第伍拾伍話 「最後に言うべきこと」
「ご相談の内容ですが、これでよろしかったでしょうか。」
タブレットで示された内容には、
1、感謝を示す
2、愛情を示す
3、謝罪を示す
4、意思を託す
とあった。
「そうですよね。結局これしかないんですよね。」
「はい。皆様この四つを必ず盛り込まれます。もし、ご希望があれば、他の項目も検討いたしますが、いかがなさいますか。」
「まあ、盛り込みたいことはあるけど、別段入れなければいけないようなことでもないし、この四つでも充分な気がするんですよね。」
「ですが、やはり、心残りになってしまっては、お客様にとってもよろしくないのではないでしょうか。」
「まあ、折角の機会だからね。おたくの言うことももっともだと思うけど。五十年間ろくに口も聞かなかったからね。今更と言えば今更なんだよね。」
「確かに、皆様そう仰いますよね。ですが、お気持ちがあるのであれば、言葉に遺された方が奥様にとってもお客様と連れ添ってきたことに感謝されるのではないでしょうか。もう一つ上の幸福を味わえると思いますよ。」
「そんなものかね。」
「はい、私のような若輩者が申し上げるのも烏滸がましいですが、やはり女性というのは欲張りと申しますか、今は幸福でも、もっと上の幸福、あるいは質の違う幸福を求めるものです。私も主人との結婚生活に幸福を感じていますが、やはり、どこか物足りなさもあって、不満が募ってしまうものです。ですが、主人からいつも聞かないような言葉を貰うと、もうそれだけで、積りに積もった不満が消えてしまうんですよ。まあ、滅多にないことなんですけどね。」
「そんなもんかね。」
「はい、そんなものでございます。」
「じゃ、君の言うとおり、もうひとつ項目を増やして貰おうか。」
「畏まりました。では、仰りたいことを箇条書きで結構ですので、こちらの方にご記入ください。」
「こちらで良いのかな。」
「はい。」
男性は手渡された紙に、一文を添えた。
「私と結婚してくれなくて良かったよ。」




