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遊頁譚  作者: 劉白雨


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第卌壱話 「悪を看過する」


「止まりなさい。止まらない場合は即射殺します。繰り返します……。」

 空中を滑空してきたドローンが男に向けて、電子音声で繰り返し警告を発している。

 ドローンは一台だけではなかった。ざっと見たところ10台は飛んでいる。

「俺は何もしていない!無実だ!」

 男は叫ぶように無実を訴えるが、ドローンが聞く耳など持つはずもなく、向けられた銃口から威嚇射撃をされた。


「あなたは、公共空間使用免許不保持の容疑がかかっています。速やかにIDを提示してください。抵抗する場合は、蜂の巣になりますよ。」

 現場に駆け付けた私は、犯人の男に向かって意識して落ち着いた声で話し掛けた。


 現在この国では、免許法が改正され、何をするのも免許が必要になっている。〔国民総免許時代〕などと揶揄されるほどで、未就学児を除き、小学校に上がるとまず取らされるのが通学免許である。保育園や幼稚園には親が送り迎えするため、免許はもちろん不要であるが、小学校へは自分の足で通学しなければならないため、この免許が必要となるのだ。

 もし取得出来なかったらどうなるか。当然学校に通えなくなるか、親が送り迎えする必要があるのだ。

 学校を順当に上がり、卒業して社会人になっても免許は必要になってくる。今度は通勤免許だ。通学免許と大差ない内容ではあるが、通学免許にはなかった様々な項目が追加され、取得難易度はかなり上がっている。


 私は、スキャナーを持って、大人しく手を上げている男に近付いた。そして、頸椎に埋め込まれているはずのチップをスキャナーで読み込む。

「ID照合完了。取得免許は以下の通りです。」

 スキャナー画面にはズラズラとこれまで取得された免許が列挙されるはずだったが、そこには、通学免許しか表示されていなかった。つまり、市民なら誰もが取得するであろう通勤免許が表示されていないのである。

 それだけではない、生活免許、職業免許、公共交通免許、などの必要不可欠な免許に加え、最近特に取得人口の多いペット免許や、レジャー免許なども表示はなく、問題の公共空間使用免許など、その文字すら見当たらなかった。


 私は驚愕した。こんな人間がまだこの社会に潜伏していたのかと。

 この免許制度は、犯罪が溢れかえっいたこの国において、軽犯罪も含めて撲滅しようと、大統領令によって導入が決まったのだ。

 国民はIDチップの埋め込みが義務化され、街には監視カメラが溢れかえった。

 こんな社会を作ったのは目の前にいるこの男のような人間である。

 私はそう思っていた。だが、私も人のことは言えない。

 なぜなら、この職に就いているこの私も法を無視してきた犯罪者だったからだ。



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