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 こっくりさん……いや、クッコロサン? が召喚されたようだが、姿は見えない。


「成功したんだよね? えっと、次は皆の指を中銅貨の上に置けば準備完了かな」

「ねぇ、アラタ……おいなりさんの用意って叫んでたけど、あれは?」

「クッコロサンじゃなくて、こっくりさんって名前で俺の世界にもあったオカルトで、最後に帰ってもらうのにおいなりさんをお供え物として提供する必要があるんだよな」

「お供え物を用意しなかったらどうなるのかしら?」

「どうなるんだっけ? 帰ってくれないんだったかな」

「帰ってくれないとどうなるのかしら?」

「どうなるんだっけな。呪われるんだっけな」

「は?」

「そうなの? でもこれはアラタの世界のこっくりさん? じゃなくて、クッコロサンだよ。呪われたりはしないんじゃないかな」


 こっくりさんの召喚方法が載った書物を直接見たわけではないからはっきりとはわからないが、ミリーリアの言い間違いのような気がする。

 それに、俺の知っているこっくりさんとは違うような気もしている。


 紙に自分たちの手で五十音表などを書いたものを用意していないし、『くっ、殺せ』なんて文字が必要だと聞いたこともない。

 この違いは魔法が存在するこの世界だからの可能性もあるが、考えても仕方がないか。


「ほら、二人ともここに指を置いて」


 ミリーリアは中銅貨の上に指を置き、準備万端の状態で待っている。

 セレイナが不安そうな顔で俺の様子を伺っている。


「この古代文字はなんて書いてあるのかしら?」

「元の世界の字が書いてあるな。紙の上の方に書いてある三つが単語で、下の表は文字だな」

「そう。銅貨が移動した先の文字で答えてくれるって言う事ね」


 セレイナの飲み込みが早い。


 セレイナが銅貨の上に指を置く。

 考えても仕方がないか。

 俺も指を置き、『クッコロサン』が始まった。



 ◆



 (誰?)


 誰かの声で目が覚めた。

 目は覚めているはずなのだが、目の前は真っ暗だ。体も動かない。

 エメラルドグリーンの髪の少女は、自分が今、どういう状況に置かれているかわかっていない。

 

「─────────」


 先程まで聞こえていた声とは違う、音のようなものが聞こえてきた。


「あれ? 動かないね」

「失敗か?」

「何もないならそれでいいわ。終わりでいいのよね?」


 声の主は誰なのか。

 そもそも何の話をしているのだろうか。

 彼女にはわからなかった。


「───────」


 また不思議な音が聞こえてきた。


「どうだろう? 帰ったかな?」

「どうだろ。そもそも来てくれてない可能性もあるしな」

「ねぇ……指が離れないんだけど……二人とも、これはどういう事?」

「えっ? うそ? ホントだ……」

「おいおいマジかよ……」


 (何の話をしているのだろうか)


「つまり、異常事態って事ね……」

「ごめん……。ねぇ、今度はアラタがお願いしてみたらどうかな?」

「だな。やってみるか。────────」


 どうやら異常事態が起こっているという事はわかった。

 わかったのはそれだけ。


「アラタでもダメなのね……」

「もしかして、これが呪い……」

「怖い事言うなって。うーん、試してみるか。誰かここにいますか?」


 (もしかして)


 声は近くから聞こえてくる。

 完全な暗闇に覆われた空間に自分はいるのかもしれない。


 (えっ?)


 声が出せない。

 体も相変わらず動かせない。


 (──あぁ、そうだ……)


 彼女は自分がこうなる前の状況、魔物の群れに囲まれ、命かながら逃げ延びた事を思い出す。

 意識を失っているところに、人の声が聞こえたからだろうか。

 存在に気付いてもらいたいと思ってしまった。


 (別にもうどうでもいいんだった)


 気づいてもらったところで、どうなるというのか。

 気づかれるくらいならいっその事──。


「ちょっと! 動かしてるのは誰!?」

「私じゃないよ!」

「俺でもないな。これがこっくりさん……クッコロサンか? の正常な……正常なのか? 状態だな」

「止まったわね。なんて書いてあるのかしら?」

「『くっ、殺せ』だな」

「私たち、呪われちゃったのかな……」


 (呪われた、か。穢されたこの身とどちらがマシなのだろうか)


「いや、違うんじゃないか? 『死ね』とか『殺す』じゃなくて、『殺せ』だしさ」

「クッコロサンが死にたがってるって事?」

「そういう事になるんだけど……正直俺にもわからん」

「クッコロサンが、どうして死にたがってるか聞いてもらえないかしら」


 (理由、か)


