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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地をつかむ  作者: ろみ
クノーテ共和国お助け編

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それぞれのスタンピード防衛戦 4

 ダレンさんが寝ていたゾーンは丁度身体欠損をした方達が固まっていたそうで、もう私は片っ端から欠損を回復しまくった。

 後の事は後で考える!後でノアとビアンカ様に怒られる案件だとは分かっているけども、もうここでは誤魔化しようも無いしな!出し惜しみせずにガンガン聖女の力を使っちゃう!

 肘から下が無い方、顔に大きな傷を負って視力を失った方、その他いろいろな小さな欠損まで、もう勿体付ける事無く全力を出して元に戻るように願っていく。

 そしてここまでバンバン使っても私の聖女の魔力はまだ余力もあるようで、幼児退行が起きない。続いて、体の痛みが強い方、身体機能を損なう程の重傷を負った方を手当たり次第に回復しまくっていく。

 2つ目の救護室にも移動し、裂傷などの怪我を負ったけど、ある程度自分の身の回りの事は自分でやれる軍人さんゾーンに入って暫くしてだった。

 私の身体はベッドサイドの椅子に腰かけたまま発光とともに幼児退行を起こしてしまった。そんな私にダレンさんがすぐさまブランケットをぐるぐるに巻きつけて、ひょいと抱き上げてくれた。

「うー、あともうしゅこちだったのになー」

「はは、カノン。十分だ。本当にありがとう」

 そのまま満面の笑みのダレンさんに抱っこされる私。

 ダレンさんの抱っこ、安定感半端ない。娘さんがいるんだったもんね。

「さて、後は。小さなカノンは休ませた方がいいだろう。ノアかビアンカが居れば良かったのだが」

「閣下、カノンの事は私達にお任せを」

 ヴィゴ閣下とダレンさんから今日の活動を労われつつ、今日これからどうするかの相談をしていた時、またも聞き覚えのある声がした。

 ダレンさんに抱っこされたまま首を巡らすと、犬ぞり部隊のお姉様方3人が立っていた。お姉様方もお元気そうで良かった。

「さあシュトラウス閣下。カノンをこちらに」

 ニコニコ笑顔のお姉様方にダレンさんから引き渡される私。お姉様方相変わらずいい香り。

 それから私はお姉様方にお世話をされて食事を取り、温泉に入り、あとはご飯を食べて寝るばかりという所までお世話されてしまった。

  そして私の幼児服が何故か新調されていて、あったかぬくぬくの真冬の装いから、あったかぬくぬくには変わりないけど、黄緑色に小花の刺繍があしらわれた可愛いワンピースドレスを装着させられて、その上にフリルが縁取りされた真っ白いエプロンも掛けられる。春っぽくて可愛い。

「戦場の天使だわ」

「なんて可愛い看護婦さんなのかしら」

「春を告げる妖精のようね」

 お姉様方は私を取り囲んで口々に褒めそやしてくれる。

 うん、まあ。お姉様方が満足そうなので、何よりでした。

 そしてお姉様方にちやほやされつつも日がだいぶ傾いた頃、外で戦っていたノア達が戻ってきた。

「のあ!びあんかしゃま!おかえりなしゃい!」

「ただいま戻りました」

「戻ったぞ、カノン」

 ノアに飛びつこうと駆けていったのだけど、途中でビアンカ様に捕獲されて抱き上げられてしまう。

「カノン、私は結構返り血を浴びてしまいましたので、先に風呂を済ませてきます」

「はあい」

「カノン、頑張ったようだな。して、私の言いつけは守れたのかな?」

「・・・・・」

 ビアンカ様が私を腕に抱っこしたまま、綺麗な笑顔でこちらを見下ろしてくる。正直者の私はこれにはウンと言えなかった。

「ははは、アンブロシウスにカノンがどう過ごしていたのか聞いてみるとするか」

「ビアンカ様、しばらくカノンをお願いいたします」

 はっはっはと鷹揚に笑いながらノアのお願いを承諾し、ビアンカ様は私を連れてヴィゴ閣下の元へと歩いていく。ビアンカ様が向かう先でヴィゴ閣下は苦笑を湛えていた。

 ヴィゴ閣下、お願いです。仕方なかったんだってビアンカ様に伝えて欲しい。

 身体欠損の回復は使い所を十分に考えるぞ。

 他国での使用など以ての外だ。

 とかとか。そんな事、言われてたけどさー。

 知ってる人が苦しんでいたら、あれこれ考えてなんかいられないよ。今回はダレンさんだったけど、ヴィゴ閣下でもマルコ様でも、ギデオンさんでも、他の軍人さんやお姉さま方だって。こちらで知り合ってお世話になった人達の事は無条件で助けたいじゃないか。

