第卌捌話 「手を汚さない」
「院長、本日これで三人目です。」
「またか。いったいどうなっているんだ。」
私はここ数年、産褥熱にかかる女性が増加傾向にあることに疑問を持っていた。産褥熱とはお産をした女性が高熱を発し、最悪死に至る病である。
我が医院では、ここ数年、明らかに右肩上がりに患者数が増えていたのだ。今日のこの三人目を含めると、今年に入って既に三桁を数える事になる。
私は当然部下に調査依頼をし、原因を突き止めるよう指示を出していたが、一向に芳しい調査結果が返ってこないのである。
私は他の病院でも同様の事例があるのかも調べてみた。すると、他の病院でも増加傾向にあり、特に、最新設備を持つ病院程その傾向が強く、自宅や町医者などで助産師では、その傾向が低いというのだ。
私はこのことから、大病院を狙った無差別テロの可能性を考えた。どこぞの病院の妬みから、そんなことをする輩が現れたのではないかとすら考えた。
そこで、対策として、警備を強化し、不審な人物がいれば、即その場で取り押さえ、当局に引き渡そうとしたのだが、そんな不審な人物は結局現れず、結果は変わらなかった。
ただ、私の妄想に過ぎなかったと、思い知らされる結果となってしまったのである。
では、原因はいったい何なのか。
もしや、我々のような大病院では、男性医師も多く、羞恥心のあまり出産で無理な体勢になったり、あるいは精神的な疲労から発熱を起こすのではないか。
だが、そんな仮説も瞬く間に論理の崩壊を見た。まず、女性医師であっても発熱を起こす患者はいたし、精神的な疲労から発熱を起こすことはあったとしても、それが全員でないことは明らかであったからである。
私はそんなこんなで、妄想も含め、色々と仮説を立ててはみたものの、その悉くが論理の破綻を立証するだけで、原因とは結びつかず、結局手を拱くばかりであったのだ。
ある日、産褥熱について研究している男がいるというのを人伝に聞き、藁をも掴む気持ちでその男に調査の依頼を打診した。
男は快く引き受けてくれ、調査に乗り出してくれた。
その調査は念入りに、多岐に亘ったが、結果は簡単な話だった。
我が病院の医師は、死体解剖業務を兼任するため、その際に病原菌が付着し、そのまま助産業務をおこなうため、妊婦に病原菌が移り、発熱を起こしていることが判明したのだ。
男は手洗いを徹底するよう、私に言い含め、この問題を解決して去ったのである。




