第015話 冒険者デビュー
「銃、よえー……」
予想以上にハンドガンの威力が低かった。
2発も当たったのに死ななかったのだ。
「当たり所が悪かったっていうのもあるが、単純に威力不足だろうな」
所詮はハンドガンだ。
これがマグナムやショットガンだったら某ゲームのゾンビのように吹き飛ばせたのかもしれない。
「マジかー……銃は完全に人間相手への護身用だな」
おそらくだが、足を狙えば良かったのかもしれない。
しかし、俺にそんな腕はないし、銃は人に襲われた時の牽制用だな。
1発撃てば、人なら多少は怯むだろう。
「他の冒険者もこうして剣でやってるんだろうな……」
この町に来るまでの間、剣士のアンナといたが、特にモンスターも現れなかったので実際に戦闘を見たわけではない。
だが、あの大剣は新品ではなかったし、強烈な死の匂いも感じ取れた。
「また考えることが増えたなー……」
悩みにモンスターへの対処が改めて書き込まれた。
その後、ゴブリンから剣を引き抜くと、手を合わせる。
「南無南無、アーメン」
とりあえず、祈ると、カバンからサバイバルナイフを取り出し、ゴブリンの腹を掻っ捌いた。
そして、腹に手を突っ込み、ゴブリンの体内から小さな石を取り出す。
これは魔石と呼ばれるものであり、この魔石を体内に持つ生物をモンスターと呼ぶのだ。
そして、魔石はギルドで買い取ってくれるうえにモンスターを倒した討伐証明にもなる。
ゴブリンの魔石は安価であり、銀貨1枚だ。
そこに討伐依頼料である銅貨2枚が加わる。
つまり、この魔石で1200円ということになる。
こんなに苦労して得るお金がそれだけだ。
正直、このまま魔石を放っておき、帰りたい。
1200円の為にゴブリンの腹を掻っ捌き、手を突っ込むのは絶対に嫌だ。
だが、昨日、受付に黄金草の採取の依頼票をガラ悪マッチョに持っていった時に言われたのだ。
『もし、モンスターと遭遇し、倒したら絶対に魔石を取ってこい!』
絶対に嫌だと思ったが、やらなければならない。
俺の占いにはそう出ていた。
だから我慢して、この魔石を取ったのだ。
「ハァ……疲れた……帰ろ」
持ってきていたウェットティッシュで手と剣とサバイバルナイフを拭くと、来た道を引き返すことにした。
そして、そのまま大森林を出ると、まっすぐ門に向かう。
「帰ってくるのはえーな」
門まで歩くと、先ほど、俺がカエルの霊を祓ってやった兵士が声をかけてきた。
「モンスターに襲われた」
「そりゃ大森林に行けばそうだろ。ウルフか?」
ウルフだったらどうだっただろうか?
「ゴブリン」
「お前、マジか? それで逃げ帰ってきたのか?」
「いや、倒したよ。ほら」
ポケットから魔石を出して、見せる。
「お、ホントだ。ん? じゃあ、なんで帰るんだ?」
「これが俺の童貞さ」
「……マジかよ。それはすげーわ。普通、童貞のくせに大森林に行くか? その辺のスライムかウサギでも狩ってろよ」
街道や草原にもスライムや大ウサギといった魔物はいる。
ゴブリンよりも弱く、初心者はまず、そいつらで鍛えるのが通例らしい。
これはこの町に来る道中でアンナや猫ちゃんに教えてもらったことである。
「金にならん」
スライムは討伐依頼もなく、魔石が銅貨5枚。
また、ウサギも討伐依頼はない。
ウサギの肉は売れるが、魔石と合わせても安価だ。
解体もできないし、はした金の為にウサギちゃんを殺したくない。
「命あっての物種だぜ?」
「まあなー。ただ、もうちょっと準備をするべきだったわ」
「そうしろ、そうしろ。いつもこの門を通っていた冒険者がある日、帰ってこないなんてよくあるぜ? 特にお前みたいな若い奴に多い」
若さ故の無謀かな?
まあ、俺はそこまで若くないんだが。
「気を付けるわ。とりあえず、これで酒でも飲む」
「良いと思うぜ。酒を飲んで娼館にでも行け。女は高いけどなー。わはは!」
軽そうに笑う門番の兵士を見て、異世界だなーっと思いながら町に入った。
「うーん……」
娼館ねー……興味がないわけではないけど、行ってはダメと出てるんだよなー。
まあ、病気とか怖いし、仕方がないかね。
あーあ、猫ちゃん、帰ってこないかなー。
抱きしめてあげるのに。
気を取り直して、ギルドに向かって歩いていった。
ギルドに戻ると、相変わらず、閑散としていた。
ただ1人だけ客がおり、丸テーブルに置かれている椅子に座り、何かを飲んでいる。
そいつが気になったが、とりあえず、スルーし、ニヤニヤと笑みを浮かべているガラ悪マッチョのところに行く。
「帰るのはえーな。まだ昼前だぞ」
「ゴブリン、怖かったわー」
「おうおう! ゴブリンごときに心が折れたか?」
めっちゃ煽ってくるな、こいつ。
「うーん、これで1200円は割に合わなすぎだろ」
そう言って、魔石を受付の台に置く。
「お! 1匹は倒したのか! いいね! ちゃんと魔石も持って帰ってる」
「お前が言ったんだろうが……気持ち悪かったわー」
俺、そこそこ良い家で生まれ育った日本人だぞ。
「誰もが通る道だよ。どうする? 換金でいいか?」
「魔石なんかいらねーし、金にしてくれ。ついでに1杯くれ」
魔石は色々と使い道があるらしいが、今のところ、俺にはない。
売却オンリー。
「あいよ。ちょっと待ってろ」
ガラ悪マッチョは奥に行くと、樽みたいなコップを持ってくる。
「ほれ、お前の童貞卒業を祝って、俺のおごりだ」
気前がいいな。
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