第漆拾参話 「夜空の下で語る黒い騎士」
私は独り美しい星空を眺めていた。
村外れの高台で草むらに腰を下ろし、満天の星を眺めていた。
天に輝く星々は、命の煌めきを見ているかのように、キラキラと輝いていた。
ここは山間の寒村。殆どの家が廃屋で、住民も僅かしかいないようだが、廃村になることを辛うじて踏みとどまっていた。
私は昼間、村の住人に聞いた話を思い出していた。
星空の美しいこの村が辿った数奇な運命の伝説である。
昔々、国が二つに分かれた時、この地は国境になった。
村はどちらの国の帰属になるかを問われたが、村はそれを決めることが出来なかった。片方は年貢の負担が大きく、片方は人足の負担が大きかった。どちらに帰属したとしても、村が疲弊することは目に見えて分かっていた。
村の総意はどちらにも帰属しないことであったが、山間の小さな村が、軍隊を持つような国の言うことを聞かなければどうなるか、火を見るより明らかだった。
村は蹂躙された。二国の軍隊がこの村に派兵し、衝突した。兵たちは村に火を着けて焼き払い、我が領土であると主張し、居座った。村人たちは命からがら山の奥へ逃げ延びたが、犠牲になったものも多かった。
だが、村人の中で独り勇敢な女性が立ち上がった。彼女は村一番の器量好しで、村の男たちの憧れの的であった。その彼女が、ある晩、本陣に独り乗り込んで大将を籠絡し、首を取った。彼女の器量を持ってすれば朝飯前だっただろう。返す刀で、もう一方の本陣にも独り乗り込んで大将を籠絡し、首を取った。
大将を失った両陣営は、統率も効かず敗走した。
彼女は救世主として、村人たちから崇められた。
しかし、話はそれで終わりではなかった。両国はそれで諦めることはなく、再び軍隊を送って寄越したのだ。彼女は再び、両陣営の大将を籠絡し、首を取った。
村は再び救われたのである。
そして三度目が訪れた。しかし、三度目は上手くいかなかった。大将が両陣営共に女だったからだ。彼女がいくら器量好しでも、女を籠絡することはできなかった。
彼女は捉えられ、村の広場で火炙りに処された。
これがこの村に伝わる伝説である。
そう、黒い騎士と呼ばれた私の曾祖母の話である。




