第漆拾肆話 「瞳の中の星空のような煌めき」
彼女は独りカウンターで酒を呷っていた。
傍から見ると、十中八九、男とのトラブルを酒で紛らわせようとしているように見える。
実際、彼女は男とトラブルになった。
その男とは、良い仲になり、逢瀬も重ね、身体も重ねた。
だが、ここへ来て、彼女は振られた。
彼女は分かっていた。自分が100%悪いと言うことは。
なぜなら、彼が彼女を振るように仕向けたのは、彼女だからだ。
他に男が出来た?違う。
男が嫌いになった?それも違う。
では、なぜ、そんな行動を採ったのか。
彼女は男ではなく、夢を採ったからだ。
彼女には夢があった。宇宙船パイロットになるという夢だ。宇宙を駆け巡るのは子供の頃からの夢だった。
そして、今彼女はその夢に向かって一歩を踏み出した。膨大な訓練と膨大な勉強を終えて、とうとうその夢の第一歩を踏み出したのだ。
だが、そこに彼は居なかった。隣を一緒に歩んでくれることも、夢を追う彼女を見守ってくれることもなかった。
それもそうだ。彼女にも彼の夢を共に歩み、見守ることなんて出来なかったのだから。
彼女は、再び酒を呷った。これでもう何杯グラスを空けたか分からない。
カウンターの向こうに立つマスターも彼女の様子を気には掛けていたが、それでも彼女が自力で立ち直るのを待っているかのように、見守っていた。
「マスター、大丈夫なんですか、彼女。」
「ああ、心配しなくても良いよ。あの娘はあれぐらいじゃ酔い潰れないからね。」
ウェイターの問いに、マスターはにこやかに応える。
「それなら、良いんすけど。ほら、あそこの客が狙ってるみたいなんで、ちょっと心配なんすよ。」
ウェイターが目配せした先には、テーブル席の奥に座って仲間と呑んでいる恰幅の良い男が、チラチラと彼女を見ていた。
「彼女なら大丈夫だよ。」
「いや、彼女の方じゃなくて、男がですよ。」
そんなことを二人が言い合っていると、男が席を立ち、彼女に声を掛けた。
その途端、電光石火の如く、男が床に組み敷かれ、伸されていた。
男の目には星がチカチカと光り輝いていたのだった。




