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 ナールルパーティーの構成は、前衛に両手剣を持つ剣士が一人と、大き目の盾と片手剣を装備している人が一人。

 後ろに位置するナールルの側には短剣を構えた人が一人。紅一点のナールルの護衛だろうか。


 いよいよ戦闘が始まる。


 盾を持つ男がゆっくりとゴーレムの間合いに入る。

 ゴーレムは腕を振り上げ、近づいた男にそのまま叩きつける。鈍い音が響く。


 叩きつけられた腕を盾役が防ぎ、その間に剣士がゴーレムの横に回り込み腕を切りつける。


 切り付けられた腕はそのまま切り飛ばされ、地面に落ちると同時に砂になった。

 

 片腕を失ったゴーレムは、残された腕で剣士を殴ろうと体を捻る。

 そこに盾役の男が割り込み、ゴーレムの攻撃を防ぐ。


 その隙に剣士はゴーレムの背後に回り込み、首を切り落とした。


 首を切り落とされても、ゴーレムは残された腕を無造作に振り回していた。背後から剣士がゴーレムを一刀両断したところで、完全に砂となり崩れ落ちた。


 うーん、砂のゴーレムだから柔らかい?

 攻撃も、腕を振り回すだけでワンパターンだったような。

 頭を落としても動いていたし、一定のダメージの与えないと止まらないのかも。

 ゴーレムには核があるって話だったし、上手く核に攻撃が当たったのかもしれない。


「今日からって話だったから、朝からいるんだと思ってたんだよ?」

「手続きは終わったのかしら?」


 ゴーレムについて考えていると、いつの間にか俺に気付いたミリーリアとセレイナの二人が俺の横に立っていた。


「無事終わったぞ。今日からよろしくな」


 少し視線を感じる。

 二人と話ながら俺は目だけを動かすと、一部の生徒が興味深そうにこちらを見ていた。


「今日の朝に連絡事項としてアラタの事は紹介されてるから、みんな気付いたみたいだね」

「自己紹介とか必要だよな?」

「それは今日の授業が終わってから時間を取るから心配するな」


 俺の質問にヘッグ先生が答えてくれた。今から心の準備をしておこう。


「ほら、次が始まるわよ」


 セレイナに言われ、ナールル達の方を見るとゴーレムが佇んでいた。


 同じような流れで再びナールルパーティーの戦闘が始まる。

 さっきとの違いと言えば、剣士の攻撃一発では部位を切り落とせなくなった事と、盾役が攻撃に参加している事くらいか。

 ナールルと短剣を持つ男は相変わらず動かない。


「右足!」


 そう思っていたら、声が上がった。

 剣士がゴーレムの右足を切り付けると、バランスを崩したゴーレムは膝から崩れ落ち、そのまま砂になった。


「今のは?」


 セレイナの解説によると、短剣を持つ男がゴーレムの弱点を探し出し、それを伝えたようだ。


 今の所、危なげなく倒せているように見える。

 それと同時に、俺たちも同じように安全に倒せるような気もしてる。


「これがゴーレムか。動かないし、訓練には良さそうだな」

「今はね。恐らく次からが本番よ」



 ◆



 金髪のツインテールを指で遊ばせながら、次のゴーレムが生成されるのを待つナールル。


 (そうですの。あの方が留学生ですの)



 ナールルは自身が注目を浴びるのには慣れていた。

 王国では珍しいエルフという種族。


 基本的にエルフは自国から出る事はない。

 閉鎖的な種族というわけではない。


 他の種族より寿命が長いエルフは、同種族以外との深い関りを避ける傾向にある。

 他の種族の同世代に生まれた相手のみならず、その子、さらにはその子よりも死が訪れるのは遅い。


 エルフにとって、他の種族と深い関りを持つという事は、別れを繰り返す事に他ならない。


 別れの辛さは親から子へ、そしてまたその子へと語り継がれていく。


 当然素敵な出会いもあるだろう。

 だが、寿命が長く、老化も遅いエフルは、ある程度の年齢になるまでは自国で過ごす。


 必要以上に別れを経験しないため。


 それだけの理由だが、大多数のエルフはそれが正解だと後から気付く。

 そして語り継がれていく。


 そんなエルフという種族の考え方が浸透している中、ナールルという生まれてから十五年の少女は、単身王都のスルタンハイム学園に通っている。


 目的は『姫騎士』と呼ばれている姉を超えるため。


 由緒正しい家系に生まれたナールルは、幼い頃から精霊魔法の適性が高かった。

 しかしそれは、姉にも言える事。

 姫騎士と呼ばれる姉は、精霊魔法のみならず、その身を用いた守りにも適性があった。

 

