第028話 カモが仲間になりたそうにこちらを見ている
「お前の名前を聞いてもいいか?」
「まずはあなたが名乗りなさい。それが礼儀よ」
こいつ、良いとこの出だな。
「失礼……俺はリヒトという。最近、この町に来たお前と同じ冒険者だ。よろしく、ヘイゼル」
「私、まだ名乗ってない……占ったの?」
「いや、フィリアに聞いたから知ってるだけ」
「……あんた、ムカつくわね」
ヘイゼルの好感度がガクッと下がった。
「いやー、ごめん、ごめん。よく詐欺師って言われるんだよー」
「知ってる。聞いたもん。やっぱ占い師を騙る詐欺師か……私は騙せないわよ」
ヘイゼルが鼻で笑う。
「騙せないかー。それは残念だよ、ヘイゼル・バーナード様」
「――ッ! 苗字は誰にも言ってない!」
ヘイゼルは立ち上がり、机を叩いた。
すると、受付にいる職員達が俺達を注目する。
「声のボリュームを落とした方が良くないか? 家出娘」
家柄を隠しているんだろう?
「くっ! マジでムカつく! なんで知ってるのよ!」
「まあまあ。おーい、ガラ悪マッチョー! こちらのレディーに酒のおかわりをー!」
受付で鼻をほじっているガラ悪マッチョに注文する。
「だーれがガラ悪マッチョだー。ギルマスかルーク様って呼べー。酒なー。ちょっと待ってろ」
あいつ、ルークって名前なのか。
空でも歩くか?
「俺が奢ってあげよう」
「あんた、昨日といい、押し付けがましいわよ」
「詐欺師なんだから押し売りに決まってるだろ。待っててもカモは来ないんだぞ?」
どこのバカが詐欺師に騙されに来るんだよ。
「私がカモって言いたいの? 舐めるんじゃないわよ」
これで好感度は地の底だな。
つまり後は上がるだけってことだ。
「いや、実はこれは挨拶みたいなものなんだよ」
「は? あんたの国の挨拶ってひどくない? 私の国ではケンカを売ってることになるんだけど」
俺の国でもそうだよ。
「ほらー、酒だぞー。ケンカするのはいいけど、殴り合いは外でやれよー」
ガラ悪マッチョがやってきて、ヘイゼルの前に酒を置いた。
そして、興味なさそうに受付に戻っていく。
「まあまあ、まずは飲んでくれ」
ヘイゼルに酒を勧める。
ヘイゼルは俺を睨んでいたが、すぐに酒に魔法をかけ、一口飲んだ。
「いやー、いい飲みっぷり。ほれぼれするねー」
「あんた、絶対にそのうち誰かに刺されるわよ」
そうならないための占いであり、不思議パワーなのだ。
「ごめん、ごめん。実はね、ヘイゼル先生に魔法をご教示願いたくてねー」
「……あんた、交渉がド下手すぎるでしょ。この状況でいいよっていう奴は頭の中がお花畑だわ」
「ダメー?」
「ダメ。たとえ、あんたが好意的に近づいてきてもお断りよ」
それがわかってるから煽ってるんだけどねー。
「今なら占い料をタダにしてあげるよー」
「いらない。私は占い師みたいな胡散臭い奴らは嫌いなの」
「それは自分が魔法使いだから?」
「そうよ。魔法は偉大で素晴らしいものなの。それなのに人を騙すペテン師と一緒にされたら最悪よ」
実はペテン師もよく言われるんだよなー。
「まあ、そういう人もいるよねー。残念だわー。せっかく小説の事を教えてあげたのに」
「それはありがとう。もうダメかと思ってたやつだから素直に嬉しいわ。でも、お酒を冷やしてあげたでしょ? それでチャラよ」
「そっかー。もったいないことをしたなー」
「これっぽっちも思ってなさそうなところがマジでムカつくわ」
好感度が上がんないなー。
何故だろう?