「まあここはアンブロシウスの掌の上だ。何か障りがあってもアンブロシウスがどうにかする。ここがクノーディアでない事は幸いだったな。さて?何をやらかしたのだ、カノン?」

「えっとぅ・・・。あのーぉ・・・」

 助けを求めてノアを振り返ると、ノアは困ったように笑いながらも私に手を振っていて追いかけては来ない。魔獣の血はすぐに洗い落とした方がいいもんねえ・・・。

 それから私は笑顔のビアンカ様にこってりこってり尋問を受けて、洗いざらい吐かされてしまったのだった。ビアンカ様の笑顔の圧がまあ強い事。お陰でお風呂に折角入ったというのに、背中にじっとり汗をかいてしまった。

 それからお風呂から上がったノアも加わって、私のやらかしの情報共有がされた後、ヴィゴ閣下が首都の軍本部への報告を取りまとめた。

 クノーテ共和国西方辺境にて発生した今回のスタンピードの被害について、ヴィゴ閣下から軍本部へ提出した報告書としては死者無し、負傷者は軽症の者数名のみ。アストン王国護国の勇者でありグリーバレーギルドSランク冒険者ノアと、アストン王国軍前魔術師団長ビアンカ、守護獣白竜の働きにより、想定より遥かに被害を小さく抑える事が出来た、とだけ記載された。私の砦内の活動については、一言も添えられなかった。

 そしてそれから先も、身体欠損を回復する聖女について、クノーテ共和国では噂が全く出回らなかったのである。


 その後3日間、スタンピードの後発も警戒しながら砦でみんなと過ごしていたのだけど、4日目の朝、ヴィゴ閣下より、クノーテ共和国西方辺境におけるスタンピードの完全終息宣言がされた。

 それは丁度私が大人の身体に戻ったのと同じ日だった。

 私が幼児退行を起こしてしまった4日前、白竜は私の存在を見失っていたのだけど、砦付近に待機していた白竜に砦の屋上から挨拶をすると、安心したように砦の広場にごろりと横になってそのまま白竜は不動でその場にとどまっている。

 そして心配していたフェンリルは、ノア達とスタンピードを共闘したその日に元気な姿を確認できた。フェンリルは砦の屋上に居る私達を見てから、踵を返して大森林へと帰っていった。タエさんと過ごした住処へと帰っていったのだと思う。

子フェンリルは親フェンリルに付いて行かずに砦にべったりで、もうこの子フェンリルが大森林で暮らす様子が想像できなかった。フェンリルと軍人さん達を比べたら、子フェンリルは軍人さん達の方を取るんだなー。

