第029話 2人で冒険
ヘイゼルは隣国であるロストの国の貴族令嬢だ。
子供の頃から魔法が好きだったヘイゼルは親の反対を押しきり、魔法学校に入学した。
ヘイゼルは才能もあり、努力家だった。
だからすぐにその才覚を発揮し、魔法学校で優秀な成績を修めていった。
だが、ヘイゼルは魔法学校に入る前に親と約束をしていた。
卒業したら結婚すると。
それを嫌がったヘイゼルは魔法学校の卒業前に姿を消した。
まあ、逃げたのだ。
そして、冒険者になったらしい。
「じゃあ、お前、貴族なん?」
ヘイゼルを仲間にした翌日、朝から集まり、西の門を抜け、歩いて、大森林を目指している。
なお、俺がもくもく亭に迎えに行くと、ヘイゼルは寝坊せずにちゃんと起きてた。
「まあ、そうね。でも、絶縁状を送ったし、もう関係ないわ。だからバーナードは言わないで。私はただのヘイゼルよ」
「ふーん。なんで仲間を作らないんだ? ほら、女ばっかのクランがあるじゃん」
「あそこは大陸中の女性冒険者が所属する本当に大きなクランなのよ。多分、私のことを知っている子もいるわ。バレたくないの」
同じ国や魔法学校の知り合いがいるかもしれないってことか。
「そこじゃないところは?」
「男と組むなんて嫌よ。魔法使いなんて、杖を奪われて口をふさがれたら終わりなのよ? あんな野蛮な野盗みたいな奴らと誰も助けが来ない所に行きたいと思う?」
改めて立っているヘイゼルの全身を見ると、身長は160センチ程度であり、ローブであまりわからないが、全体的に細い。
なのに、胸はでかいし、顔立ちも整っている。
うーん、確かに野盗が放ってはおかんな。
「思わんなー。がおー」
ヘイゼルを襲うふりをする。
「あんたなら勝てるわ。一応、護身術も使えるし」
「護身術……負けそう……」
待てよ! 俺には銃がある!
いや、すごく情けないな……
「逆に言うと、盾になってくれないわけだけどね。不安だわ」
「俺が逃げる時間を稼いでくれな」
お前が死んで悪霊になってもちゃんと祓ってやるぞ!
「ねえ、本当に大丈夫? 私、あんたと大森林で死ぬのは嫌よ」
「浅いところだから大丈夫だよ。ゴブリンならいけるんだろ?」
「まあ、あんなのにやられるのはバカか子供だけだからね」
頼もしい!
実に頼もしい!
「それでさー。お前、なんで受注をミスったん? 酒で失敗したっていうのは見えたんだけど……」
「ホントに見える人か……いや、勝手に見ないでよ。単位を間違えたの。ポーションを10個納品かと思ってオッケーを出したら100個だった」
ゼロが多かったわけね。
こいつ、ドジだな……
「それで途方にくれて、朝から酒か?」
「ポーションを作るのに黄金草を採取しないといけないからね。私一人じゃ大森林の奥は無理よ。何とか貯金使って、黄金草を買ったんだけど、全然足りない」
12株は買ったわけね。
本来の予定なら10株だから十分に買えたわけだ。
「金を借りるとか、一時的にパーティー組んで対処する方法はなかったのか?」
「誰がそんな大金を貸してくれるのよ? パーティーも一緒。絶対に足元を見られて破滅よ。だからお酒に逃げて現実逃避してたの!」
まあ、こいつ、交渉事が下手そうだしなー。
しかし、それで酒に逃げるあたりがダメ人間だ。
「その依頼元はちゃんとしたところか? お前、騙されてないか? お前を奴隷にするために借金漬けにされそうになってないか?」
俺とは種類が違うけど、詐欺師ややーさんの常套手段だろ。
「それはないわね。依頼元は魔法士ギルドだもん。そんなことをするわけがない。単純に私のミスよ。だって泥酔してたもん!」
威張って言うな!
