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遊頁譚  作者: 劉白雨


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第陸拾弐話 「全部終わったこと」


 私の人生は平凡だった。

 別段、取り立てて美女に生まれた訳でもなければ、何かの才能に恵まれた訳でもない。ただ、人並みに勉強し、大学を出て就職し、今の主人と知り合って結婚した。子供も二人、一女一男。とっくに成人して、それぞれの家庭を築いている。

 幸せ?総じて言えば幸せだったのかも知れない。

 旦那と喧嘩することもあったけど、離婚もしなかったし、子供たちが言うことを聞かないこともあったけど、親子の縁を切るようなこともなく、時折親孝行なことをしてくれる。

 他人の人生は良く知らないが、私の人生は総じて幸せだったのかも知れない。


 私は残りの人生を余生として楽しむだけだった。

 最終月経を迎え、人並みに更年期障害となった時、私は余生のためにこの苦しみと格闘した。ストレスが悪いと聞けば、趣味教室の門戸を叩き、食生活が悪いと聞けば、栄養バランスの良い食事を心がけ、料理本や栄養学の本を読み漁った。


 そんな私を他所に、旦那は更年期障害に悩まされることなく、のほほんと生きていた。

 更年期障害は生理が終わっただけのことだと思っているのか、「俺は死ぬまで射精しなきゃ成らないからな。」などと、馬鹿なことを言っていた。

 男の身体のことなど分からないので、それが本当なのかは知らないが、この歳になって浮気の心配をする羽目になるとは思いも寄らなかった。だが、男など所詮そんなものなのかと、どこか達観していた。

 男は一生精嚢に苦しめられるのかも知れないが、私は生理が終わった時点で、これで毎月毎月子宮に苦しめられることはなくなったと、諸手を挙げて喜んだのだ。

 女性としての役目を終え、これからは一人の人間として残りの人生を楽しむ。

 そう考えていた。


 更年期障害も明け、苦しむことがなくなった私は、漸く余生を楽しむ時間を得たのだ。

 そんな矢先である。私は人生の岐路を歩かされることになったのだ。

 私が歩く岐路とは分岐点ではない、高速道路の予告表示のように、行き先別に車線が決まっていたのだ。

 目の前にある道は、右へ行けば楽園、左へ行けば地獄なのである。

 私がこのことを自覚したのは、久々に産婦人科医院のドアを叩いたからだ。


 子宮は私を女性であることから解放してくれたのではなかった。

 ただ、私に苦しみを与え続けることを選んだのだった。

「子宮癌です。」

 医者は私にそう告げた。



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