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 夜番を交代し、眠りについたのだが、誰かに起こされた。

 体をゆすられ、重い瞼を開けるとテントの入り口にミリーリアがいた。


 てっきり朝が来たのだと思ったが、彼女はジェスチャーで声を出すなと伝えてくる。


 ま、まさか……夜這い?


 そんな考えが脳裏をよぎったが、続く彼女の言葉で一気に目が覚めた。


「何かが近づいてきているかも」


 外へ出て、周囲を見渡す。


「方向は?」


 ミリーリアは答えない。

 少し間を置き、本当に申し訳なさそうな表情でこう告げてきた。


「ごめんね。実は何もないの」

「え?」


 聞けば、突然の襲撃があっても、俺が動けるかの確認をしようという話をセレイナとしていたそうだ。 


「怒ってる?」


 何事もなかった安堵感と、起きたばかりで思考が追い付かなかった影響もあり、俺の表情は抜け落ちているのだろう。

 俺の顔色を伺いながら、恐る恐るといった感じでミリーリアは問いかけてくる。


「確かに油断してたな。安全なエリアとは言っても絶対安全とは言えないか」

「怒ってないの?」

「怒る必要がないな。こういう事が起きる可能性もあるって事がわかったし、いい勉強になった」


 野営中は、何が起きるかわからない。

 それがわかっただけでも収穫だ。

 ゆっくり出来るのは宿くらいなのだろう。


 実際に夜中にトラブルがあったのか聞くと、何回か野生動物や魔物と遭遇しているそうだ。

 大体は設置している魔道具が反応を示し、近づかれる前に迎撃態勢を整えられるらしい。


 特に何事もないというのがわかったので、俺は再びテントに戻り寝る事にした。



「アラター、朝だよー。ご飯できてるよー」


 俺を呼ぶミリーリアの声で再び目を覚ます。


 テントを出ると、既に朝食の準備が済んでいた。


「おはよー。体調はどう?」

「多分問題ないかな」

「ごめんなさいね、試すような真似をして」

「いや、必要な事だろ? それよりも朝も起こされたな。移動の朝は今くらいの時間に朝食なのか?」

「えぇ、そうよ」


 時計を持つ前は、時刻が全くわからなかったので誰かに起こされていた。

 しかし、今は時刻を知る術がある。今後は自分で起きる必要があるだろう。

 朝食をとりながら、普段の活動時間について詳しく教えてもらった。



 野営地点の撤去を済ませ、俺たちはコボルト狩りを行う。

 甘く考えているわけではないが、色々試しながらだ。


 単独で行動しているコボルトに“二兎を追う者は一兎をも得ず”をかけ、前衛の俺が攻撃を避けずに受ける。

 後衛の二人とある程度距離が離れていると効果は表れず、二人が近くにいるとコボルトの攻撃は当たらなかった。


「使いどころが難しいわね」

「これは魔物の性質を覚えておく必要がありそうだね」

「もうさ、思い切って二人が身を守るのに使うのがメインでいいんじゃないか? 大体二人は近くにいるだろ? 俺の方は何とかするからさ」

「えー、それはダメじゃないかなー。どうせならパーティーメンバー全員に効果があった方がお得じゃん」

「それはそうだけど、保険のために位置関係を崩すのもな」

「使う必要がないっていうのが理想よね。あてにするようになったら終わりよ」

「ごもっとも。最終的な判断はミリーに任せるって感じだな」

「うー、プレッシャーが……」

「普段から結構周りを見てるじゃない。普段通りでいいわよ」

「だな。難しく考えなくてもいいぞ」


 俺たちは少しずつ決め事を話し合いながら、今日のコボルト狩りを終えた。



 ジェドスの街に着いた俺たちは前回もお世話になった渡り鳥の集い亭へ向かう。

 看板娘のアンちゃんに案内され、それぞれ自分たちの部屋へと向かう。


 夕食後、二人の部屋で報酬の分配を行った。


「ビッグウルフの分があるから前回よりも悪くないのは間違いないな」


 今回の稼ぎは一人当たり六万ヴィル。

 金棒の購入代金として建て替えてもらっていた分を引いて、残りを受け取る。


「今回はビッグウルフを倒せたからこの額になったけど、そろそろ他の狩場も考えないとダメね」

「ダンジョンの奥へ行くって事か?」

「それも視野に入れていいかもしれないわね」

「ちなみにウルフ地帯の奥に森が見えたけど、何がいるんだ?」

「トレントっていう木の魔物だよ」

「木の魔物ならセレイナとミリーで何とか出来るか」

「過信は禁物よ」


 来週の休みは、トレント狩りを試すことになった。



