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学園に通い初めて三日目。
今日も午後からの授業は訓練所で行われている。
俺たちが初めてゴーレムを相手にした日から、このパーティーが注目され始めてるとセレイナに教えられた。
教会からの留学生が思った以上に動けているとか、ミリーリアの【コトワザ】が強化されているとか、そんな内容らしい。
初日にゴーレムと模擬戦を行ったが、ダンジョンで手に入る魔石を消費すると聞いたので、初日以外ゴーレムとは戦っていない。
そのため、俺たちがどれくらい戦えるのか測りかねているというのも、注目に拍車がかかっている理由だ。
そんな学園生活を送っていたが、今日、いよいよ学園の課題が公開される。
毎日情報は少しずつ公開されていた。
今回の課題は、商人ギルドと呼ばれる組織が関係しているようだ。
「どんな課題になるんだろうね?」
「商人ギルドが関係しているなら納品系じゃないかしらね?」
「基本だよな。課題って言うくらいだし、難易度は高めなのかな」
「どうなのかしらね? その辺に生えてる薬草を集めて来いって話ではないのは確かね」
午後の授業も終わり、ホームルームの時間となる。
教室が少しピリついているのが俺にもわかった。
「最後に、今期の課題だ。今日から職員室前の掲示板に全て張り出される。休み明けから受け付ける。各自準備しておくように。よし、時間だな。今週はここまで」
教室も、廊下も騒がしくなる。
「今行っても混んでるでしょうし、もう少し待ちましょうか」
「そうだね。早い者勝ちって訳でもないしね」
二人は落ち着いていた。
ヘッグ先生は今期の課題と言っていたが、学園の課題は前期と後期で内容が異なる。
前期が商人ギルド絡みなので、後期は冒険者ギルド絡みの課題になるだろうと予測される。
前期は夏が終わるまでで、課題は随時更新されていく。
受けた課題を達成したら、学園に戻り、新たな課題を選択する。これの繰り返しだ。
難易度の高い課題を受けるもよし、難易度が低い依頼を数こなすもよし。
全てはパーティーの判断次第だ。
俺たちは、まずは無理しないで堅実に行こうという方針だ。
今日公開される課題が全てではない。
期間中、課題は増えたり減ったりする。
まずは達成できそうな課題から手を付ける事にする。
「よし、そろそろ見に行くか」
課題が張り出されている掲示板の前に立つ。
掲示板には、商人ギルドからの依頼票が綺麗に張り出されている。
・ホーンラビットの角の納品
・ツインホーンラビットの角の納品
・オークの睾丸の納品
・ハイオークの睾丸の納品
・月光草の納品
・溶岩草の納品
・トレントの枝の納品
・エルダートレントの枝の納品
・ウルフの毛皮の納品
・ビッグウルフの毛皮の納品
依頼票には行く地域も記されており、臨時の買取所も併設されているようだ。
他にも色々な依頼票が張り出されている。
「どれにする?」
「そうねぇ……」
無難なのは、戦った事があるトレントかウルフ絡みだろうか。
他に考慮するべき点としては、どっちを受けた方が評価が高くなるかだ。
「難しい所ね。納品数が記載されていないし、数をこなすべきなのかしら」
「この前の山狩りでウルフは倒されてそうだし、トレントの方が数がいるのかな?」
「それってさ、市場価格に反映されたりするもんなのか?」
「どういう事?」
「山狩りで倒したウルフの素材が余ってたら安くなってて、トレントが倒されてなかったら価格は変わらないみたいなさ」
「市場価格を調べるって言うのは良い案ね」
「じゃあ、明日からは市場調査をしながら買い物だね」
休み明け、ホームルームが終わると、各パーティーが一組ずつ職員室に呼ばれていく。
どの課題を受けるかの確認のためだ。
ついに俺たちも呼ばれる。
「課題はどれにするんだ?」
「トレントの枝の納品です」
休みの間、王都だけではなく周辺の各区も周り、市場調査と聞き込みを行った。
その結果、ウルフの素材は値下がり傾向にあり、トレントの素材はそれほど変動していない事がわかった。
