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03

 アルさんの所へ行くも何の成果も得られなかったが、逆に俺の決意が固まったとも言える。


 事が起こってからの対応になるが、それを撥ね退ければ良いだけだ。


 そのためには、今の俺に何が出来るか見極めなくてはならない。


「凄いやる気だねー」

「精霊魔法の検証だけでお腹いっぱいよ? 他にも何か思いついてるとか言い出さないわよね?」


 ミリーリアとセレイナの二人は、約束通りの時間に学園の訓練所に現れた。


「契約した精霊の属性が判明したんだ。ひと手間省けたって感じかな。選択肢が増えるのは良きかな良きかなって所だな」


 二人には気負わず、普段通りに過ごしてもらいたい。

 俺の心境に少し変化があったのを、違う形で捉えた二人にはこのまま勘違いしていてもらう事にする。


「やっぱりさ、新しい事を試すってのはワクワクするよね」

「確かに。ミリーの気持ちが痛いほどわかるな」

「ホントに程々にしてよ?」

「精霊魔法は未知の領域だからなぁ。確約は出来ない!」


 他愛もない雑談が出来る程度には、心に余裕が生まれている。


「ところでさ、契約した精霊の名前は何て言うの?」


 言われてみれば。


「名前かぁ。あるのか? 聞いてみるかな。【風の精霊さん、ちょっと出てきてもらえるかな?】」


 俺の呼びかけに応じて、風の精霊が姿を現す。

 だが、昨日より動きにキレがない。

 風の精霊はゆっくりとした動きで俺の肩に乗った。重さは感じない。


「おぉ! これが精霊なんだ! 初めて見た!」

「精霊って実在したのね。アタシも初めてみたわ」

「それで、名前は何て言うの?」

「ちょっと待って。 【名前を教えてくれないかな】」


 ナールルと契約している火の精霊はカガリビという和風な名前だったので、風の精霊も似たような系統だと予想する。


 いくら待っても返事がない。

 俺の右肩と左肩をゆっくり移動するだけだ。


 正面に立つ二人の視線が左右に動くのが少し面白い。


「クッコロサンみたいに、何か見えない文字で表現しているとか?」


 しびれを切らしたミリーリアがそう問いかけてくる。


「そういう事でもないんだよな。【もしかして、まだ言葉を伝えられない? そうなら右肩の上で跳ねてみて】」


 風の精霊が、俺の右肩の上で上下に動く。


「【名前はある? あればそのまま動いてて。ないなら左肩で跳ねてほしいな】」


 ゆっくりと俺の左肩に移動し、上下に動く風の精霊。


「名前はないらしい。カガリビさん……ナールルが契約している火の精霊が言うには、この風の精霊は生まれたてらしいんだ。だから名前がないのかも」

「そうなんだ。じゃあ、名前を付けてあげたら?」

「そうね。アラタも最初は種族で呼ばれてたり、安定してなかったのよね」

「セッちゃん、そんな昔の事はどうでもいいと思うんだ」


 二人はワイワイ騒いでいる。


 名前かぁ。どうしようか。


 確か俺ってシュバルツって呼ばれてたらしいんだよな。ステータス用紙にもそう書かれてるし。


「シュバルツジュニアってのはどうだろうか?」


 ミリーリアとセレイナの冷たい視線が突き刺さる。

 少しふざけ過ぎたか。

 肩に乗っている風の精霊も動くのを止めた。お気に召さなかったようだ。


「冗談だよ」

「真面目に考えなさいよ。早く決めないと検証時間がどんどん減っていくわよ」


 そんな事言われてもな。

 真面目に、それも早く決めるとか。


 シルフ……は違うな。

 シルフィ……これも違う。

 ウィンドだと、そのまま過ぎる。


 カガリビさんが和風な感じの名前だし、風の精霊も和風な感じにした方がいいか。


 北風……だと寒そう。それに、この系統は何か違う。


 難しいもんだ。


 確か、時津風(ときつかぜ)が追い風とか、そういう意味だった気がする。

 気がするが……どこかで聞いたことがある。

 と、するならば……。


 トキ……流れに身を任せそう……。

 キッカ……三千メートルくらい走りそうだ。

 キーゼ……キーゼ……。


 名前の響きは悪くない。

 和風かと問われるとノーだが、時津風から取っていると考えたら和風と言えるかもしれない。


「キーゼってのはどうだろう? 【キーゼって名前はどう? 気に入ってくれたなら右肩で跳ねて】」


 風の精霊は右肩の上に移動した。だが、跳ねてはいない。


「響きは悪くないわね」

「何か由来はあるの?」


 名前の由来を二人と、一体(?)の精霊に説明する。


 風の精霊──キーゼは俺の右肩の上で上下に動き始めた。


「いいんじゃないかしら?」

「いいね! これからよろしくねキーゼ」


 満場一致で風の精霊の名前はキーゼに決まった。


「んじゃ決まり、だな。【キーゼさんこれからよろしくな!】」


 俺がそう言うと、上下に跳ねていたキーゼの動きに元気がなくなった。


「えぇ……。なんでだよ……」

「アラタ、さん付けはちょっと他人行儀過ぎない?」


 それもそうか。


「【悪い悪い。キーゼ、改めてよろしくな!】」


 満足してくれたのか、跳ねる勢いが増した。


 それにしても、会話できないというのは思ったより大変だ。

 今ならサーナさんがピーちゃんと会話したいって考えるのが良く分かる。


 会話とまではいかないが、「はい」と「いいえ」くらいならこの方法で意思疎通できたって伝えるのも悪くないかも。

 クッコロサンの選択肢を見ていなかったら、この方法はスムーズに思いつかなかったかもしれない。


「キーゼの名前も決まった事だし、検証スタートさせてもいいか?」

「いいわよ。とは言っても、アタシたちはキーゼは何が出来るか知らないから、アラタのやりたい事に付き合う感じになるわよ」

「だね。キーゼって何が出来るの?」


 何が出来るか、か。


「知らん」


 俺がそう言うと、セレイナは冷たい視線を俺に向け、ミリーリアは生暖かい目で見てくる。


 何が出来るかを知るための検証だろ!


 大聖堂からここに来るまでに、何をしてもらうかある程度イメージは出来ている。

 

 まず、風の精霊魔法で、敵を切り刻むというのを真っ先に思いついた。


 現状、俺は打撃、セレイナが矢による刺突、ミリーリアが……古代魔法【コトワザ】。

 ここに、斬撃が加わると、バランスが良くなる気がする。


 他にも、前にセレイナが言っていた、風魔法を組み合わせて矢の軌道、威力を調整するのもアリだろう。

 クーネネさんは、風の精霊と契約を結んでいるようだった。彼女の精霊魔法を参考にして、俺自身の強化も出来るかもしれない。


 これらの考えは、あくまでも俺が勝手に思い描いているだけだ。

 何が出来て、何が出来ないのか。

 出来るけど、やりたい、やりたくない、苦手、得意。


 様々な事情があるだろう。

 今回の検証でどこまでキーゼの事を理解できるか。


 さぁ、検証開始だ。

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