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省エネ聖女と覚醒勇者は平穏の地をつかむ  作者: ろみ
クノーテ共和国お助け編

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それぞれのスタンピード防衛戦 2

 最初はただただ待つ時間が続いた。

 防護柵の向こうの空は、昼日中だけど何度も何度も晴天がオレンジ色の輝きを放った。ビアンカ様が魔法攻撃を放ち続けているのだ。

 この待機時間がいつまで続くのかとドキドキし続ける胸を押さえていると、防護柵の通用門から第一部隊の冒険者が勢いよく飛び込んできた。

「もってあと15分だ!第二部隊と交代を頼む!」

「任された!カノン!」

「うん!」

 グイ―ドに呼ばれて、私は冒険者達が固まっている第二部隊へと駆けていった。

 冒険者の皆さんはお互いに腕を組んだり肩を組んだり、体と体を触れ合わせている。その冒険者の塊の中心にはいつもお世話になっているお姉様方、レジーさんとマチルダさんが両手を広げて私を待ち構えていた。

 私は思いっきり二人の間に飛び込んでいく。レジーさんとマチルダさんが私をギュッと前後から抱きしめた。お2人は筋肉質なカッコいい体をしていて、そしてとっても良い花の香りがした。何の精油なのかな。後で教えてもらう。でも今は自分の仕事を全うする。

「皆さん目を瞑ってください!!」

 私は冒険者の皆さんの無事の帰還を祈って支援魔法を炸裂させた。

 目を瞑っていても瞼の裏にも光を感じられる位のまあまあの発光になってしまった。レジーさんとマチルダさんから抱擁を解かれたので辺りを見回すと、一塊になっていた冒険者の皆さんが全員ほのかな光を放っていた。支援魔法を一斉にかける事に成功したようだ。

「ありがとう、カノンちゃん!」

「ありがたい!頑張って来るぜ!」

 私の支援魔法で能力が底上げされた皆さんは、私にお礼を言いながら次々に防護柵の外へと駆け出していった。

「カノン、ありがとうな。行って来る!」

「グイ―ド、気を付けて!」

 最後にグイ―ドが駆け出そうとした時、更にグイ―ドの体をつつむ光が強くなった。気を付けて欲しいと願う気持ちで、さらに支援魔法をグイ―ドに重ね掛けしてしまった。

 グイ―ドはオッと一瞬ビックリした顔をしてからこちらに笑いかけ、それから防護柵の外へと飛び出して行った。

 そして冒険者達と一緒に白兵戦部隊としてやってきたグリーンバレー騎士団も防護柵の外へと猛然と駆け出していった。その足取りの力強さから、誰一人負ける気なんか無いのだと伝わってくる。

「カノンちゃん、戻ってきなー!!」

「はい!!」

 第二部隊を見送っていたけど、私のお腹はギュウギュウ大きな音を鳴らし続けている。私の空腹も我慢の限界だ。ルティーナさんに呼ばれて、今度は救護基地の横に準備されている私の食事スペースに飛び込んでいった。突然忙しいなあ!

 テリーさんとルティーナさん、隣近所の宿のおかみさん達にお世話されながら私は今のうちにと爆食をスタートさせる。だって次は負傷者の治癒魔法のターンの予定だからね。

 そして私のフードファイト第一ラウンドが落ち着いたかという頃、第一弓部隊と可動式バリスタ隊が防護柵の内側に戻ってきた。

 その中には元気そうなラッシュもいてホッとする。

「ラッシュ!お帰りなさい!怪我はない?大丈夫だった?!」

「あー、うん。弓は久しぶりで加減を間違えちまった」

「うわあああ?!」

 ゆったりこちらに歩いてくるラッシュにホッとしていたら、苦笑しているラッシュが左手を上げて、その左腕の内側が打撲痕で広範囲赤黒くなっていた。弓の弦が擦っちゃったの?!!

