第032話 こいつ、やっぱり何も考えてないな
ポンコツ魔法使いことヘイゼルはフィリアの蛇が見えるらしい。
「お前、知ってるん?」
「まあね。私は精霊魔法が専門なの」
精霊魔法?
「何それ?」
「精霊に力を借りることで使える魔法よ」
「ほーん。精霊って?」
そういえば、以前、商人ギルドのオリバーも精霊とか言ってたな。
「ちょっと待ってね……」
ヘイゼルはそう言うと、手を自分の胸の位置まで上げた。
すると、ヘイゼルの手の周りがうっすらと光りだす。
「それが精霊か?」
「やっぱ見えるのか……私の力ではここまでしか実体を出せないけど、この子達の力を使って、強力な魔法を放つことが出来る。さすがにここじゃ使えないから見せてあげることはできないけどね」
何となくうっすらと光っているヘイゼルの手を握った。
「ちょっと! ダンスはしないわよ!」
ヘイゼルが謎の文句を言うが、無視し、不思議パワーを込める。
すると、ヘイゼルの手の光が強くなってきた。
「え?」
さらに不思議パワーを強くすると、光が実体を現し始める。
そして、その光は小さなトカゲへと変わった。
トカゲは20センチくらいあり、オオサンショウウオみたいなのっぺりとした顔で不細工だが、ちょっと愛嬌がある。
「……は? へ? ほえー……」
美しく優秀な女魔法使いは巨乳なことしか能のないポンコツへと変わった。
「これが精霊か?」
「私は何も知らない…何も見ていない……」
ヘイゼルはトレードマークの三角帽を深くかぶる。
「トカゲだな」
テーブルの上をのそのそと歩いている。
「くっ! とんでもないことが起きてるし!」
ついにはヘイゼルが頭を抱えた。
「どうした? 説明しろ」
「私は火の精霊を呼んだの。でも、精霊を具現化できる人なんていない。それができるのは巫女様だけ!」
巫女?
赤い袴の人か?
「巫女って何だ? 俺は何も知らない異世界人なんだぞ。ちゃんと説明しろ」
「この世界は女神様が作ったのは知ってる?」
フィリアと最初に会った時に聞いた。
あの時のことは忘れない。
「聞いたな」
「女神様はこの世界を作った時に4つの精霊を作ったの。それが火、水、風、土の四大精霊」
木はねーの?
木霊が泣いてんぞ。
「それで?」
「この世界はその4つの精霊の力で維持されている。そして、その精霊を扱うことができるのが巫女様」
「4つの精霊ってことは4人いんの?」
「ええ、そうよ。その4人の巫女様は教会が管理する東西南北の国におられるわ」
教会のくせに国があるのか。
バチカン市国的な?
「お前も精霊魔法が使えるじゃん。巫女様じゃん」
「実際、私も巫女候補に選ばれたこともあるわ。辞退したけど」
ヘイゼルって結構、すごいのでは?
「辞退? なんで? 偉そうじゃん」
「巫女様は精霊との親和性を高めるためにそれはそれは大変な修行を積むのよ。説明を聞いたけど、あれは苦行よ、苦行。この世界を支える巫女様には悪いけど、私は絶対に嫌」
まあ、お前はそうだろうよ。
高慢ちきだけど、酒ばっか飲んで俗っぽいし。
「それで? ヘイゼルがトカゲを出したことがマズいと?」
「出したのはあんたよ! こんなことができるってかなりヤバいわよ! というか、あんた男じゃん。巫女になれないじゃん! あ、頭がショートしそう」
ポンコツだなー。
「この程度の霊で騒ぐか?」
つまみのジャーキーをじーっと見てるトカゲをデコピンで弾く。
すると、怒ったトカゲが俺の指をパクッと噛んだ。
「いてーよ、バカ」
「バカはあんただ! ああ……四大精霊のサラマンダーになんてことを……」
サラマンダー。
火のトカゲ……
あ、こいつ、トカゲだ!
「こいつがサラマンダーね。それを1つやるからもう帰っていいよ」
そう言うと、トカゲはジャーキーを咥え、前足を上げてすぐに消えた。
「私は何も知らない……何も見ていない……」
そのポンコツ芸はもういいよ。
「俺、本物だろー?」
「ああ……詐欺師かと思ったらガチの人だった。こいつ、絶対にヤバい……」
「あんま言いふらさない方が良さそうだな」
良いことにはならなそう。
さすがに占わなくてもわかる。
「そうして……」
「もし、教会の騎士に捕まったらヘイゼルと一緒に呼び出したって言うよ」
というか、ほぼこいつのせいって言おう。
「やめて……お願いだからやめて」
「じゃあ、お前も言うなよ」
「うん。言わないし、言えない。というか、信じてもらえないと思う」
じゃあ、大丈夫だ。
「まあ、こんなことはどうでもいい。それよか、フィリアの蛇だ。お前もあれが見えるんだな?」
「どうでもいいわけないじゃん……」
「飲め。忘れろ」
そう言うと、ヘイゼルは酒をイッキする。
「よく考えたら一冒険者の私には関係ないわ!」
ヘイゼルは飲み干したコップをガンッとテーブルに置いた。
いいぞ!
それでこそ酒で失敗するヘイゼルだ!
「そうそう。そんな世界規模の話なんてどうでもいいよ。それよりフィリアだよ」
俺の右腕のフィリアだよ!
「あの蛇ね? あれも精霊だと思う。本人は気付いてないけど、めっちゃ巻き付いてるよね。初めて見た時はびっくりした」
「精霊? 守護霊だろ」
「守護霊? 精霊かと思ってたけど……」
俺は多分、どっちも見ることができるからわからんな。
「お前、この町の領主様に会ったことあるか? 美人の人」
「あるけど……何回か依頼も受けたし」
領主様の依頼を受けるってことは本当に魔法使いとしては優秀なんだろうな。
「その人の後ろにめっちゃ強そうな騎士の霊がいるけど、見えるか?」
「何それ!? 知らない!」
見えないわけか。
あれは守護霊であり、おそらくだが、領主様のご先祖様だ。
ということは、こいつは守護霊は見えないけど、精霊は見える。
つまり、フィリアの蛇は精霊ということになる。
「あの蛇は精霊か……」
「やっぱり?」
「だな。お前、あれをどう思う?」
「いや、でっかい蛇だなーとしか……」
ヘイゼルだなー。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




