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遊頁譚  作者: 劉白雨


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第卌漆話 「理性は羅針盤、情熱は疾風」


 私は〔指南魚〕を見て、ひたすら思索にふけっていた。


 科挙に合格し、役人として取り立てられた私は、全国津々浦々の水利や灌漑事業に駆り出された。私がやることは、水路を設計し、灌漑機構を開発することである。こうして水に関する仕事は私の所へ舞い込んでくるようになった。

 年月を経ると、各地で私は引っ張りダコとなった。私の名が皇帝のお耳に届くことはなくとも、県や府、そして道の地方官僚には知る人も多くなった。

 その伝手だろうか、私は灌漑事業の功績を買われ、海洋航海の技術開発を依頼されることとなったのだ。


 そして、私の目の前には指南魚が鎮座しているという訳である。

 この指南魚、磁針というものが入っており、水に浮かべると、正確に南を向くものである。魚の形をしているため、南を指し示す魚で指南魚と言うのだが、これが海上では使えないというのだ。

 それもそうだ。安定した地面の上ならば良いが、波で揺れる不安定な海上では、指南魚を浮かべる水も安定しない。きちんと南を指し示すことなど不可能である。だが、官僚たちの要求はこうだ。この指南魚を揺れる波の上でも、安定して南を指し示せと言う。

 そんな無理難題に、私は悩みに悩んでいたのである。

 私は様々な試作品を創り出した。しかし、どれも机上の空論で、使用に耐えうるものは出来なかったのである。設計をしては試作品を作り、使用してみては失敗を確認する。無為な日々を送っていたのである。


 燃えに燃えていた私の情熱は、今や燃え尽きようとしていた。

 しかし、神は見放さなかった。私の情熱が神の御心に届いたのかもしれない。いくら波で揺れようと、たとえ船が転覆しようとも、私が開発したこの針は南をきちんと指し示していたのである。夢にまで見た完成の瞬間であった。

 まさに針を捉まえる網のような盤であり、わたしはこれを〔羅針盤〕と名付けたのだ。

 海上でも安定した羅針盤は、私の生涯にとって、そしてこの国の海運にとって大きな業績となった。まさしく私を大海原へと導いてくれる羅針盤となったのである。


 私はこの後もあちこちから要請を受けた。殆どが取るに足らない水利、灌漑の事業ではあったが、私を必要としてくれることへの感謝として、全力を尽くした。

 やがて国力もあがり、この宋という国は大いに発展した。


 しかし、数百年の後、大航海時代を迎え、その羅針盤がこの大地を蹂躙する者たちに利用されることになるとは、この時の私は知る由もなかった。



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