 私は慌ててラッシュに飛びついて、赤黒くはれ上がった腕の内側を治癒する。

「あ、悪ィ。俺の事は良かったんだぜ?第一部隊は多少怪我したが命に別状はない。ほっといてくれていい。俺等よりも第二部隊は白兵戦だからそっちの方がやべえだろ。聖女の力を温存しててくれ。でも、ありがとな」

「わ、分かった!」

 左腕が完治したラッシュは私の頭を優しくポンポンすると、戦闘員の皆さん用の炊き出しスペースへと歩いて行った。

 ラッシュ、思った以上に冷静!

 防護柵の内側で私1人がテンパってる。

「カノンちゃん!ゴルドエルクのステーキが焼き上がったぞ!」

「いただきます!!」

 そして聖女の力をちょいちょい行使する私はなんどもなんどもフードコートに駆けこんだ。全方向に全力を出していて、何処で力を抜けばいいのか分からない!

 テリーさんからサーブされた黄緑の毛皮を持つ高級ヘラジカ肉のステーキをモリモリ食べていると、私の前にいつ戻って来たのかビアンカ様がやってきて同じテーブルに着いた。

「びあんかはま、むこうはもう、いいんでふか」

「よくやっているな、カノン。まずは食べてから話そう。私にも肉を10枚くれ!」

 ビアンカ様からの注文に、テリーさんはすぐさま大皿にステーキ肉10枚を積み重ねた。胡椒が領主館の厨房から寄付されているので、今回は塩胡椒がたっぷり振られたステーキだ。シンプルな味付けで飽きが来ないから永遠に食べられる気がする。

「ノアと白竜の奮迅はすさまじいぞ。あいつらはまだまだ元気に戦っている。白竜は飛竜を相手に空中でどんどん勝利を収めている。ノアのいる方角では、大型個体が遠目で見て木の上まで跳ね上げられて落下しているのが何度も見えた。仕留めるべき個体が無くなれば、ノアもその内こちらに戻るだろう」

「ほ、ほうでふかぁ」

 お互いにもりもりとステーキ肉を食べながら、ビアンカ様から戦況を聞く。

「第二部隊もなかなか頑張ったぞ。私が出張らなくとも大丈夫だった。獣どもの波は既に収まっている。後は落とし穴に落ちた獣どもが這い上がって来る事を警戒する位かな。素材がダメになっても構わなければ私が焼き払ってもいいのだが、大型魔獣の肉は美味いし素材も高値が付くからな」

「ですよね」

 スタンピードが収束しつつあると聞いて、私も安心してお肉を飲み込んだ。

 聞けば白竜が掘った落とし穴には10メートル級以下の個体の全てが落ちてしまい、しぶとく生き残っている個体が、命が尽きた個体の上に這い上がり崖上に登ろうとする所を第二部隊がチームを組んで何度も崖下に突き落としている段階だという。

 大きな怪我などは冒険者にも騎士団にもなく、今回のスタンピード防衛戦はもう最終局面に入っている。数日かかるかもと言う見込みだったけど、思った以上に終わりが早そう。

 食事が済んだビアンカ様はもう一度防護柵の外へと出て行き、入れ替わりでぽつぽつとちょっと怪我をした冒険者や騎士さん達が防護柵の内側へと戻って来る。

 まだスタンピードは完全に収束していないので、私は遠慮する冒険者や騎士さんをとっ捕まえては治癒魔法をかけ、ご飯をモリモリ食べ続ける。私の魔力はあとどれくらい持つのか、全く分からないなー。

 さっきビアンカ様に確認してもらったら、8割ほど残っているぞと呆れた感じで言われてしまった。8割残っていると言われても、私もその残量がどんなもんなのかも分からないんだけどね。

