二十一
僕の前に立ちはだかったY下は、見事に男子たちのネタにされた。
あんな台詞、昼ドラの見過ぎでしか出てこない。彼女は自分に酔っているのだと、ありとあらゆる男子がネタにした。しかしそれは僕がしたかったことではない。
K岡が最後に僕に渡した手紙は『ソーリーレター』という名前が付けられ、男子の間でその内容がばらまかれるようになった。
結果として、僕はK岡の事を辱めることに成功したわけだ。
ある日の道徳の時間。
その日の授業は男女のラブレターを取り扱ったものだった。そのため、僕は『ソーリーレター』を班の全員に見せて「これやん!」と言っていた。
そうして騒いでいたら、担任のR子先生がそれを取り上げた。以降それは僕の元に帰ってこなくなった。
解放された僕は、偶にK岡の事でいじられていたけれど、しかし少し前よりかは心がすっかり楽になっていた。
今思えばそれは、いじめに該当したのかもしれない。
「二宮君、放課後に少し時間が取れますか?」
十一月のある日、教室に久しぶりにS野先生が現れた。先生は、何だか変に優しい顔をしていて、その顔にはいろいろな感情が含まれているのだと察することが出来た。
放課後、僕は生徒指導室に呼ばれた。
僕とS野先生の二人きり。椅子に腰かけている僕の膝位しかない高さの机で向かい合った。
「久しぶりですね、二宮君。お父さんは元気?」
僕の父はその地域では少しだけ有名な教師だった。そのため、何度か先生と話すときに父の話題が出ることがあった。その度にうんざりしていたけど。
「まあ、元気だと思います。」
「そうですか。二宮君は勉強の調子はどう?」
なんて、他愛もない会話がしばらく続いて、ようやくS野先生は本題に入った。
「二宮君はK岡さんと仲が良かったんだよね?」
「……まあ、はい。」
「彼女からね、二宮君にいじめられているという報告があったんだ。」
それを聞いた瞬間、再び怒りがこみ上げる。しかし目の前にいるのはS野先生だ。ここで怒ってどうする。
一旦怒りを鎮めて、S野先生の話に耳を傾けることにする。
「単刀直入に聞きましょう。二宮君はK岡さんをいじめたと思いますか?」
そんなの、自明で――――
「……はい。」
な。
どうして。
口が勝手に動く。
「もしかしたらいじめているのかも…と思う事はありました……」
違う違う。違うだろ、二宮。どうして言えないんだよ。
「…そうか。でも、こうして反省出来ているんだから大丈夫だね。」
なんだよ、僕は悪者なのか。僕もそう思ってるのかよ?なんでだよ。
「二宮君は優しい子ですから、K岡さんとの付き合い方に今後は気を付けてね。」
S野先生はそう言うと立ち上がり、生徒指導室から出ようとした。
S野先生も僕が悪いと思ったまま、この会話が終了してしまう。
それは――――嫌だ。
「待ってください。」
その声は、裏返った。目の縁から熱い液体が流れていた。僕は泣きながら、S野先生の事を引き留めた。
「全て………全て話します。」
嗚咽を漏らしながら、言葉をひねり出す。
「先生、教えてください。」
その姿に、S野先生は動揺する。
「僕が悪者なのかどうか。」
言い切ることが出来て、僕はちょっとだけ安堵した。