「じゃあさー、ヘイゼル先生に師事することは諦めるから一緒に冒険しようよー」
「先生って言うのをやめなさい……一緒に冒険? パーティーを組むってことかしら? それこそお断りよ。フィリアから聞いてないの? 私は誰とも組まないの」
「ソロってやつ?」
「そうよ。あんたと一緒」
女1人は危なそうだが、こいつは魔法使いだ。
きっと危険は全部、魔法で解決するんだろうなー。
そう考えると、きっと優秀な魔法使いなんだろう。
「残念だなー。せっかくお近づきになれればと思ったのに」
「いや、せめて、もうちょっといい感じに誘いなさいよ。近づく気あったの?」
「あったよー……せっかく黄金草採取の仕事を一緒にしようと思ったのになー」
「………………」
ヘイゼルが急に黙った。
「明日は1人で10株は採取できると思うな。でも、優秀な魔法使いと一緒ならその倍以上はいけるな」
うんうん!
「……へー。まあ、頑張んなさいよ」
こいつは嘘も下手だし、交渉事も下手だな。
「帰るか……」
「まあ、待ちなさいよ。あんた、全然飲んでないじゃん。ぬるくなってんじゃない? サービスでもう1回冷やしてあげるわ」
ヘイゼルは慌てて俺を引き止めると、俺の酒を取り、魔法で酒を冷やし始める。
そして、酒を冷やすと、俺の前に置いてくれたのでその冷えた酒を飲む。
「やっぱ冷えた方が美味いね」
こいつ、マジでカモだわ。
「でしょー。特別サービスよ、感謝なさい」
ヘイゼルは笑いながらうんうんと頷いている。
「俺は2割でいいなー」
「ん? 何が?」
「黄金草。10株採取したら2株でいいってこと。残りの8株はいらない」
そう言うと、ヘイゼルが真顔になり、俺をじーっと見てくる。
「……聞いていい? なんで私が黄金草を求めていることがわかるの?」
何を今さら……
「お前、昨日、興味なさそうに酒を飲んでたのに、俺が黄金草を持って帰ったらあからさまに動揺してたじゃん」
「……あー、なるほどー」
ヘイゼルは心当たりがあるようで、ちょっと悔しそうだ。
「大丈夫。ちゃんと残りの88株を集めるまで付き合ってあげるからさ」
「……クソ詐欺師が……! 全部知ってんじゃねーか!」
「何をー?」
「私が受注をミスってポーションの納品が間に合いそうにないことよ!」
そうなん?
そこまでは見えていなかった。
「いや、俺が見えたのはお前が違約金で借金を背負って、どうしようもなくなって、親に泣きつくところ」
「……あんた、占い師じゃないでしょ」
「占いだよー」
「……それ、未来視じゃん」
未来視ってなーに?
未来を見る力かな?
「まあいいじゃん。で? どうする? 親に泣きつく? それとも外国に売り飛ばされる?」
「……え? 私、売り飛ばされるの? 奴隷?」
「プライドを優先して親に泣きつかなきゃそうなるでしょ。違約金を払えないんだから」
そう言うと、ヘイゼルの顔が青ざめる。
「いや、この国は奴隷禁止……」
「この国はでしょ。だからオーケーな国に輸出だよ。あとはまあ……」
ご主人様にその巨乳でご奉仕しなさい。
「親に泣きつく……でも、そうなったら私は……」
どうなるのかね?
そこまでは見る気はないけど、少なくとも、冒険者は続けられないだろうね。
「あんたと組めば、間に合うの?」
「88株なら3日で集められるからねー。あとはヘイゼルの錬金術とやらの腕次第でしょ。俺の取り分は2割って言ったけど、俺は急いでないし、今ならそっち優先でいいよー」
「採取に3日……帰って夜に作れば……間に合う」
よかったね。
「そうなんだ」
「ごほん……まあ、組んであげてもいいわよ」
ヘイゼルはわざとらしく、咳ばらいをし、上から目線で言ってくる。
「じゃあ、魔法を教えてねー」
「し、仕方がないわね。弟子を取るのも魔法使いの使命だもん」
「ついでにちょっと他の仕事も手伝ってね。そっちのノルマが終わってからでいいから」
「そ、そうね。助け合いは大事だし、しょうがないわ」
ネギを背負ったカモだったな。
「どこの宿に泊まってるの?」
「向こうのもくもく亭っていう……いや、その情報いる?」
ヘイゼルは素直に泊まっている場所を言いかけたが、不審に思ったようで聞いてくる。
「明日の朝、迎えに行くよー」
「ここでよくないかしら?」
「お前、依頼の目途が立った喜びで今夜は飲みすぎる。そして、明日は遅刻すると出た」
そういうとこだぞ。
「納品が終わるまで、お酒を控えるわ……」
そうしなさい。
お前、酒で受注をミスったんだろ。
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