲルドは護衛対象の客であり、頭数には入らない。
あと、俺も。
「3人から5人じゃないかな? もちろんソロだっているし、今の私達みたいなコンビもいる。人数が必要な依頼の場合はそういう人達が臨時とかで組むわね」
「5人までか?」
「あんまいないけどね。人数が増えればその分、報酬が減るし。4人以上を組む場合はダンジョンがメインじゃないかな? 危険は多いけど、その分、リターンも大きい。アルトの町の冒険者はほとんど2、3人パーティーだと思う」
なるほどね。
こいつはソロだけど、ちゃんとそういうことは知っているわけだ。
「3人か……ヒーラーのフィリアがいると助かったが、あいつは報酬で揉める筆頭だもんな」
「でしょうね。守銭奴の銭ゲバだもん。他は剣士とかの強そうなのでもいいけど、確実に私らは舐められて、報酬を奪われそう」
雑魚と雑魚だもんなー。
お守り代って言われて、報酬を奪われるだろうな。
「2人でやるしかないか……」
「まあ、浅いところだから大丈夫でしょ。占いは? 今日の運勢はどうだった?」
「俺は普通。お前はすごく良い」
昨日と一緒だよ。
「来たね! 私の時代が来たね!」
良かったね。
まあ、俺が普通なのは30株も採取しないといけないからだろうな。
筋肉痛なんだけどなー。
「そういえば、ポーションって、筋肉痛とかにも効くか?」
「え? まあ、そこそこ効くんじゃないかな」
「1本くれ。俺、ポーションを飲んだことがないわ」
「え? そうなの? いや、あんた、異世界人だったわね。いいわよ……ちょ、ちょっと待ってねー……えーっと、あっちを向いてて!」
急に慌てだしたヘイゼルの指示に従い、ヘイゼルとは逆の方を向く。
ようやくカバンを持ってきていないという自分のミスに気付いたか…………
「いいわよー」
ヘイゼルの許可が出たのでヘイゼルの方を向くと、ヘイゼルは陶器のような入れ物を持っていた。
サイズは湯呑くらいであり、注ぎ口にはコルクのようなものがついている。
カバンを持っていないヘイゼルさんはこれを10個も持ってきているらしい。
「いくらだ?」
「いらないわよ。プレゼントよ! 弟子の為に! そう、弟子の為に!」
「悪いな。もらうわ」
ヘイゼルから湯呑を受け取り、栓を抜き、飲む。
味はちょっと苦いが、不味くはなかった。
「ポーションは飲んでもいいし、患部にかけてもいいのよー」
「へー」
200ミリリットルくらいのポーションを飲み干すと、確かに腰を始めとする全身の痛みがやわらいだような気がした。
「おー! すごい! これがポーションかー」
「すごいでしょ! 低級とはいえ、私の自信作よ!」
ふむふむ。
本当にすごい。
ヘイゼルは多少、ポンコツでドジなところもあるが、本当に優秀な魔法使いなんだろう。
「ありがとー」
「いえいえ。私にできるのはこれくらいだしねー。あ、入れ物は返して」
「ごちそうさん」
飲み干した湯呑をヘイゼルに返す。
「うんうん……!」
ヘイゼルは上機嫌で俺から湯呑を受け取ると、すぐに動きがピシッと止まった。
空気を読んだ俺はカバンを探る振りをして、後ろを向く。
そして、ダウジング棒を取り出すと、ヘイゼルの方を向いた。
ヘイゼルはさっきまでの固まった表情ではなく、ニコニコと笑っており、すでに湯呑は収納し終えたようだ。
「よっしゃ、仕事を始めるぞー」
ダウジング棒を両手に持ち、ヘイゼルに声をかける。
「うん! モンスターは任せておいて!」
ヘイゼルは自信満々に杖を抱いた。
これで誤魔化せたと思っているのが本当にすげーわ。
さすがはポン……ヘイゼル。
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