第100話 弱
「そういえば、領主様はどうだった?」
ヘイゼルは昨日、領主様のところに仕事に行っていた。
「いつも通りだから特に問題はないわね。まあ、ここの領主様は周りの領主とも良好な関係を築いているらしいし、大丈夫でしょ。あ、でも、リヒトに一度会いたいって言ってた」
あの美人かー。
「何の用?」
「ほら、この前の依頼のやつ。褒賞金をくれるってさ。あとはちょっと話を聞きたいらしい」
おー、そういえば、金をくれるってガラ悪マッチョも言ってたな。
「俺1人? お前は?」
「うーん……奥様もどうぞって言われたし、フィリアかな?」
「いや、どう考えてもヘイゼルさんでしょ」
両方だと思う。
「押し付け合いをするなっちゅーに。あの時の依頼だし、俺とヘイゼルで行くよ。いつなんだ?」
「色々と忙しいでしょうし、いつでも構わないとは言ってたわね。まあ、それにしても早いに越したことはないから帰ったら行く?」
貴族を待たすのはやめた方がいいし、もらえるものはさっさともらっておくか。
「そうだな。帰ったら顔を出しに行こう」
「私はアンナとミケの仕事を手伝おうかなー」
留守番のフィリアは冒険者の仕事をするらしい。
「いいと思う。ついでにミケに焦らなくても大丈夫って言っといて」
「何か見えるの?」
「うんにゃ。見てないから知らないし、気休め。こういうのは焦ってもいいことはないからな。ミケは可愛いから大丈夫だよ」
猫だもん。
可愛い。
「ミケが好きだねー」
「あいつ、からかうとおもろいよな」
「昨日、リヒトさんがアンナと出ていった後、まだ間に合うよって言われた」
「よーし! 海に落ちたのが実は2回なことを皆にバラそ」
猫め!
フィリアがマリッジブルーとかになったらどうすんだ!
俺達はその後、9時になると、買い物に出かけ、マットレス、ソファー、鏡などのあっちでの生活用品を買った。
もちろん、フィリアとヘイゼルは服屋を見に行きたいと言ったから付き合ったし、食料品なども買い込んだため、帰った頃には17時を過ぎていた。
なお、マットレスやソファーは大きくて持って帰れないので配達を頼んだ。
明日の午前中には配達されるように頼んだため、あっちの世界に戻るのはそれ以降となるだろう。
俺達はフィリアが作ってくれた夕食を食べ、まったりと過ごす。
そして、ヘイゼルがどうしても3人でトランプをしたがったため、付き合ってあげたり、フィリアのために色々と翻訳したりと楽しんだ。
翌日、届いたマットレスとソファーをリビングまで運び、見ている。
「ヘイゼル、入るか?」
マットレスとソファーを見比べた後にヘイゼルに聞く。
「無理。ソファーはいけると思うけど、今は他の物が入ってる。マットレスは無理」
うーん、どっちかを諦めるか……
「ソファーは次にするか? 優先すべきはマットレスだろうし」
ヘイゼルの家にもテーブルと椅子はあるので座ることはできる。
でも、マットレスがないとフィリアが眠れない。
「いいんじゃない? 急ぐことでもないし」
まあ、それもそうだな。
ゆっくりでいい。
「せっかくベッドを買ったし、マットレスを敷いてみたいかも……」
その気持ちもわかるわ。
買ったばかりの物は試したい。
「じゃあ、マットレスにしよう。えーっと、持てるか?」
フィリアの身長よりも大きいマットレスを縦に上げてみた。
「5秒ね。合図をちょうだい!」
5秒なら持ち上げられるらしい。
というか、よく考えたら持ち上げなくても転移できるかもしれんな…………
「ヘイゼル、ちょっと検証したいからソファーに触っててくれるか?」
「こう?」
ヘイゼルは俺の腕を掴みながらソファーに触れる。
「そうそう。フィリアー、大丈夫かー?」
「いっせーので、でお願い!」
大丈夫かな……?
人のことを言えないけど、フィリアって、マジで力が弱いからなー……
「じゃあ、行くぞー。いっせーので!」
「んんー!」
フィリアが俺の腕を掴みながら片手で頑張って持ち上げながら動画を見るという高度なことをしていると、視界が真っ白に染まった。
ホント、大丈夫かな……?
白い光が消え、視界が戻ると、ヘイゼルの家のフィリアの部屋に戻っていた。
右を見ると、フィリアがマットレスを抱えているのが見える。
左を見ると、ヘイゼルが心配そうにフィリアを見ていた。
フィリアはマットレスを持っているが、ヘイゼルの左手の先にはソファーがなかった。
うーん、触るだけじゃダメってことかな?
ルールがまったくわからん。
持ってないといけないってルールだったら服やアクセサリーはどうなんだって話だし。
まあいっか。
とりあえず、フィリアだわ。
「フィリアー、大丈夫かー?」
マットレスを支えながらフィリアに聞く。
「大丈夫。重いとか以前に持つところがないから大変だった」
確かに……
「このままベッドに持っていこう。ヘイゼル、そっちを持ってくれ。俺はここを持つ」
「了解」
3人で力を合わせ、マットレスを運ぶと、ベッドの上に敷いた。
「わー、ベッドだー」
フィリアがベッドにダイブし、寝転び始める。
俺とヘイゼルもベッドに腰かけた。
「ヘイゼルのやつでも思ったけど、やっぱマットレスがあるだけでも違うな」
マットレスを手のひらでぐいっと押す。
「ホントよねー」
ヘイゼルが感触を確かめるようにちょっと跳ねた。
「わー!」
フィリアはご機嫌にゴロゴロしてる。
「楽しそうだな」
嬉しそうに転がっているフィリアに声をかけた。
「こんな大きなベッドは初めてだよー。すごい!」
「ほら、良いことあったろー?」
「まあねー!」
うんうん。
可愛い。
「今は……こっちは17時かー」
時計を見て、時間を確認する。
「昼前に戻ったし、そんな時間かー。もうちょっとしたら晩御飯という名の昼御飯を用意するよー」
時差があるからどうしてもそうなってしまう。
「いつも作ってもらって悪いな」
ご飯はほぼフィリアが作っている。
俺とヘイゼルはほとんどやらない。
「いいよー。今日はここに泊まるー。このベッドで寝るー」
「俺も泊まろうかな」
俺もこの広いベッドが気になる。
「一緒に寝よー」
「だなー」
うんうん。
フィリアも乗り気だ。
「だねー」
ヘイゼルも乗ってきた。
「お前は自分のベッドがあるだろ」
「たまにはいいじゃん。このベッドは大きいし、3人でも余裕」
こいつって、地味に寂しがり屋だよな……
「まあいいけど……」
「え? いきなり……? 心の準備が……」
フィリアさんはそっち方面を考えているんだろうけど、とりあえず、今日はないから安心しなさい。
「ねえねえ、ご飯までトランプしようよー」
ヘイゼルは収納魔法にしまっていたトランプを取り出す。
「お前、ホントに好きだな」
「1時間だけだよ?」
俺達は新しいベッドの上でトランプで遊ぶことにした。
相変わらず、ヘイゼルは弱かった……
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




