第卌話 「傷口から溢れた赤い宝石」
彼女は既に13歳となり、中等学校へ上がる歳になっていた。
それにもかかわらず、彼女はいまだに生え替わっていなかったのだ。
一般的な生え替わり時期は6歳から12歳頃までで、もちろん個人差はあるが、中等学校へ上がる頃には、生え替わりがほぼ終わっていることが当然なのである。
両親も彼女の成長が遅いことを心配し、何か病気ではないかと医療機関を尋ねてはみたが、どんなに精密な検査をおこなっても、彼女自身病気らしいものはなく。ただただ成長が遅れているだけという結論を付けられただけだった。
それでも、彼女はいまだに生え替わる予兆すら見せない自分に苛立ちを覚え、両親に冷たく当たることもあった。反抗期といえばそれまでなのだが、両親はそんな彼女の態度にも悩みを抱え、自分たちの育て方が悪かったのではないかと、悩む日々だった。
中等学校では、すでに魔術の授業が始まり、大人の魔石、つまり永久魔石に生え替わった生徒たちは、強力な魔法を扱うことが出来るようになっており、初等学校での授業とはまったく違う授業レベルに、彼女は付いていくことすら出来なかった。
両親との仲にも亀裂が入り、クラスメートとも上手く付き合うことが出来ず、彼女の人間関係は既にズタズタで、生きていることすらも嫌気が差していた。
「額の魔石が生え替わるだけ、たったそれだけなの。」
彼女は額に生えている乳魔石をナイフで抉りたい衝動に駆られるが、それをすれば、永久に魔石が生えることはなく、魔法が生涯使えない廃人へと落魄するしかないのだ。
そんなある日、彼女は自分の額が妙にむず痒いことに違和感を覚えた。
その時既に、彼女は15歳の誕生日を過ぎていた。
数日後、彼女の額には立派な赤い魔石が生えていた。永久魔石、大人の魔石である。
この赤い魔石が生えるのは、魔力値が高く、優秀な魔力使いに現れる特徴であり、乳魔石が抜け落ちて、ぽっかり空いた傷口から生えてきた、この宝石のような赤い魔石に、両親は諸手を挙げて喜んだ。
学校でも、彼女はたちまちクラスの注目の的となり、それまでよそよそしかったクラスの皆が、彼女の周囲に集まり、彼女の新たな門出を祝福したのだった。
こうして、彼女のズタズタだった人間関係は、まるで傷が修復するかのように、綺麗に治ったのだった。
だが、それは赤い魔石がもたらした修復である。
事実、彼女にとって、この人間関係が宝石と成り得たのかは、彼女の表情を見れば一目瞭然であろう。赤い魔石と共に彼女が得たものが何であるかを。




