01
学園に戻った俺たちは、依頼が無事終了したことを担任のヘッグ先生に伝えた。
ヘッグ先生には、商人ギルドから今回の依頼の進捗状況が逐一届いていたらしく、俺たちの報告と齟齬がないかの確認をしているようだった。
「それと、隣のエルフの国の森でトレントが異常発生しているらしいです」
「情報源は?」
クラスメイトである金髪ドリルエルフの姉、クッコロサンに偶然遭遇した事も合わせて伝える。
「そうか、わかった。学園長にも間違いなく伝えよう」
報告を終え、これで課題を一つ達成したことになる。
「で、次はどれを受けるんだ?」
職員室に寄ったついでに、依頼票を物色している二人に声を掛ける。
「どれもピンとこないわね」
「人気のある依頼は皆もう行ってるから仕方ないよ」
「トレントの素材で結構稼いだから、稼ぎの効率は考える必要はないし、堅実に行くのか?」
「そうねぇ……評価もそれ程悪くないはずだし、今後依頼票が増える可能性もあるから、近場で数をこなす方向でいいんじゃないかしら?」
「そうだね。ちょっとゆっくりしてから、また動こうか」
「了解」
今後の方針を決めた俺たちは、掲示板を後にし、寮へと向かった。
翌日、集合場所の食堂でいつから活動を再開するかの話し合いを行う俺たち三人。
「来週から本格的に動くことにしよっか」
「それくらいが丁度いいわね」
特に反対する理由もないので了承した。
「二人は休養中に何かやる事あるのか?」
「そうねぇ、少し疲れたからゆっくりするっていうのが主な過ごし方かしらね」
「私も似たような感じになるかな。アラタは?」
「特に必要な物もないし、俺も同じようなもんだな。教会に顔を出すくらいかな」
「じゃ、基本的に自由行動で良いよね。朝食か夕食の時に何かあればって感じで」
「了解。んじゃ俺はさっそく教会に行ってくるかな」
アルさんに会うため、大聖堂へ行ったのだがサーナさんは不在だった。
明日は居るとの事なので、改めて伺う旨の伝言を残して大聖堂を後にした。
いつ現れるか不明な俺の為に、常時待機していてもらう訳にもいかない。こんな日もあるだろう。
特にやる事がない俺は、スキルを使えるようになるため、学園の訓練所に行くことにした。
ミリーリアとセレイナも、俺が突然スキルを使える様になっていたら驚くだろう。
そんな事を考えながら訓練所のドアを開けると、先客がいた。
金髪ツインテールドリルエルフのナールルだ。
彼女一人の所を見ると、個人で訓練しているのだろう。
離れた所にある的の根元から、火柱が上がる。
相変わらず凄い威力だ。
そんな感想を抱いていると、ナールルが俺に気付いたのかこちらを一瞥し、再び的の方を向いた。
一応クッコロサンにに妹によろしく伝えるように頼まれているが、とてもじゃないがそんな雰囲気ではない。
悩んでいても仕方ないので、『スタンプ』が発動するように練習する事にした。
「発動しねぇ……」
色々試しているが、『スタンプ』が発動する気配を感じない。
休憩の為、壁に寄りかかって周囲を見渡すと、いつの間にかナールルは居なくなっていた。
……。
よし、今がチャンスかもしれない。
「【精霊さん精霊さん、もしもいたら力を貸してください】」
そんな都合のいい話があるはずもないだろうが、試すだけ試してもいいだろう。
『スタンプ』が発動しないからって現実逃避している訳じゃない。
どれだけ待っても俺に変化は現れなかった。
やっぱりエルフだから使える魔法なのだろうか。
いや、もしかしたら精霊はドMで、命令しないと力を貸してくれない可能性もある。
そう考えると、精霊魔法の詠唱があんな感じなのも納得できる。
気は進まないが、試してみる事にする。
「【クソ精霊、居るなら姿を現せ。さもないと──】」
どうしよ?
二人ともお尻絡みだったな。
「【──その汚ねぇケ〇に金棒を叩きつけるぞ】」
詠唱ってこういうものなのだろうか?
自分で言ってて凄く恥ずかしい。
幸いなのは、誰かに聞かれたとしても何を言ってた理解されないって事か。
「【望み通り姿を見せましょう】」
「え?」
突然、背後から声が聞こえてきた。
慌てて距離を取り、後ろを向くと、人魂のような炎が空中に浮かんでいた。
「【えっと、精霊……ですか?】」
「【はい】」
えぇ……。
成功しちゃったよ……。
何も考えてなかった……。
そして俺の中で、精霊ドM疑惑がより信憑性を増した。
「【私に何をさせるつもりでしょうか】」
やっべ、本当にどうしよう。
「【とりあえず、あの的に向けて火柱を上げてみてもらえますか?】」
「【承知しました】」
俺の依頼を受け、精霊が火柱を上げてくれた。
驚きの気持ちはある。
だが、それ以上に気持ちイイ!
なんかやっと異世界に来たと実感できた気がする。
「【他には?】」
感動に浸っている場合ではない。
今の内に色々聞いておくことにする。
「【魔法はもういいかな。聞きたい事があるんだけど、答えてくれるかな】」
「【承知しました】」
精霊魔法に使うこの言語は【精霊語】という言語で、エルフに伝わる言語らしい。
遥か昔、エルフに助けられた精霊の長が、お礼にエルフに言語を伝えたのが始まりなんだとか。
それが現代まで伝わっていくうちに、徐々に乱れ、お願いから命令に、そして脅迫へと変化していったそうだ。
遥か昔は恩義を感じていた精霊だが、現在では昔の契約を履行するために渋々従っているというのが現状だと教えられた。
そんな夢の無い話を聞かされてもなぁ……。
精霊はドMとかそういう話ですらなかった。
「【そういう歴史があったとは知らず、見よう見まねで呼び出して申し訳ない】」
知らなかったとはいえ、めちゃくちゃ酷い呼び出し方をしたのを思い出した俺は、素直に謝る事にした。
「【……この言語は誰から教わったものですか?】」
濁す必要もなさそうなので、俺はアルさんから『言語理解』を授かったことを伝える。
そして、エルフ二人がどうやって精霊魔法を使っていたかを見ていたので、真似した事も付け加える。
「【そうですか……最後の質問です。あなたはどうして私たちの力を借りたいと思ったのですか?】」
どうして、か。
中二病的な要素がゼロとは言えない。
普通の魔法じゃなく、使い手が少ない精霊魔法だ。
興味を持つなという方が無理だ。
だが、それ以上に、この世界で無事に過ごすために力が欲しいと思った。
俺が元の世界に戻るまで、ミリーリアとセレイナ、そして俺の三人が無事に過ごせるだけの何かが欲しかった。
精霊とエルフの間に会話はなく、一方的に脅されているだけという話を聞いているので、俺は自分の事を包み隠さず伝えた。
「【そういう事でしたか。わかりました】」
「【今後、精霊魔法は使わない事を約束します】」
あんな話を聞いた後も、精霊魔法を使う気にはなれない。
「【お待ちください。一つ提案があります】」
そう思っていたのだが、提案を持ちかけられた。




