第伍拾肆話 「洗いざらい告白すると」
私は呼び出しを受けた。
その理由は分かっている。私が長年隠していたあの件について、何かを掴んだから、その真相を問い質そうというのだろう。
だが、そんなこと簡単に言える訳がない。
当然である。だからこそ、これまで何年にも亘って隠し通してきたのだから。
そんな、教えろと言われて、ハイそうですかと教える訳がない。
たとえば重大な犯罪を犯した犯人が、お前がやっただろと当てずっぽうに刑事が問い質してきたとして、すぐにやりましたなんて白状する訳がない。証拠を詰めに詰められて、逃げられない、言い逃れが出来ない状況になって始めて、自白するものである。
犯罪者じゃなくても良い。たとえば重大な企業秘密を知っている人物が、他社の人間にお前の所の新技術について教えろよといわれて、ホイホイ教えるようなヤツがいるか?いる訳がないだろう。
それと同じことだ。
ここは、ホテルのラウンジにある個室である。
目の前には、私を呼び出した男と、その秘書とおぼしき女性が座っており、入り口の扉の向こうには屈強な体格をしたボディガードが二人立っているようだった。
この情況で、私が何も言わずにこの場から逃げ出すことも、はぐらかすことも出来そうにはないが、それでも、私は頑なに答えなかった。
この男と睨めっこを始めて、既に三時間が経とうしているのだ。部屋には空調の唸る音だけが時折響き渡るだけである。この物音一つない静かな空間で、男と睨めっこを続けるのは、苦痛以外の何ものでもなかった。
「お願いします。あなたにとっても悪い話ではないと思いますよ。洗いざらい話していただければ、私たちはあなたをすぐに解放いたしますし、身の安全は私どもが責任を持ってお守りします。」
痺れを切らしたように、女性秘書が答えを促す。
「先程から何度も申し上げているように、私は何も知りません。知らないことを話せと言われても、知らないとしか言いようがないのですよ。では、逆に伺います。私は今朝、何を食べたか教えてください。あなたなら答えられるでしょ。知らないことを答えろというあなたなら。」
私は詭弁を弄して女性秘書を黙らせ、頑なに黙秘を続けた。もしここで暴露してしまったら、おそらく世界が終わるからだ。下手をすると世界中で暴動が起きる可能性もあることを、迂闊に話すなんてことは絶対に出来ないのだ。
それが、単に人気商品の発売延期が中止となった情報であったとしてもだ。