さらに、課題で行く場所周辺では、トレントの目撃報告が増えているという情報もあった。
トレントはこちらから近づかない限り襲ってこないので、問題はないだろうという事になり、俺たちはトレントの枝の納品を選んだ。
「期限限界までトレントを狩るのも良し、どこかのタイミングで別の課題を受けるのも良し、自分たちで判断しろ」
『はい』
「行動は午後から。それまでは自由に過ごして構わない。以上だ」
次のパーティーを呼びに教室へ戻る。
俺たちは自分の席で、移動経路の確認を行う。
今回の課題で提示されている地域は、王都の西、エルフが治める国である聖樹国との境目だ。
徒歩で五日、馬車なら三日の距離になる。
「支出は痛いけど、馬車いどうよね」
「だよね。今は時間の方が大事だからね」
「痛いのは支出だけじゃないんだよなぁ……」
「言わないで……」
時間を節約できれば、選択肢は増える。経費削減なんて言っている場合ではない。
「しゃ! 待ってろよハイオーク!」
どうやらハイオークの睾丸の納品を選んだパーティーがあるようだ。
声がした方を見ると、ナールルパーティーの剣士が拳を天高く上げている。
「声が大きいですわよ」
「だってよ、待ちきれないぜ?」
てっきりエルフの国の近くの課題を受けると思っていたのだが、どうやら違うらしい。
移動の準備は出来ているので、俺たちは話し合いを行いながら時間が来るのを待った。
王都から移動して三日目。
やっと目的地に到着した。
スルタンハイムとティルケスを繋ぐ街道の両脇は深い森になっていて、この森の中にトレントが生息している。
街道の途中に開けた場所があり、そこに臨時で商人ギルドが買取所を開いている。
他の課題が行われている地域も同様に、臨時で買取所を開いているようだ。
到着の報告として、買取所に顔を出す。買取所には二名の職員さんと、冒険者と思われるパーティーがいた。
ここでは主に納品を行うのだが、トレントの枝だけではなく、トレント本体も買い取ってくれるようだ。
買い取りは学園生限定との事なので、本当に課題の為だけに作られた買取所となっている。
「で、どうするんだ?」
「当然この辺には反応がないから、探すことになるわね」
「じゃあセッちゃんよろしく!」
買取所がある開けた場所で俺たちは野営を行うつもりだ。
この場所を基準に活動する事になる。
まずは周辺確認とういうことで、ティルケス方面へ向かって街道を進む。
ある程度進んだところで、街道のど真ん中に一本の木が不自然に生えていた。
「俺の目がおかしくなったのか、それともこれが普通なのか……」
「大丈夫よ。アタシにも見えてるし、索敵にも反応があるわ」
「自然の力って偉大だねぇ」
擬態しているトレントという事で俺たちの意見は一致した。
それにしても……擬態するにしても場所を選んでほしいものだ。
「すぐ側は森なのにな。“木を隠すなら森の中”って言うくらいなのに、なんでこんなところに生えてるんだか……」
「その言い回しはもしかして?」
「あぁ、【諺】だな」
「ねぇ、先にあのトレントをどうにかしましょう」
それもそうだ。
森に入ることなくトレントを見つけたんだ。
幸先がいいと言えるかもしれない。目撃情報が増えているという話は、こういう事なのかもしれない。
「ねぇねぇ、誰もいないし、“青天のヘキレキ”試していいかな?」
確かに周りには誰もいない。
試すなら今かもしれない。
「いいんじゃないか?」
「多分大丈夫……よね?」
セレイナが俺とミリーリアの顔を交互に見る。
「こればかりは実際に見てみないとわからんからな」
「だよね。今の内に使えるか知っておくのは大事だと思うよ」
「そうね……。いいわ。アタシも覚悟を決めるわ」
「よし、それじゃいっくよー。【青天のヘキレキ】!」
ミリーリアは愛用の武器であるオシャレな棒をトレントに向け、【コトワザ】を唱える。
すると、大きな音と共に空から一筋の雷が降ってきた。
雷が直撃したトレントは擬態が解け、煙を上げながら倒れた。
「やった……ついに私も攻撃魔法が使える様に……」
喜びをどう表現していいかわからないミリーリアに、俺は自分の手のひらを向ける。