「魔法士ギルドねー。お前、そんなところにも所属してんの?」
「魔法使いは大抵、所属しているわよ。魔法の情報とか入るし」
「そこから親御さんにバレない?」
「どこのギルドにギルド員の情報をバラす奴がいんのよ。そんなことをしたら誰も入らないわよ」
個人情報の管理はちゃんとしてるみたいだ。
冒険者ギルドは怪しいけど。
「まあ、お前の事情はわかったわー。助けてやろう」
「ありがとう。というか、その謎の占いで全部知ってたんじゃないの?」
「そこまではわかんないし、いちいち見ねーよ」
見ようと思っても、見られるのは断片的にだ。
全部わかったら俺は商売でこんなに悩んでいない。
「怪しいわねー。覗きとかしてない?」
「透視はできないな」
「じゃあさ、どっちに入ってるかわかる?」
ヘイゼルは両手をグーにして、俺に向ける。
「……そういうのはよくやられるわー。大抵、両方に入ってるか、どっちにも入ってないパターンね。お前は……どっちにも銅貨を持ってると出た」
「あんた、つまんないわね……」
「その反応までがデフォだよ……」
俺達はお互いの自己紹介を兼ねた雑談をしながら歩いていると、大森林に到着した。
「あんた、その力でモンスターの接近とかわかる?」
「多分、わかる。来たら言うから魔法で処理してくれ」
「わかった」
モンスターの対処を決めると、カバンからダウジング棒を取り出す。
「何それ?」
「ダウジングってわかるか?」
「聞いたことない」
だろうね。
「簡単に言えば、物探しの魔法だよ」
「全然、わかんない」
「いいから見てろ」
ダウジング棒を両手に持ち、不思議パワーを込めた。
すると、ダウジング棒が向かって左を差した。
「あっちか……」
「動かしたでしょ! 今、絶対に自分で動かしたでしょ!」
小学生と同じ反応だよ……
「いいからついてこい」
ダウジング棒が差す方向に歩いていくと、1分も経たないうちにダウジング棒が大きく左右に開いた。
そして、下を見ると、お目当ての黄金草が生えていた。
「な?」
後ろを振り向き、俺の足元を凝視しているヘイゼルにドヤ顔を披露する。
「……本当に生えてるし。まだ、探し始めたばっかなのに」
「あと、87株を集めるんだぞ。まだこれからだよ」
そう言って、ダウジング棒を地面に置くと、カバンから買ったばかりのスコップを出し、採取を始める。
「専用の道具?」
「そう。穴掘り道具」
「へー。そんな小さいのは初めて見た」
こっちの世界にも大きいシャベルみたいなものはあるのかな?
根を傷つけないように慎重に掘り、黄金草を採取した。
そして、それをヘイゼルに渡す。
「ほれ」
「あ、ありがとう」
「気にするな。さて、次に行くぞ。ちんたらやってると、ヘイゼルが娼婦か性奴隷になっちゃうからなー」
「いや、さすがに実家に泣きつくわよ」
なーんだ。
買いに行こうかと思ったのに。
「お前、夜にポーションを作るって言ってたけど、1日にどれくらい作れる?」
「いくらでも作れるわよ。準備はほぼできてるし、後は黄金草を入れるだけって段階まではやってある」
現実逃避をしてたけど、一応、あがいてはいたわけだ。
「じゃあ、気にせずに量を採取するか……」
「本当にそんなに採れるの?」
「あっちに行くと、お前に幸運が訪れると出た」
森の奥を指差す。
「おー! 期待できそう!」
「ただし、モンスターもいそうだな……」
脳に危険信号が走っている。
「わかった。あっちね? あんたは下がってて。私がやるわ」
「頼む。女のケツに隠れる勇敢な俺!」
「……ツッコまないわよ?」
そうして。
まだゴブリンの対処法を決めてないんだよな。
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