第卌参話 「安らかな幸福」
「天にまします我らの神よ我が同胞の御霊をその御名において守り給え。」
司祭の言葉は虚しくも神々しく、堂内に響き渡った。あちこちからすすり泣く声が聞こえ、時折嗚咽が混じっていたが、司祭の言葉は淡々と進んでいった。
彼らの犠牲は果たして必要であったのか。
私は自問自答した。
本当は必要なかったのではないのか。
答えは出なかった。
此度は多くの命が我々を守るために散っていった。史上稀に見る規模の戦であった。
そして、市民にも多くの犠牲が出た。つまり、守り切れなかったのである。
戦をせずに、早々に降伏をしていれば、今頃は安寧を以てこの地で多くの笑顔が花開いていたのかも知れない。
しかし、私たちは選択をしてしまった。戦うと言うことを。
「彼らが皆平等に、安らかなる眠りにつき、来世での幸福を享受出来るよう、我々は祈念いたします。どうか、天にまします我らの神よ、この願い、聞き届けてくださいますよう、お願い申し立て祀ります。」
司祭の声は、やはり虚しく響いていた。
魂となった彼らの幸福を願うことは、確かに彼らのためであろう。だが、残された我々の幸福はいったい誰が聞き届けてくれるのだろうか。
神は我々の勝利を見放したのだ。そんな神が我々の願いを聞き届けてくれるのか。
私の脳裏には不遜にもそんな考えが過ぎる。だが、私の気持ちは変わらない。
死んで幸せになることより、現世で幸せになることが我々の願いではないのか。
「あなた、またそんな下界の人間たちを観察しているの。」
天界において彼に声を掛けてきた女は蔑むような目をしていた。
「まあ、そう言うな。これも仕事だ。彼らの願いを聞き届けてやらねば。」
「あ~ら。彼らの願いを聞き届ける?聞いて呆れるとはこのことね。」
「何を言う。我らの仕事ではないか。」
「我らの仕事?彼らは好き好んで死を選んだのですよ。叶えてやる道理も、謂われも、ましてや、幸福にしてやるなど、意味もない戯れ言でしょ。」
「そこまで言うか。まあ、確かに彼らは自ら死を選んだ。だがしかし、死後の幸福を願う気持ちは誰にでもあって良いだろう。」
「あらそうかしら。私はそんな人間は、等しく地獄へ送るべきだと思いますけどね。」
彼女はそう言ってケラケラと笑ったのだった。