 自国では常に優秀な姉と比べられる事に辟易していたナールルは、周囲の反対を押し切り、学園に通い、冒険者を目指すことを決意する。

 姉とは違う道を歩み、外の世界を周りよりも早く知る事で、自分がより成長できると考えた。


 学園に通うようになり、好奇の視線に晒される事にも慣れた頃、一人の男に話しかけられる。


「なぁ、もうパーティーは組んでるのか?」


 アグライと名乗る同級生の男にナールルは声を掛けられる。

 

「言っちゃ悪いけど、いっつも一人じゃん」

「興味ありませんわ」


 突然失礼な言葉を投げかけられたというのもあるが、両親に聞かされている他の種族との関り方の事もある。

 彼女は当然のように断った。


 授業の一環で、学園側が割り振ったパーティーで活動するが、自身が成長しているような気がしない。

 そもそもエルフしか使えない精霊魔法は、学園では誰も使い方を教えてはくれない。


 自分の選択は誤りだったのだろうか。


 成長が実感できない焦りから、少しずつ弱くなっていく学園に通い始めた時に決意した想い。


「今度の休みにダンジョン行かないか?」


 相変わらず、事あるごとにアグライという同級生に声を掛けられ続けるナールル。


「はぁ……何で私が貴方とパーティーを組まないといけないんですの?」

「そんなの決まってるじゃん。多分盾役としてはこの学園で俺はトップだぜ? で、アンタは魔法使い……精霊魔法だっけ? まぁいいや。トップだろ? 俺たちがパーティーを組めば強くね?」


 その後も一方的にパーティーを組むメリットを説き続けるアグライ。


「結局の所さ、同じ視点を持ってるメンバーでパーティーを組むのが理想なんだよ。お互い切磋琢磨して強くなっていく。難しく考える事はないだろ?」


 アグライの言葉にナールルは納得した。

 自身が成長するためには、周囲の環境が大切だと考えるようになった。


 パーティーを組むのを了承したのは良い。

 しかし、異性と二人でダンジョンに潜る事に抵抗があったナールルは、過去にパーティーを組んだことがあるセレイナにも声を掛けようと提案する。

 セレイナの実力は目の当たりにしている。アグライの言う切磋琢磨できるメンバーの条件とも合致している。

 アグライの了承も得たので、共にセレイナの下へと向かう。


 ナールルには友達と呼べるような存在が学園に居ない事もあり、これを機に仲良くなれたらという期待もあった。


「次の休みはミリーとダンジョン探索の予定なのだけれど……どうする?」

「んー、せっかくだから行って来たら? 私はのんびりしててもいいし」


 セレイナに声を掛けると、そんな返事が返ってきた。


 いつもセレイナと共に行動している少し頼りないクラスメイト。

 ナールルが持つミリーリアの印象はその程度のものだ。


「ミリーリアさんも一緒で構わないですわ。よろしいわよね?」


 もう一人のパーティーメンバーのアグライも了承した。

 ミリーリアも一緒ではないと、パーティーは組めないと断られる可能性を感じたナールルは、二人を誘ってダンジョン探索を行う事にした。



 休みの日、向かった先はジェドスダンジョン。

 

 ダンジョンの出入り口付近を適当に歩き、セレイナがコボルトを発見したら他のメンバーに伝える。

 そんな流れで狩りは進んでいった。


「ナールルちゃんの精霊魔法って凄いねー。私も頑張らなきゃ」


 セレイナに【コトワザ】という魔法を掛け、命中精度を高めているとは聞いていた。

 それは事実なのだろうとナールルは思う。


 では、セレイナ以外の他のメンバーには?


