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遊頁譚  作者: 劉白雨


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第漆拾弐話 「肩越しに見える景色」


 誰かが言った「過去なんて振り返るな」と。

 だが別の人は言う「過去を活かせ」と。

 そして私は思う「過去からは逃れられないのだ」と。


 別に波瀾万丈な人生を歩んできた訳ではない。だが、それなりに紆余曲折のある人生だった。学生時代はテストの点数が悪くて悔しい思いをしたし、部活の試合で大負けして泣き腫らしたこともあった。告白して振られたことは数知れず、付き合った人とも三日と保たなかった。

 社会人になってからも、そんな平凡な人生は変わらなかった。平凡な会社に就職し、平凡な給料を貰い、ご多分に漏れず上司から怒鳴られ、憂さ晴らしに呑み明かすことも屡々であった。


 大器晩成なんだと信じて、早半世紀以上。

 私の人生は、平凡なまま着実に死へのカウントダウンを始めていた。身体を蝕む病は、私を死へと誘う。

 入退院を繰り返すようになり、病院の窓越しに見る季節も何周したか分からない。ただ命を長らえているだけなのかも知れないが、それでも命の火を最後まで燃やそうと、前向きに頑張っていた。


 治療のため、髪の毛はすべて抜けた。ウィッグという選択肢もあったが、別に髪がないことで不便は感じない。敢えて言えば、首回りと頭頂部がスースーするだけである。お陰で、いつも毛糸の帽子が欠かせなくなってしまった。

 それと、肩の辺りが気になるのか、後ろを振り返ることが多くなった気がする。

 時には誰もいない病院の長い廊下があったり、時には街中の喧噪があったり、時には自宅の古い置物があったり、時には検診に現れた看護師さんの笑顔があったりした。

 後ろに何がある訳ではないのに、肩のあたりに何かを感じ、振り返ってしまうのだ。


 後ろを振り返るのは過去を振り返るような行為だから、止めた方が良いと忠告された。

 確かに、私は過去を振り返ってばかりだった。学生時代、社会人時代、結婚してからの日々も、脳裏に浮かぶのは過去のことばかりだった。

 前を向いていれば、きっと良いことが待っている。そう信じる家族や友人は、振り返ってばかりいる私を諫めた。


 病室の扉が開いた。窓の外を見ていた私は肩越しに看護師を見た。

 彼女は私の体温や脈拍を確認し、身体の状態を確認してくれた。

 私は、彼女の肩越しに、何か見えてはいけないものを見たような気がした。

 そこには、元気に手を振る私が居たのだ。



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