 怪我が治った冒険者や騎士さん達は再び防護柵の外に出て行き、また入れ替わりでちょっと怪我した人達が柵の内側に戻って来る。

 そんな状況がしばらく続いて後、ステファンさんがやっと防護柵の内側に帰ってきた。

「手応えも無くなりましたので、戻らせていただきました」

「お疲れ様でしたー・・・」

 兜を脱いでニッコリ笑うステファンさんの首から下は、返り血で赤黒く染め上げられていた。まさに血濡れの貴公子といった所。戦闘狂のステファンさんも戦線を退くんだから、もう本当にスタンピードは終わりなんだろうな。

 戻って来て治療も終わった人達は、炊き出しスペースで和気あいあいと食事を取っている。

 夕暮れ時になって、最後にグイ―ドが防護柵の中に戻り、スタンピードの第一波の収束を告げた。

 太陽が沈む前にはノアも帰って来て、白竜からも飛竜を制圧したと報告があった。

 まずは大きな被害が出ることも無く、初日でスタンピードの第一波を防ぐことに成功したのだった。



 そしてそれからがまた、辛い待ちの時間だった。

 スタンピードの第二波、第三波が来ないとは言い切れない。その為、私とノア、ビアンカ様と白竜はもうしばらくエスティナで様子を見なければならなかった。

 その間、ただ待っている訳ではなく、防護柵前の落とし穴に落ちた大量の獣の素材の回収、ノアが大森林内で切って回った大型個体の回収。白竜が制圧した飛竜の内の命を落とした個体の回収がせっせと進められていった。

 今回のスタンピードに向けて、ノアはジュリアン王から国宝レベルの大容量マジックバック(ウエストポーチタイプ)を貰った。なんでもその内容量は限界収納量が分からないらしく、現代の魔道具師では作成不可能のレアアイテムなのだそう。それをあっさりとジュリアン王はノアにくれるし、ノアはノアで淡々とお礼を言って無造作に腰に取りつけていた。

 傍に立っていた宝物庫の管理担当の文官さんが一人青い顔を強張らせていて、ごめんねーと思った。国宝の価値なんて私もノアも分からないからね。でもマジックバッグは使うと中で時間が停止するので、大量のお肉の保管に便利なんだよねえ。

 白竜が落とし穴の中に降りて事切れた獣達をひょいひょいと崖上に放りなげるのを、ビアンカ様も手当たり次第にマジックバッグに詰め込んでいく。

「ジュリアン王には肉や素材を好きにしていいと言われている。騎士団員達の身体を作る為にも肉は必要だからな」

 そう言いながらビアンカ様は10メートル級のニードルボアを3匹続けてマジックバッグに吸い込んでいった。10メートル級のニードルボアは、2年前のスタンピードでノアが討伐して大騒ぎになったんだよね。それが今では周囲を見回してもニードルボアに大騒ぎする人は居ない。慣れってすごいよね。

 私が落とし穴からだいぶ離れて獣の山を崩していくビアンカ様を見守っていると、白竜に乗ったノアが、大型個体の回収が終わり戻ってきた。

「今回の最大級の物は、クノーテ共和国のフェンリルに迫る大きさの飛竜でしたね」

『奴らは長く生きるゆえ、もともと大きくなる。その上さらに、ここしばらく聖女の穢れを取り込み続けてきたのだからな。苦しんだだろうが、もはやその苦しみからは解放された』

「そっか・・・。ノアも白竜も、お疲れ様。白竜、もうエスティナにスタンピードは来ないかな?」

『次に聖女が祈りを捧げるまでは』

「よし!ノア、白竜、ビアンカ様!もう少し力を貸してください!」

『よかろう』

「喜んで」

「任せておけ。少々暴れ足りなかったからな。まだ雪に覆われた北の地ならば、野山が焼けることを気にする必要も無かろう」

 私のお願いに三者が三様に返事をくれた。

 私達は旅の準備は既に終えている。

 その日の夕暮れ時に私達は白竜の背に飛び乗ると、白竜はクノーテ共和国西方の砦へ向けて、まるで弾丸のようにエスティナを飛び出した。

 そしてその翌朝、まだ朝日も顔を出さないクノーテ共和国の西方辺境の砦へと私達は到着した。


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