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02

「【提案、ですか】」

「【貴方にとって悪い話ではないと思います。そして、私達にとっても】」


 そこまで言うなら聞くだけ聞いてみようと思う。


「【貴方にこの子と契約してほしいのです】」


 ふよふよと空中に浮いている、火の玉のような精霊がそう言うと、横に移動した。

 その背後から、白く発光している小さい光の玉が現れた。


「【この子は生まれたばかりの精霊です。まだ誰とも契約しておりません】」


 魅力的な提案としか言えない。

 ただ、気になる事もある。


「【その精霊と契約するのは構いませんが、そちらにメリットはあるのでしょうか】」


 俺が、この生まれたての精霊と契約することで、精霊側にどんなメリットがあるのか。


「【我々の言語を理解できる貴方と行動を共にすれば、この子も他の種族が悪人ばかりではないと学んでくれるはずです】」


 なるほど。

 脅迫されて力を貸すのが当たり前ではないという事を伝えたいと。


「【そして、ここからはお願いになるのですが……】」


 まずは聞いてみよう。


「【貴方が元の世界に戻る時、この子を自由にしてあげてください。何者にも縛られず、ひっそりと存在していけるように】」

「【確認ですが、あなたはナールルと契約している、と】」

「【はい】」

「【契約にはかなりの強制力があり、ほぼ自由がない?】」

「【自由、というのがどの程度のものかはわかりませんが、協力を要請されたらいかなる時でも従う契約になってます】」


 あの詠唱は協力を依頼していると言えるのだろうか……。


「【契約を交わさないで、誰もいない場所に隠れるというのは?】」

「【誰かと契約を交わさないと、我々は生まれた場所からほとんど動けないのです】」


 つまり、俺と契約を交わさないと、この学園で一生過ごす事になると言っても過言ではないと。


「【または、あの女がこの子の存在に気付いて契約を交わすか、ですね】


 そんな二択になるのか……。

 提案を断るという選択肢はないな。


「【その提案を受け入れるのはいいのですが、そちらの……その子? の意志はどうなのでしょうか?】」

「【この子は人見知りな所がありますからね。契約を交わすことに問題はありません。私が保証します】」


 そういうものなのか。

 契約に詠唱のようなものが必要か聞いたが、特に必要ないそうだ。

 当事者同士の意志が大事なのだとか。


 この火の玉精霊は、ナールルと契約を交わしたかったのかというと、そういう事ではないのだとか。

 契約内容は秘密だが、ナールルの家系に付き添っているそうだ。


「【そういえばまだあなたの名前も、相棒になるこの子の名前もきいていませんでしたね】」

「【名前……ですか。そうですね、久しく呼ばれていませんが、遠い昔、カガリビと呼ばれていました。この子の名前はまだないので、貴方にお任せします】」


 カガリビさんに丸投げされてしまった。

 そして俺も名乗っていない事を思い出す。


「【コトエダアラタが、責任を持ってこの子と過ごしていきます。先ほどのカガリビさんとの約束を違える事もないと誓います】」


 俺がそう言うと、光の玉が近づいてきた。

 そして、俺の顔の周りをゆっくりと周る。


「【ありがとうございます。その子をよろしくお願いします】」

「【ところで、カガリビさんとこの子の関係を聞いても?】」

「【私の方がその子より先に存在しているというだけです。それ以上でもそれ以下でもありません】」


 親子とかでもないらしい。

 

「【では、私はこの辺で。その子の事、くれぐれもよろしくお願いいたします。ついでに、あの女に正しい精霊語を教え込んでもらえると、私は喜びます】」


 そう言い残して、カガリビさんは姿を消した。


 最後にあんな事言って消えるとかズルくないか?

 どうしたものか……。



 ◆



「って事があってさ」


 翌日の朝食時、ミリーリアとセレイナに精霊と契約したことを伝えた。


 二人は固まったまま動かない。


「今日の午前中はアルさんの所に行きたいから、午後から予定がないなら訓練場で検証に付き合ってくれないか?」


「もう驚くことはないと思ってたんだけど……」

「やっぱりエルフが絡むとやる気が出るの……?」


 微妙に話がかみ合わなかったが、二人は午後から検証に付き合ってくれることになった。



 大聖堂に着くと、サーナさんが出迎えてくれた。

 昨日、不在だったことを謝罪されたが、気にする必要はない事を伝える。


 前回送還された部屋へ向かう途中、学園生活について聞かれたので、さらっと何をやっているか話した。

 俺の表情から、楽しい生活を送れていると察したサーナさんは、どこか満足そうだ。



 アルさんの所へ行くのも、もう慣れた。

 そして、アルさんが多くを語らないというのも、もう慣れた。


 アルさんの空間に送還されたが、本当に何も情報を貰えなかった。

 トレントの異常発生と世界の危機に関係があるのか聞いた際、アルさんは一瞬何か言いかけたが、結局うやむやにされてしまった。


 関係ない、と言い切らなかったと考えると、無関係ではないのだろう。

 それを俺に伝える事が出来ないのだろう。

 教えてもらうのではなく、上手く誘導して察するしかなさそうだ。


 情報をもらったと言えるかはわからないが、契約した精霊は風の精霊のようだ。

 ステータス用紙に、【精霊魔法・風】の表記が増えていた。

 確かに知りたかった事ではあるが、本当に知りたい情報を知る事は出来なかった。


 なかなか思うようにいかない。

 そんな考えが表情に出ていたのか、戻って来た俺の顔を見たサーナさんに優しく声を掛けられた。


「もしも世界の危機、そして勇者様の帰還方法でお悩みなら、お気になさらないでください。その件は、本来私たちが解決しなければいけない事ですから」


 サーナさんは俺に、自分の事だけを考えても良いと言ってくれる。


「そうですか……。悩んでいるように見えましたか」


 いくら悩んでも仕方がない、か。

 俺に出来るのは、世界の危機に巻き込まれても対応できるように、少しでも強くなることくらいなものだ。

 手の届く範囲で、後悔しないように、出来る事をやるだけか。


 精霊魔法を使えるようになったし、確実に選択肢は増えているだろう。

 元の世界に戻る時、笑って別れられるように、今出来る事をやるだけだ。


「ありがとうございます。元々ミリーの力になるっていうのが俺のやりたい事ですので、その軸だけはブラさないように気をつけます」


 難しく考えるのは止めだ。

 どんなことがあっても撥ね退ける事が出来れば良いだけだ。


 そう決意した俺は、ミリーリアとセレイナが待つ学園へと戻り、訓練所へと足を運んだ。

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