第陸拾肆話 「愛は文明の奇跡」
「私たちが無用だって言うの?」
「そうだ。お前たちがもたらしたものは、怠惰と、退廃と、腐敗と、淪落と、ありとあらゆる負の遺産を遺してきたのだ。」
「それは違う。我々がもたらしたものは、すべての憤怒と、激情と、怨嗟と、ありとあらゆる負の感情を取り除いてきたのだ。」
「それは嘘だ。そうやって、誤魔化して、麻痺させて、人々を堕落させたのはあなたたちなのだ。」
「そんなことはない。我々は、慈悲と、慈愛と、博愛によって、芳情を育んできたのだ。」
「そうだ、そうだ。我々がおこなってきたのは、決して無駄なことではない。我々の行動に疚しいものなど微塵もない。」
「それこそ、詭弁である。知恵と理性と秩序によって築いてきたこの文明を、お前たちが破壊したのだ。お前たちの甘言、巧言によって、この世は破滅に導かれたのだ。」
「この世が破滅に導かれただと!我々を愚弄するのも大概にしろ!」
「そうだ、そうだ!我々は破滅になど導いていない!我々は繁栄をもたらしたんだ!」
「繁栄?片腹痛いわ!お前たちがもたらした増殖によって、この世は腐敗し、凋落したのを忘れたのか!」
「腐敗し、凋落しただと。寝言は寝て言うんだな。現に我々のお陰でここまで発展したのではないのか。この素晴らしき文明の繁栄を見よ。」
「何が発展か!何が繁栄か!今や人類は見る影もなく堕落し、破滅へと向かって突き進んでいるではないか!この現状を見ても、まだそんな戯れ言を抜かすか!」
「戯れ言だと!戯れ言を口走っておるのはお主ではないのか。」
「黙れ!この現状を見て、まだそのようなことを抜かすとは、お前たちは病原菌のように、増殖し、心を蝕み、脳を破壊し、人間の理性を亡き者にしたのだぞ。責任逃れをするのもいい加減にしろ!」
「責任逃れだと!お前こそ、何様のつもりで我々の責任を問うているのだ。我々は繁栄のための責任を負うものであり、破滅や破壊など我々の関知するところではない。むしろ、我々の繁栄を妬み、嫉妬の心から、我々の繁栄を破壊しようとしているのはお主ではないのか。」
「フン、またも責任転嫁か。その薄汚い心が、この世界の破滅を呼び寄せ、導き、退廃させたのではないのか。」
「薄汚い心だと、言うに事欠いて薄汚いとは、聞き捨てならぬ。お主の方が薄汚いのではないのか。」
「そうだぞ、ヴァルナよ、そのような心でいるから、この世の秩序が乱れたのではないのか。」
「我に責任を押しつけ、秩序を乱したのは、愛欲にまみれたお前たちの方だろう!我こそが、この世の、この宇宙の秩序を守ってきたのだ。」
「そういう傲慢な態度が、我々愛の神々から疎まれていることを自覚されよ。」