 エルダートレントの群れに襲われた部下を逃がすため、殿を引き受けたはいいが、自分の身は守れなかった。ただそれだけ。

 思い出すだけで身の毛もよだつ。


「え・る・だ・あ・と・れ・ん・と? あら? アタシの言葉がわかったのかしら」

「エルダートレントがどうしたんだろ? 襲われたのかな?」

「毒の影響がきつくなってきたって事か?」


 もどかしい。

 言葉にしなくても、自分に身に降りかかった出来事が一部伝わっている。


 自分は結局どうしたいのだろうか。

 誰かにしってもらって慰めてほしいのか。同情して欲しいのか。頑張ったと褒めてほしいのか。


 誰かに聞いてもらえばわかるかもしれない。

 この話を聞いた相手の反応を見てみたい。

 どうするかはそれからでも遅くはない。

 彼女はそう思った。


 その瞬間、彼女の臀部に鈍い衝撃が走った。



 ◆



「は?」


 セレイナが、銅貨が通った文字を読み上げると、セレイナの背後に突然女の人が現れた。

 エメラルドグリーンの髪で、髪と同じ色の瞳。ただ、その目は赤く充血している。


 一瞬、俺が倒したエルダートレントの生まれ変わりかと思ったが、尖った耳が見えたので、違うと判断する。

 エルフっぽい。


 背後に気配を感じたからか、セレイナが『裏取り』でミリーリアの後ろに即座に移動する。


「皆構えて!」


 セレイナはどこから取り出したのか、ナイフを手に持ち臨戦態勢だ。


 突然現れたエルフは、周囲の様子を確認している。


「あの声の主はあなた方ですか?」


 エルフが口を開く。


「あぁ、そうだ。あなたがクッコロサンでいいのかな?」

「名乗り遅れて申し訳ない。私はクーネネ=ネクレーガー。聖樹国の騎士を務めている」


 ネクレーガー……。どこかで聞いたことが……あぁ、確かナールルもネクレーガーって言ってたか。

 身内なのだろうか。


「ネクレーガーって事は、ナールルちゃんの事は知ってますか?」

「ナールルは私の妹だ。そうか、その制服は学園生か」


 クーネネさんの正体がわかり、俺たちは謝罪しながら武装を解き、自己紹介を済ませた。

 

 正体は判明したが、わからない事だらけだ。

 とりあえず、無難な事から聞いてみる。


「ナールルのお姉さんが、どうしてこんなところに?」


 クーネネさんから聞かされた話は、何とも言えないものだった。

 エルダートレントの群れと戦っていたという所までは良い。

 騎士だというし、納得は出来る。


 だが、彼女の説明の所々に、不穏な単語が出てきた。


 苗床にされたとか、穢されたとか。


 それはオークの仕事じゃないかなぁ、と思ったが、声には出さない。


 ミリーリアとセレイナは神妙な面持ちで、クーネネさんの話を聞いている。


 クーネネさんの身に降りかかった出来事を、全て聞き終わった。

 重苦しい空気が女性陣三人を包む。

 誰も口を開こうとしない。


 どう考えてもエルダートレントに囲まれて、花粉をかけられただけだと思うんだよなぁ。


 植物の繁殖に花粉を使から、苗床にされたとか、穢されたって表現も間違ってはいないかもしれない。

 だが、花粉をかけられたからって大袈裟な気がする。


 クーネネさんが鼻をすする。

 ミリーリアに渡されたハンカチで目元を擦り、鼻をかむクーネネさん。


 泣いているような気もするけど、花粉症のような気もする。


「ふっ……すまない。こんな話をされても困るだろう。エルダートレントの苗床にされた身でこれ以上生きるつもりはない。妹にもそう伝えておいてくれ。頼めた義理ではないが、私の最後の願いとして、どうか頼む」


 そう言って、鼻をすすりながらクーネネさんが頭を下げる。


 沈黙が洞窟内を支配する。

 このままだと、本当に自ら命を絶ちそうな、そんな気がしてならない。


「とりあえず、頭を上げてください」


 俺の顔を見たクーネネさんは、自分の願いが聞き届けられると思ったのか、思い残す事はないといった表情だ。

 彼女は俺からの次の言葉を待っているようだ。

 

 今なら聞いてもらえるか。

 早まった真似はしないように、何とか説得する事にした。

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