 そして大人の身体に戻ってやっと白竜と意思の疎通が図れるようになると、白竜がフェンリルからの伝言を私に告げた。

 なんでもフェンリルは私に用事があり、大森林のフェンリルの住処まで来て欲しいのだという。

 フェンリルが私へ用事っていったい何の事だろう。ちょっと思いつかないけど。

 ビアンカ様とヴィゴ閣下との今後の打ち合せがもう少しかかるので、私とノアはその間に大森林のフェンリルの住処を白竜に乗って訊ねる事にした。


 白竜便に乗って大森林を飛んでいく事少しばかり。

 私達は大森林の中のフェンリルの住処に到着した

 そして、フェンリルの住処にノアと降りていくと、フェンリルが過ごしていた住処の真ん中には青白く輝く巨大な魔石が鎮座していたのだった。

 私の血の気がザッと下がった。

 フェンリルの姿は何処にも見当たらなかった。

「う、嘘、嘘でしょ!フェンリル!」

 私達が砦に到着した朝、不穏な事をフェンリルは言っていた。

でも、スタンピードの波を防ぎ切った後は元気な姿を見せていたし、しっかりした足取りで森へと帰っていったのに。

 私がおぼつかない足取りで魔石に向かい一歩踏み出すと、すかさずノアが私の肩を抱いて歩くのを支えてくれる。

 魔石は、楕円形で平べったいけど、高さはノアの背丈ほどもある。

 私は魔石の目の前までやってきて、恐る恐る魔石へと手を伸ばした。私を勇気づける様にノアも同時に魔石に手を伸ばしてくれる。

 もし、タエさんの魔石と同じような事が起これば、これは本当にフェンリルの魔石なのだ。

 そして私はノアと一緒に、恐る恐る魔石に手を触れたけど、魔石が私達に何かを見せて来る事は無かった。覚悟しながら魔石に触れたので、思わず安堵の息を零してしまう。

 フェンリルの住処にある魔石だけど、これはフェンリルじゃないのかもしれない。

 けれど、そんな淡い期待は白竜によってすぐに砕かれてしまった。

『我が愛しい娘。それは白狼の成れの果てだ』

 私が息を飲んで体を強張らせると、ノアが私を胸に抱き込んだ。

「う、嘘、なんで・・・。だって、この前は普通に元気そうだったじゃん・・・!」

 とうとう我慢できずにしゃくりあげて泣き出す私を、ノアは黙って抱きしめ続ける。

『白狼め、やはり我が娘を泣かせるではないか。・・・愛しい娘。白狼は次代に力の殆どを受け渡し、もはや抜け殻と変わりなかったのだ。普通ならばとっくに天に還っているはずの身で、だが白狼はどうにか自分に定めた最後の役割を果たした。見事であった』

 私がノアの胸の中で泣きじゃくる中、白竜からの話は続く。

『番よ。白狼の住処の中に何か、白狼の身体の一部が残っているか』

 白竜がノアに直接話しかけているけど、これはさすがにノアには伝わらないだろう。

「ノア、白竜が、この住処のどこかにフェンリルの体の一部が残っていないかだって」

「白狼の身体・・・。カノン、あれでしょうか」

 ノアが指差す方向を見れば、フェンリルの地下の住処の壁側、水晶の鉱床の上に、長さ50センチ以上はあるかという乳白色の湾曲した円錐状の物が置かれていた。

『白狼が我が娘の番へと残した。我が娘の番は爪も牙も持たぬ事を白狼は気にしていた。番よ、それで我が娘を守れ。足りなければ我が爪と牙も渡そう』

 確かに、ノアはフェンリルや白竜みたいな爪も牙も持たないけど。

 フェンリルといい白竜といい、やはり人とは違う思考なのだなと思うと同時に、フェンリルなりに私の心配をしてくれていた事を嬉しく思った。少し涙が引っ込んで、フフと私の口から笑いが零れる。

「カノン?」

「ノア、その爪。フェンリルがノアにあげるって。その爪で私を守れ、だって」

「・・・そうですか。素材として使って、何か武器が作れるかケネスさんにでも聞いてみましょう」

「それとね。この魔石は、フェンリルだって」

 ノアは黙って私をギュウと再び抱きしめてくれた。

 この世界で知り合ってから、心細い時、楽しい時、悔しい時、悲しい時。ノアはいつだって私の傍に居てくれる。

『白狼は我が娘を泣かせるのは忍びないと、巣まで戻ってから天に還った。我が娘を泣かせるに変わりは無かったがな・・・。して白狼の用事なのだが、その魔石を次代の元に届けて欲しいのだそうだ』

「この魔石を、子フェンリルに?」

『我が白狼の魔石を取ろうとすれば、白狼の巣は跡形も無く崩れてしまう。白狼はその巣を残したいと願っていた。そして我が娘に魔石の事を託した』

「・・・わかった」

 フェンリルの願いを叶える事なら私達に出来る。

 私は最後にもう一度フェンリルの住処をぐるりと見回す。

 タエさんと過ごしたこの場所で、フェンリルは天に還っていった。フェンリルの心の全てが分かる訳はないけど、タエさんとの思い出が残るこの場所で最期を迎えられた事は、フェンリルにとって幸せな事だったのだと思いたい。


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