第伍拾捌話 「真理に年齢はない」
彼らは、この平原でもう何日も対峙していた。
どちらか一方の魔力が尽きるのを待つかのように、互いに一歩も譲らず、睨み合いを続けていたのだ。
片や老獪な伝説とまで言われた老魔術師であり、片や愚直ではあるものの、天才の名を欲しいままにこれまでの地位を積み上げてきた新進気鋭の若き魔術士である。
私には何故彼らがここで対峙しているのか、その理由は分からない。この場に私が来た時には、既に二人は睨み合いを続けていたからだ。
雨も降った。雷も鳴った。風も吹いた。太陽も照り付けた。
しかし、彼らは食事も摂らず、睡眠も取らず、休むことなく、この場で睨み合いを続けているのだ。
おそらく、私のような凡人には理解出来ない魔術を駆使して、生命活動維持をし、見えない戦いを継続しているのであろう。私も魔術士の端くれである。そのぐらいは分かる。
魔術とはこの世の理だと、私は目の前にいる老魔術師に教えて貰った。目の前にあるものすべてが魔術であり、揺るぎなく存在するものであると。
だが、若き魔術士は違った。魔術とは単純明快だが、痛みを伴うものであると言う。彼の言葉を借りれば、世界のあらゆるものが魔術というもので解き明かされる程単純であるが、それを解き明かすことによって知り得た理には、痛みが含まれているというのだ。
私は二人の言葉の真意を確かめたくて、何年も掛けて世界を廻り、見聞を広め、真理を掴もうと足掻きに足掻いてきた。しかし、私が知ったことは、この世の不条理と孤独であった。私にとって魔術とは、山の上にわずかに残った水溜まりを、世界中の人々に分け与えるようなものであると悟ったのである。
それにしても、なぜ二人はこの場所で対峙しているのだろうか。
意見が合わないなら、互いに一歩譲り、無視をすれば良い。それも出来ないなら、話し合いをすれば良いのではないか。それも難しいなら、離れ離れになれば済む話である。
なぜ、魔力を費やしてまで、ましてや危険な状態になってまで、この場で対峙しているのか。下手をしたらどちらかが命を落とす可能性だってある。
私は、そう考えて、二人に止めるよう忠告をした。命の危機であることも、無駄な時間であることも、すべて伝えた。
だが、二人は頑として動かなかった。
私は、悟ってしまった。
これが真理なのだと。