その様子に気付いたミリーリアは、俺の下に満面の笑みを浮かべ駆け寄ってくる。
そして、勢いよくハイタッチを交わす。
「やったよアラタ!! 本当にありがとう!」
まだ少しボーっとしているセレイナとも、無理やりハイタッチを交わしている。
「それにしても、棒から出る訳じゃないんだな」
「そうみたいだね。でも狙い通りの場所に落とせたからいいんじゃないかな?」
「そういう問題じゃないと思うわ……トレントが一撃よ?」
「でもセッちゃんだって、アラタだって、ビッグウルフ一撃で倒してたじゃん。普通だよ普通」
「アタシたちはミリーの補助があってよ?」
「って事は、【コトワザ】を教えてくれたアラタのおかげだよね?」
「そうか? それもあるだろうけど、基本が出来てるからだろ。それぞれが出来る事をやってるから今があるんじゃないか?」
「いいねいいね。どんどん強くなってるよね、私たちのパーティー」
「そうね……アラタが加わってから選択肢が増えてるのは間違いないわね」
「足を引っ張ってないようで何より」
「足を引っ張るどころか、むしろ出来すぎなのよね」
「それに、また新しい【コトワザ】も教えてくれるみたいだしね。“木を隠すなら森の中”だっけ?」
「そうだな。それは後にするとして、トレントだけど……」
この喜びに水を差すのも悪いが、状態を良く見てほしい。
所々焦げている。
枝は残っているので切り落とせば良さそうだが、状態は悪い。
「あ……」
「一応納品しましょうか」
俺とセレイナの魔法袋には入らなかったが、ミリーリアのポーチには入った。
最大容量はミリーリアのポーチが一番大きいようだ。
一度買取所へ行き、トレントの査定をしてもらう。
査定の最中に、商人ギルドの人から大きな音がしたが大丈夫だったか心配されたが、こちらの攻撃であると伝えると、それ以上は聞かれなかった。
「状態が良くないので、一万ヴィルでの買い取りとなります」
状態が悪いのはわかっていたので、その値段での引き取ってもらった。
「やっぱり素材の質も成績に反映されるよな?」
「そうなるでしょうね」
「じゃあ、私が攻撃しちゃダメだね」
気を取りなおして、次のトレントを探す。
もうすぐ日が暮れる事もあり、森に入らなかったのでトレントが見つかる事はなかった。
一夜明け、今日は朝からトレントを探す。
目標は昨日よりも良い状態でトレントを倒す事だ。
今日はセレイナの弓でトレントを倒すと決め、俺たちは森へと足を踏み入れた。
森を歩きながら、俺は金棒が振れるか時々確認する。
場所によっては木が邪魔だ。周りをよく見る必要がありそうだ。
セレイナが擬態しているトレントを発見したようだ。
ミリーリアに【二階から目薬】と【石に立つ矢】をかけてもらい、トレント目掛けて矢を放つ。
矢はトレントを貫通し、一撃でトレントを倒すことが出来た。
「ダンジョンのトレントはあんなに苦労したのに……」
【コトワザ】の効果を理解してはいたが、実際に同種のトレントを相手にすると、より効果が実感できたようだ。
その後も森の探索を続けたが、午前中は他のトレントに出会う事はなかった。
そして、午後からの探索では二体狩る事が出来たが、それでも数としては不満が残る結果だった。
「トレント三体、全て状態も良好です。合計十五万ヴィルで買い取らせていただきます」
売却を終え、野営の準備を行っている最中、明日はもう少し遠くへ行かないかと提案してみた。
街道に近い分、トレントと遭遇する可能性は低いだろう。
反対意見もでなかったので、明日は森の奥へ向かうことにした。
翌日、買取所の職員に別の場所で一泊すると伝え、俺たちは森の奥へと向かう。
帰り道はセレイナがわかるようなので、それほど不安はない。
それでも、念のため俺の主な役割はセレイナの護衛だ。
セレイナに何かあったら迷う事になる。
森の奥へと進んでいくが、今日は一切トレントに遭遇しない。
昼食をとっているが、成果が上がらない影響からか、俺たちの口数は少なめだ。
「ねぇねぇ、試したい事があるんだけど、いいかな?」
そんな中、ミリーリアが口を開く。
「どんな事かしら?」