 そう考えると、ミリーリアの存在が気になってしまう。


 同じ後衛のはずなのに、時々コボルトに突っ込み、撲殺する不思議な戦闘スタイルも気になった。


 (ここでは実力はわかりませんわよね)


 サクサクと狩れるコボルトではなく、もう少し奥のエリアに行こうとナールルは提案する。


 しかし、返ってきた答えは彼女が期待していたものではなかった。


「安全第一じゃないかな? まだパーティーを組んだばっかりだし、しばらくはコボルトで慣れておいた方がいいと思うんだ」

「そうね。今日無理をする必要はないんじゃないかしら?」

「そうは言ってもなー。俺はまだまだ大丈夫だぜ?」


 結局この日はコボルト狩りのみで街に戻る事になった。


 街で宿を取り、明日の予定を確認する四人。


「明日はどういたしましょう?」

「俺はウルフエリアまで行けると思うぞ」

「アタシは今日と同じコボルト狩りに一票」

「私もコボルトがいいかな。むしろコボルトでしか役に立たないってのがあるかな」


 この時点でセレイナはミリーリアに気を遣って、コボルトエリアでの狩りを推しているとナールルは判断する。


 (恐らくミリーリアさんがいる限り、コボルトエリアから出る事はなさそうですわ)


「それでは、今回はコボルト狩りで終わらせることにいたしましょう」


 セレイナの心証が悪くなることを恐れたナールルは、今回のダンジョン探索をコボルト狩りで終わらせ、次回以降セレイナだけを誘って探索を進めようと考えた。



 それからもタイミングを見計らってはセレイナに声を掛けるが、必ずミリーリアも一緒ならという条件がついてくる。


 (やはりパーティーメンバーを選ばないと成長は見込めませんわ)


 いつからか、セレイナを誘う頻度は減り、別のメンバーに声を掛け始めるナールル。


 盾役のアグライは、これまでの付き合いから前衛として信用しても問題ないと判断したナールルは、新たなメンバーに声を掛ける。


 入れ替わりがありながらも、最終的には盾役のアグライ、短剣使いのマルコス、剣士のストーデンというパーティーメンバーが集まった。

 全員が向上心を持ち合わせており、各々が各分野でトップクラスの実力の持ち主だ。

 ここにセレイナが加われば、ナールルが理想とするパーティーが完成する。



 だというのに。


 アスーネの街で会った、セレイナとミリーリアと共に行動していたコトエダアラタという男。


 担任のヘッグの話では教会の者で、【コトワザ】使いという話だ。

 数少ない【コトワザ】の使い手に、その知識を伝えるのが役割だという。 

 彼には自由にできる時間がそれ程なく、また、いつその身に何が起こるかわからないのだという。

 そのため、【コトワザ】を失伝させない為に、この時期に留学してくるのだと伝えられている。


 (恐らくあの三人でパーティーを組むのですわよね)


 今も担任を交えながら何かを話している。


 もう理想とするパーティーを組むことは出来ない。


 (縁がなかったのですわ)


 そう思う事にしたナールル。

 だが、ただ諦めるのもプライドが許さない。


 (後からパーティーを組みたかったなんて後悔しても遅いですわよ?)


 ナールルは見せつけるように、自身が放てる最大火力の精霊魔法をゴーレムに叩きつけるために詠唱を開始する。



 ◆


 

 おー、今度のゴーレムは移動するのか。

 

 突進の体勢をゴーレムが見せた瞬間、短剣使いの男は体を地面スレスレまで倒し、高速でゴーレムの横に移動した。

 ゴーレムの正面には盾役が陣取り、剣士と短剣使いは足を重点的に攻撃している。


 足を攻撃され、体勢を崩したゴーレムは片膝を地面に着ける。


「離れてくださいませ。そろそろ行きますわよ」


 ナールルが声を上げた。


 その声に従い、パーティーメンバーの三人はゴーレムから距離を取る。


「【ケ〇にブチ込まれたくなければ燃やし尽くせ!】」


 聞き間違い……だよな。

 何かツインテールドリルお嬢様から汚らしい言葉が聞こえたような気がした。


 そんな事を考えていると、ゴーレムを囲むように火柱が上がった。


 火柱が消えると、ゴーレムの姿はなく、地面に焦げ跡が残っているだけだった。


「あれがナールルちゃんの精霊魔法だよ」

「相変わらずの威力ね」


 確かに俺が見た事あるファイヤーボールよりも火力は高そうだ。


 一瞬だけ、ナールルはこちらの様子を確認するように振り返り、そのまま自然な感じで周囲を見渡した。


 誰も突っ込まないところからすると、俺の聞き間違いか、精霊魔法の詠唱というのはあんな感じなのだろう。


 聞き間違いだといいんだけどなぁ……。

 精霊魔法の威力にも驚いたが、火柱が上がる前に放った言葉も同じくらい気になってしまった。

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