 翌日、王都に戻った俺たちは次回も休みの前日に集まり、翌日からジェドスダンジョンに向かう約束を交わして別れた。


 宿に戻り、しばらくすると、サーナさんが部屋にやってきた。


「ダンジョン探索お疲れさまでした。アラタ様が学園に通えるようになる日が決定しました」


 どうやら俺がダンジョン探索に行っている間に決まったようだ。


「次の休み明けから通えるようになります。都合のいい日があればお伝えください。私から正式に返答しますので」


 都合のいい日か。

 そもそも明日からどう過ごそうか。

 やる事がない……。


「休み明けからすぐでお願いします」

「承知しました。明日の朝一番で伝えておきます」

「ありがとうございます。お願いします」



 ◆



 学園が休みになる前日、ミリーリアとセレイナの二人が宿にやってきた。


「あれ? 疲れてる?」

「ちょっと、明日から大丈夫なの?」


 二人が俺を見た第一声がそれだった。

 そして、俺は実際疲れている。

 暇疲れと言ってもいい。


 二人と合うまでの四日間、本当に暇だった。

 サーナさんの授業を振り返ったり、質問をしに行くのは有意義だったが、それだけで四日も過ごせるわけもない。

 下手に外出してトラブルに巻き込まれるのも嫌だったので、宿の敷地から一切出ていない。


 裏庭で金棒を振ったり、自室で筋力トレーニングに励んだり、瞑想をしてみたり……。

 これほど時間の流れが遅く感じたのは初めてだった。


 最近の出来事を二人に説明すると、何とも言えない顔をされた。

 俺も似たような表情になっているだろう。


「でも、休み明けから俺も学園に通うからそんな生活も今日で終わりさ!」

「ホント!? 決まったんだ!」

「へー、本当にいいタイミングね」


 学園では、先週個人の能力テストを行い、今週結果発表があったようだ。

 個人成績を加味してパーティーを組みかえる人が現れたりと、それなりに慌ただしい一週間だったとの事。


「でね、でね。“一石二鳥”はセッちゃん以外にも効果があってね──」


 ミリーリアは嬉々としてテスト中の出来事を俺に教えてくれた。


「順位とかあるのか?」

「あっ!」


 ミリーリアが何かを思い出したように声を上げる。


「見てもらうまで言わないでおこうと思ってたんだった」


 どうやら話の流れでポロっと漏らしてしまったようだ。


「話を戻すわよ。明日からトレントの生息エリアを探索するけれど、防具は大丈夫かしら?」


 二人はダンジョンに着いたら、制服から自前の装備に着替えるそうだ。

 以前会った金髪ドリルエルフ(?)のナールルというクラスメイトも制服ではなかったので、ダンジョンの奥に行くなら自前の装備が必要になるのだろう。


「学園の制服はもう借りてるんだよな。後は普段着しかないな」

「お父さんのマントもあるし、中は制服で十分ね」

「もう制服もあるんだ。ダンジョンに着いたら見せてね」


 本当は学園で制服姿を披露したかったが、安全第一だ。


「当然。それじゃ、明日からよろしく」


 明日の打ち合わせが終わり、二人は学園の寮へと戻って行った。



 ◆



 ダンジョンの中に入った俺たちは、出入り口から少し離れた所にテントを張り、それぞれ着替える。

 着替えにくかったが何とか着替え、二人の準備が出来るのを待った。


 少し経つと、着替えを終えた二人がテントから出てきた。


 ミリーリアは、白い足元まであるワンピースにベージュのカーディガンのようなものを羽織っている。

 長い薄桃色の髪と合わさり、どこかの令嬢だと紹介されても疑問に思わないだろう。


 そしてセレイナは黒い長袖シャツの上に皮の鎧を装着し、ズボンは青いジーンズのような物を履いている。

 材質が気になるが、触らせてもらう訳にもいかない。

 誰が見ても冒険者だと一発でわかる。


 制服姿の二人とは印象が逆だ。

 教科書通りに制服を着ているミリーリアは、冒険者スタイルだとオシャレに見える。

 普段制服を着崩しているセレイナは、冒険者スタイルだと教科書通りに見える。


「二人はそれが冒険者スタイルなのか? 似合ってるじゃん」

「アラタの制服姿も様になってるわよ」

「ありがとー。アラタも似合ってるね。あ、でもネクタイ曲がってるかも」


 そう言うとミリーリアは俺の近くまで寄ってきて、ネクタイの位置を調整してくれた。


「これでよし。じゃあ行こうか!」

「おう。何か気合が入るな」

「普段通りでいいわよ」


