第伍拾話 「無窮の闇の中に浮かび上がる悪魔」
あなたはご存知だろうか。無窮の闇の恐怖を。そう、誰も彼もが寝静まった真夜中に、突如現れる恐怖。身の毛が弥立ち、心臓が凍り付き、息も吐けない恐怖が押し寄せる。誰もがその恐怖に怯えるが、その恐怖から逃れることは出来ない。
それが、無窮の闇の恐怖なのである。
私は、この言葉を信じ、夜が来るのに怯えていた。
ある晩、私は一人で留守番を頼まれた。両親が急用で出掛けなくてはならず、私は学校もあるため、一人で留守番することになったのだ。
誰もいない自由、デリバリーを取り、好きなテレビを見て、普段出来ないことを思う存分やった。こんなの親に見つかったら、拳骨だけでは済まない話である。
だが、夜も深まり、眠気が襲ってくると、私は無窮の闇の恐怖に怯えた。それは、砂嵐と共にやってきて、私を襲い、どこへともなく去って行くのだと、その時まで信じて止まなかったからである。
「結局何にもなかったんだろ。」
「まあな。無窮の闇っていうのは、テレビが真っ暗になってしまうことなんだよ。放送が終わって、砂嵐の画面になって、テレビを消すと、世界中の音が消えたような錯覚を起こすだろ。それを、無窮の闇の恐怖っていって、子供を脅す方便だったんだよ。」
「だよな。俺も、それ親にやられたよ。夜は怖くてなかなか寝付けないのに、寝ないと無窮の闇の恐怖に襲われるから、無理にでも寝なくちゃいけなくてよ。」
「そう。その時も翌日俺が半泣きでベッドに包まっていると、朝早く帰ってきた親が俺を見て腹抱えて笑ってたからな。今でも、あの時の両親はぶん殴りたくなるぐらい憎たらしいよ。」
「分かる、分かる。マジでそれな。あれには流石に殺意湧くって。」
「だよな。」
「でもさ、俺たちももう、子供が出来たじゃん。」
「もちろん、意趣返しはやってるよ。上の子なんて、毎晩泣きべそかきながらベッド行きさ。」
「ウチも、ウチも。上の子が時々夜中に奇声を上げるぐらい怖がっちゃってな。嫁からはやりすぎじゃない?って言われてるけど、まあ、辞めらんねぇよ。おもしれぇもん。」
「だな。まあ、これが伝統というものだからな。子供たちにはしっかり伝統を受け継いで貰わなくちゃな。」
「そのとおりだ。ところでさ、最近やたら下の子の夜泣きが酷くてさ。夜中に叩き起こされるんだよな。」
「ウチもそう。嫁は疲れて大鼾だから、結局俺がやらなきゃならなくてな。」




