第016話 またいた
「ありがとよ。今日、市場に行くと、金を落とすから気を付けな」
「昨日、言ってたのはそれかい……」
コップを持ち、飲んでみる。
うーん、不味くはないが、ぬるい……
「冷えたやつはねーの?」
「贅沢言うな。そんなもんねーよ。冷えたのがいいんだったらそこにいるのに頼め」
ガラ悪マッチョが顎を出したので、振り向くと、さっき見たたった1人の客だった。
そいつは黒のローブに黒の三角帽子を被っているいかにも魔法使いって感じの格好をしている女だ。
多分、見た目通り、魔法使いだからこの酒を冷やすことができるんだろう。
だが、そいつは俺達の会話が聞こえているのだろうが、振り向きもせず、興味なさそうに1人で酒を飲んでいる。
「ふーん。その前に換金を頼むわ」
「ああ、そういえば、黄金草を採りにいったんだったな。あったか?」
「ふふふ。我こそは偉大なる占い師であーる! 見たまえ、愚民よ!」
黄金草を入れた袋を提出する。
「だーれが愚民だよ。詐欺師のくせに……」
ガラ悪マッチョは呆れたようにツッコみながら袋の中を見る。
そして、袋の中身を確認し、固まった。
「……お前、マジで偉大なんだな。この短時間で黄金草を8つも採取したのかよ」
ガラ悪マッチョがそう小声でつぶやくと、後ろでガタガタと音が鳴った。
やはり聞き耳を立てていたか……
「これからは先生と呼びたまえ」
「占いって、すげーんだな……」
これは占いとはちょっと違うんだけどね。
「いいから金貨8枚を出しな! 今すぐにだ!」
「お前は強盗か……ちょっと待ってろ」
ガラ悪マッチョが奥でゴソゴソしている間、持っている酒を飲み干した。
「あいよー。お前さんは討伐よりもこういう仕事が向いてるなー。ちょっと考えてやる」
ガラ悪マッチョは台の上に金貨8枚を置いたので俺はそれを取り、財布に入れる。
「なるべく危険が少ないのがいいな。今日だって、ゴブリンが2匹いたらどうなっていたかはわからない」
まあ、占いで悪いことは起きないって出てたけどね。
だから森に行ったのだ。
「わかった。この短時間で黄金草を8つも採取できる人材だ。簡単に失うわけにいかんし、ちゃんと考える」
今まではちゃんと考えてなかったわけね。
やはりあちこちで異世界って感じがするわ。
一言で言えば、命が軽い。
「頼むわ。あ、ごちそーさん。俺は帰るけど、あの美人によろしく言っておいて」
「あの美人はギルドをその日限りで辞めたぞー」
「でしょうね」
領主様やんけ。
踵を返し、歩いて、出口を目指す。
途中、俺をガン見する魔法使いの近くまで行くと、立ち止まった。
そして、魔法使いを観察する。
魔法使いは俺と同じ黒髪であり、目は俺の片目と同じ碧眼だった。
顔立ちも整っており、フィリアが可愛い系ならこいつは美人系である。
だが、ちょっと目が吊り上がっており、気は強そうだ。
そして何より、胸部はローブ越しからでもわかるほどに盛り上がっていた。
「こんにちは」
完全に目が合っているそいつに挨拶をする。
「こんにちは……」
魔法使いは小さな声で挨拶を返した。
「お前が長年探している小説の下巻はこの町の古本屋にあるぞ」
「は? え? は?」
勝手に占い結果を告げると、魔法使いは変な声を出す。
「ただし、あと少しで別の人間に買われるがな」
「――ッ!」
魔法使いはガタゴトと音を立てながら立ち上がると、慌てて、出口に向かって走りだした。
こいつ、足遅いな…………
間に合うかどうかを占うと、幸せそうに本を抱くさっきの魔法使いの光景が浮かんだ。
良かったね。
お礼は後々にいただくよ。
俺も冒険者ギルドを出ると、次の目的である商人ギルドを訪ねることにした。
商人ギルドは冒険者ギルドの近くにあり、早く着いたので中に入る。
商人ギルドは冒険者ギルドと違い、酒場と兼用してはいなかった。
普通に長椅子が並んでおり、役場みたいである。
どっちが上品であるかは一目瞭然だ。
中を観察していると、一人の男が近づいてくる。
「いらっしゃいませ。何か御用ですか?」
その男はどこぞのガラ悪マッチョとは違い、非常に丁寧な言葉遣いで頭を下げてきた。
「この町の商売について、いくつか尋ねたいことがあって来た」
「商売ですか……何でしょうか?」
「俺は冒険者ギルドに所属する冒険者だが、それは副業であり、本業は霊媒師である」
「れ、霊媒師ですか? 失礼ですが、どのような職業で?」
やっぱ知らないか。
「そうだなー。こう、霊的な? 世界の不思議的な? そういうのを解決したり、相談に乗る仕事だ」
「考古学者ですか?」
なんでやねん。
「……めんどくせーから占い師でいいや。町で占いをしたり、相談に乗って金を得たいのだが、これにここの許可がいるか?」
「占い師……失礼ですが、リヒト様でしょうか?」
んー?
「そうだ」
「失礼しました。ゲルド商会のゲルド様より伺っております、どうぞ、こちらへ」
最初からゲルドの名前を出しておけばよかったのか。
「どうも」
丁寧な男に案内され、奥の応接室みたいなところに通された。
そして、お茶を出されたのでちびちびと飲みながら待つ。
しばらくすると、初老の男がどっかで見たことがある美人の女性を連れてやってきた。
んー?
領主様じゃん。
冒険者ギルドを辞めて、商人ギルドに転職したのか……
明日にはここも辞めるだろうけど。
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