04
「【よし、キーゼ! まずはあの的に向かって風の刃を飛ばしてみてくれないか】」
まずはわかりやすく、斬撃から試してみる。
呼びかけに応えるように、キーゼは俺の体の周りをクルクルと移動する。
そして、ヒュッという音が俺の目の前から聞こえてきた。
的に変化は見られない。
「【ありがとキーゼ。ちょっと的の様子を見てくるか】」
的の状態を見てみると、的の中心から横向きに切り傷が付いていた。
「【いいねいいね。どんどん試してみよう】」
的が真っ二つになるのを期待していなかったと言えばウソになる。
しかし、焦る事はない。
今日は何が出来るかの検証を進めるのを優先する。
威力調整が出来るかどうかは、斬撃なんて危険な魔法で試すのはリスクが高い。
それに、初日から無茶な事を頼むのもキーゼに悪い気がする。
「【次は、俺の体に風を纏わせてくれないか】」
全身に風を感じる。
まずは軽く走ってみる。
何か色々な方向から風に吹かれて、バランスが悪い。
クーネネさんのように高速で移動するためには、別の方法が必要なようだ。
「【ちょっと違ったか。これは今後の課題かな。次は──】」
「ねぇ、アタシたちの出番はまだ?」
おっと、確かにここまでは俺一人で出来る検証だ。
「悪い悪い。まずはどんな感じなのか肌で感じてみたくてさ」
「精霊魔法は珍しいから、見てるだけでも楽しめるけどね」
「アラタの髪がボサボサになったのは何を試してたのかしら?」
「あれはクーネネさんみたいに高速で移動できないかなーって思ってさ」
ここまで試した内容を二人に伝える。
そして、この後協力してもらおうと思っていた内容も伝える。
「そういう事。わかったわ。どっちから試す?」
「セッちゃんからでいいよー」
「了解。【キーゼ、こっちの茶髪が矢を放つから、風の力で威力が上がるように補助してあげてほしいんだ。頼んだ】」
セレイナが半身になり弓を構えると、彼女の髪が激しくなびく。
放たれた矢は、見事的を貫通した。
「補助の効果は実感できたわ。狙いも狂わなかったし、凄いわね。ただ……出来れば、矢だけに風が当たるように調整してくれると嬉しいわ」
そう言いながら、セレイナは手櫛で髪を整えている。
キーゼに伝え、何度か試すとセレイナも納得の仕上がりになった。
「これにミリーの【コトワザ】も乗ると考えると、相当威力が上がるんじゃないか?」
ただでさえミリーリアの【コトワザ】で、セレイナの矢の威力はおかしい事になっている。
そこに、キーゼの補助も加わったらどうなるのか。
正直楽しみだったりする。
今まで、俺は補助を受けるだけだったが、今日の検証で俺も補助が出来る事がわかった。
三人の連携技が出来たと言ってもいいだろう。
こうしてパーティーの総合力が上がっていくのを目の当たりにすると、どうしてもワクワクしてしまう。
「そうね。先生に頼んで鉄の的を用意してもらおうかしら」
見てみたい気もするが、予算と修復難易度を考えるときっと却下されるだろう。
「それじゃ次は私だね」
ミリーリアと試したかったのは、土煙でも【火のない所に煙は立たぬ】が発動するかどうかだ。
今は煙玉を使ってい煙を発生させている。
難点は範囲が限られるのと、煙玉が消耗品なので費用が掛かるという点だ。
土煙でも代用できるのなら、範囲に自由度が生まれ、費用を抑える事が出来る。
土煙がダメだったとしても、風で煙の流れをコントロールできれば、火の範囲をコントロールできるかもしれない。
まずは土煙から試してみよう。
「ねぇ、アラタの頭の中はどうなってるの?」
「ホントに何を考えてるのかしら」
二人に何を言われても、俺は今回の検証結果に満足しているのでノーダメージだ。
「【キーゼお疲れ! 最高じゃん! 俺は大満足だ!】」
土煙では火は起きなかったが、煙玉をコントロールするして、火の範囲を操作する事には成功した。
ただ単に火の範囲をコントロールするだけでは物足りなかったので、キーゼにお願いして、長い姿の方の龍になるように煙をコントロールしてもらった。
そこに、ミリーリアの【火のない所に煙は立たぬ】を加えると、火龍の出来上がりだ。
難点は、煙玉の消費量が増えるという点だが、トレントの素材で潤っている今の俺には関係ない。
煙玉を買い占めに行こうと決意するには十分な出来事だった。
次の課題が楽しみだ。
◆
近場での課題を受けようという事で、俺たちはウルフの毛皮の納品依頼を受けた。
その帰り道、歩きながら反省会中である。
「結局、アラタの火龍? は見た目だけだったわね」
「でも、煙で視界が遮られることもなかったし、良かったと思うよ?」
セレイナが言うように、キーゼに頼んで風の力で火龍を模したところで、威力が上がるという事はなかった。完全なロマン技だった。
ミリーリアがフォローしてくれているが、火龍の姿に拘らず、風で煙の範囲を指定すれば視界の確保も出来る。
「火龍は一回忘れよう。範囲をコントロールできるってのは、かなり有用ってのがわかったしいいんじゃないか?」
ウルフの群れを囲むように火を起こし、一ヵ所だけ開けると、ウルフはそこから一体ずつ飛び出してきた。
出てくる場所、数がわかれば後はセレイナが矢で射抜くだけの作業だった。
「そもそも、素材納品系の依頼と火系統の相性の悪さと言ったら」
「真価を発揮するのはダンジョン探索の方よね」
「だな。そっちなら何でもアリだからな」
しばらくは実戦でどういう結果になるかも試しながら、精霊魔法の検証を進めるという事で落ち着いた。