 ドキっとしたが、悟られないように何とか話を合わせ、俺たちはトレントの生息エリアへと向かった。



 道中、数体のコボルトとウルフを狩りながら目的地の森エリアへと到着した。

 移動中に聞いた話によると、トレントは普段は周りと同じような木に擬態していて、近づくと擬態を解いて攻撃してくるそうだ。

 近づかない限り向こうから襲ってくることはないので、いかにして先に見つけるかがポイントになってくる。


「あっちに二体いるわね」


 さっそくセレイナがトレントを見つけたようだ。

 案内され、トレントが擬態している木を指されたのだが、周りの木との違いがわからない。


 前衛として近づくべきか相談したら、まずは“一石二鳥”でどうなるか試してみようという事になった。

 村の近くの森で試したときは木の幹を貫通した組み合わせなので、トレントにも有効なら安全に倒せる事になる。

 ただ、俺の仕事がないという事にもなるのだが……。

 一撃で倒せなかったら、俺が抑えて追撃という形を取る事にした。


「【ニカイカラメグスリ】、【イッセキニチョウ】!」


 ミリーリアが【コトワザ】を唱え、セレイナが矢を放つ。

 矢が幹の中心から少し外れた位置を貫通し、跳弾が別の木に突き刺さると、二本の木はその姿を変えた。


 幹に目と口のような物が浮かぶ。

 そして、十メートルくらいあった高さが縮まり、ニメートル程になる。

 地面から根を抜き、足のように動かしながら二体のトレントはこちらに向かってきた。


 根の動きが気持ち悪い……。


「アラタは左のトレントをお願い!」

「おう!」


 泣き言を言っている場合でもないので、俺は矢が刺さらなかった方のトレントに向かって走り出す。


 俺が近づくとトレントが枝を振り回す。

 リーチは向こうの方が長い。


 冷静に避けながら金棒を叩きつける。

 そのまま振り抜くと、トレントは後ずさった。

 武器屋で試した巻藁のように、折れる事はなかった。


 俺と距離が離れたトレントに、矢が一本、二本三本と突き刺さる。


 もう一度金棒で殴りつけた所でようやくトレントは魔石へと姿を変えた。


 セレイナとミリーリアの二人も警戒しながら俺と合流する。


「何とか倒せたわね。それにしても、“一石二鳥”を使った状態で矢を放つと、貫通させる為に狙い通りの所に飛ばなくなるのね」

「シュルーケルさんは弾いてたけどな」

「シュルーケルさんは基準にしちゃダメじゃない?」

「そうよ。お父さんを基準に考えちゃダメよ」


 俺もそう思う。


「狙った所が貫通しないと、狙い通りの場所には飛ばないと考えると、アタシに足りないのは攻撃力ね」

「俺も巻藁は壊せたけどトレントは壊せなかったからなぁ。急に固くなりすぎじゃないか?」

「私なんて攻撃手段がないんだし、倒せるならいいんじゃないかな」


 それでも新たにわかった事もある。


 【一石二鳥】を使った状態で矢を放つと、一体目で矢が突き刺さる事はない。

 必ず二体にヒットするように自動調整が働くという事だ。


 恐らくシュルーケルさんに矢を放っても貫通させる事が出来ないので、彼に矢が接触したら俺が石で試したように弾かれて次の対象に当たる。

 どこを狙っても貫通は不可能だから、セレイナも今日まで狙いが逸れる事に気付かなかったのだろう。


 検証を終え、魔石を手に取った俺は二人に聞いてみた。


「ところで、この魔石はいくらだ?」

「二千ヴィルって所かしら。この感じなら悪くはなさそうね」

「気をつければ今までより稼げそうだよね」


 その後は【一石二鳥】を使わず、一体一体個別に倒すのが安全だという事に気付き、今日の狩りを終えた。

活動報告にてお知らせした通り、6月13日23時過ぎにスキルの記述について変更を行いました。

二章三十話と三十二話内で、スキルについての補足が入っています。


内容は、セレイナが使えるスキルは『裏取り』のみという点に変更はございません。

『索敵』が使えているように見えるが、スキルと呼べるほど練度が高くないという扱いになっています。

具体的にはスキルと呼べるまで鍛えた『索敵』は、方向を絞る事で距離を伸ばせたり、反応があれば対象の形や大きさもわかります。

スキルレベルと表現するのが一番わかりやすいのですが、物語にレベルという概念を持ち込みたくなかったので、非常にわかりにくい説明となっております。

スキルと呼べるまで鍛えた技術は凄いという認識で問題が生じないように、物語は進めます。

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