「えっとね」
ミリーリアはそう言うと立ち上がり、オシャレな棒を地面に立て、手を放す。
棒が倒れる。
「午後からはあっちに行こう」
……。
何も言えねぇ……。
「根拠は?」
セレイナも呆れた顔をしている。
「前に見た【コトワザ】の本に書いてあったんだ。棒を倒して、倒れた方向に目的の物があるんだって」
二人が俺の顔を見てくる。
俺は顔が引きつっているのを自覚した。
「それは……何と言えばいいか……オカルトもいいところだな」
「オカルト?」
「迷信みたいなもんだ」
「おまじないとは違うの?」
「効果は実証されてないって感じだな」
「じゃあ、もしかしたら効果があるかもしれないってこと?」
「効果があってもたまたまってのがオカルトなんだよなぁ」
「どうせ当てもなく探索しているだけだし、オカルトってのを信じるのも悪くないかもしれないわね」
「それもそうだな」
午後からは、ミリーリアの棒が倒れた方角へ向かう。
「いるわね」
「ね? ちゃんと効果があったでしょ?」
「……」
何も言えねぇ……。
その後も次から次へとトレントが見つかった。
ミリーリアのポーチにトレントが三体入ったところで、トレント本体が入らなくなったので、その後は枝だけを集めていった。
森で一晩過ごし、俺たちは買取所へと向かう。
今日は買取所でトレントを売却した後、隣町で一泊し、食材の補充などを行う予定だ。
「あの……この枝の量は……?」
職員さんが驚いている。
「ほ、本体は!?」
置いてきた事を伝えると、職員さんの顔が絶望に染まる。
確かに本体の売却価格は魅力的ではあるが、俺たちの目的は課題であるトレントの枝の納品だ。
全員の魔法袋に入りきらなくなるまで枝は回収してある。
「勿体ない!!!!!!」
職員さんに、物凄い剣幕で課題の裏話を説明された。
トレントの枝の納品依頼は、素材の状態を維持したまま納品出来るかを確認するのが主な目的だ。
そして、トレント本体を収納できる魔法袋を所持していない者が受けた場合、収入面を考えると本体を収納できる大きさに解体する必要がある。
この解体技術も評価項目らしい。
持ち運ぶ為に無駄に切断して、商品価値を下げるくらいなら、そもそもこの依頼を受けるのは間違っているという判定を下すようだ。
この話からすると、俺たちが焦げたトレントを納品し続けていたら、評価はガクッと下がっていただろう。
「ど、どの辺りで倒したか覚えていませんか?」
おおよその方向をセレイナが説明すると、一人の職員さんが冒険者を連れ、その方向へと慌てて向かって行った。
「明以降もトレント狩りを?」
残った職員さんにそう聞かれる。
「今日はこれから隣の町へ行って、明日は休みの予定です」
代表してセレイナが答える。
「そうですか。次にトレント狩りに行く前に、こちらに顔を出してください。魔法袋をお貸しします」
「そんなに肩入れしても大丈夫なのですか?」
恐らくあり得ないような条件なのだろう。
セレイナとミリーリアは固まっている。
「今まで納品していただいたトレントは、どれも一撃で貫かれています。無駄な傷も無く、加工方法もこちらで選べる状態です。この品質のトレントを安定して入手できるのならば、この機を逃す訳にはいきません」
それに、と職員さんが付け加える。
「これほど優秀な学園生の方と縁を結べるのならば、魔法袋の貸し出しなんてお安い御用です」
「そういえば、他にこの依頼を受けているパーティーはいないのですか?」
入れ違いになった可能性もあるが、他のパーティーとは会っていない。
「実は、お三方のパーティーしか受けてくださっていないんですよ。なので、こうして魔法袋をお貸しするという提案が出来るというのもあります」
品質保持の大変さから、トレントの枝の納品は人気がないようだ。
職員さん達も仕事でこの場にいる。
利益を出す必要があるだろう。
最初に焦げたトレントを納品した時は、「終わった」と思ったそうだ。
「お三方には本当に期待しています。ごゆっくり休息をとった後は、またよろしくお願いいたします」
職員さんに見送られ、俺たちは隣町へと移動した。




