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ウルフが出没するエリアに到着する前に、ウルフの特徴について確認する。
「ウルフと戦うにあたって気を付けるべき点は?」
「まず、視界が悪くなるわ。具体的には茂みの割合が増えるわね」
コボルトやホーンラビットと遭遇した草原には、俺の腰くらいまである長めの草が生えている茂みが所々に存在していたが、気になる程ではなかった。
セレイナは茂みに隠れているコボルトは避け、戦いやすい所にいるコボルトの下へ俺たちを誘導していくれていたようだ。
「それと、基本的には複数で行動しているわ。とは言っても、ダンジョンの外と違って群れという集まりがある訳でもないから、何十体も同時に相手にするって事はないわよ」
「襲撃があったときに最初に突っ込んできたのがウルフで、森で遭遇した二匹がビッグウルフって事でいいんだよな? 集団って何体くらいなんだ?」
「その認識でいいわ。ウルフの集団は三体から六体って所ね」
「逃げたりは?」
「状況によってかしら。向こうが気付くのが先なら相手次第ね」
「了解。何か難易度が上がってるような気がするな」
「そうだよ。だから私たちは二人の時はコボルトばっかり狩ってたんだよ」
「セレイナの『索敵』でウルフを探して、ミリーの“二階から目薬”で補助とかは考えなかったのか?」
「狙いが定まらないし、そもそも茂みの中から魔石を探すのは効率が悪すぎるわ」
話を聞く限り、ウルフ狩りは安定しないようだ。
ダンジョンの奥へ奥へと向かって行くと、心なしか茂みの割合が多くなってきているように感じた。
そして、視界の遥か先には森のようなものが見える。
「そろそろウルフが出てくるって事でいいのか?」
「正解よ。この辺りからは茂みが邪魔で、戦い辛くなるわ」
セレイナの足が止まる。
「この先に三体いるのだけれど……」
セレイナが指し示す方向は俺の腰まである茂み。
「向こうから襲ってくる気配は?」
「今の所ないわね」
「どうするの?」
どうしたものか。
茂みに侵入すると視界が悪くなり、金棒での攻撃手段も叩きつけるがメインになりそうだ。
「茂みを揺らしたりしたら向こうも気付くと思うか?」
「この距離だと難しそうね」
「口笛とかは?」
「絶対に駄目よ。一気に寄ってきたら手が付けられなくなる可能性があるわ」
危ない所だった。確認して良かった。
「うーん、ダンジョンのウルフってどうやって倒すんだ?」
「前衛で刃物を使う人が茂みを切り開きつつとか、魔法使いが風魔法である程度戦う場を整えたりとかね」
金棒使い、弓使い、コトワザ使い。
何とも尖ったパーティーだ。
「次を探そうか」
「わかったわ」
それからしばらくセレイナに索敵をお願いしたが、なかなか良い位置にいるウルフが見つからない。
「なぁ、ウルフでも連携の確認が出来るって言ってたよな? どういう状況を想定してたんだ?」
「アラタが茂みに突っ込んで、危なくなったらアタシが援護する感じね」
それは連携と呼べるのだろうか?
「こうしてみると私たちに何が出来て、何が出来ないかっていうのもわかるよね? こういうのもパーティーを組む上で知る必要があるんだよ」
「確かにそうだな」
ウルフに“犬も歩けば棒に当たる”が有効かどうかを調べる事ばかりに意識が向いていたが、自分たちに何が出来るか確認するという事が大切なのもわかる。
「どうする? 戻る?」
「私はどっちでもいいよ。アラタは?」
恐らく探索を続けても、狩りやすい位置にウルフがいる事はないだろう。
そう考えると、稼ぐという事を考えた場合、戻ってコボルトを狩るのが正解だ。
だが、そうすると今までの時間が無駄になる。
それは勿体ない。
俺自身、マノト村で初めて見た魔物であるウルフとどこまで渡り合えるか気になるというのもある。
【虎穴に入らずんば虎子を得ず】とも言うし、自分たちが有利な環境だけではなく、相手の土俵で戦っておく必要もあるだろう。
「ミリーの“犬も歩けば棒に当たる”は、敵が見えてなくても使えるのか?」
「どうなんだろう? 姿が見えてるコボルトにしか試してないからわからないな」
「了解。セレイナは俺が茂みに突っ込んで、危なくなったらサポートしてくれるって事でいいのか?」
「えぇ。ある程度近くまで寄って来たら姿が見えなくても外さないわ」
俺は茂みに向かって金棒を横に振ってみる。
多少草に引っかかる感じはあるが、振り抜くことは出来る。
「常に戦いやすい所で戦えるとも限らないし、ウルフが三体の集団を見つけたら教えてくれ。突っ込んでみる」
「わかったわ」
「私も“犬も歩けば棒に当たる”を使ってみるね」
「あー、ミリーはセレイナに“二階から目薬”をかけてくれた方が安心かも」
「そうだね。わかったよ」
ウルフが犬判定になり、さらに姿が見えない敵にも効果が現れる。この二つの関門を同時に突破する必要がある“犬も歩けば棒に当たる”を使ってもらうのは少しリスクが高い。
歩きながら打ち合わせをしていると、三体で行動しているウルフが見つかったようだ。
「アタシたちはこの辺かしらね」
後衛の二人は、ある程度開けている場所で周囲の警戒をするようだ。
「んじゃ行ってくる」
「無理はしないでね」
「フォローは任せなさい」
二人に見送られ、俺は茂みへと足を踏み入れる。
「来てるわよ!」
ある程度茂みを進んだところで、セレイナの声が聞こえた。
それと同時に、俺の耳にも前方から茂みをかき分けるような音が入ってきた。
茂みが揺れているのがわかる。
揺れが三方向に分かれた。
前方からウルフが飛び掛かって来る。
冷静に金棒を上から叩きつける。
俺の両サイドからも同時に飛び掛かってきている。
叩きつけた金棒を、そのまま左方向に振り上げ一体仕留めた。
右方向のウルフはセレイナが矢を放ち仕留めたようだ。
俺は魔石と矢を探し出し、二人の下へ戻る。
ウルフから入手できる魔石はコボルトやホーンラビットよりも少し大きいように見える。
「お疲れ様」
「アラタお疲れー」
「お疲れ。ところでセレイナは俺が左のウルフを攻撃するってわかってたのか?」
俺が左のウルフを倒すのと、右のウルフが矢で射抜かれるのはほぼ同時だったと思う。
「えぇ。右手を上に握ってるし、普段右から左に向かって金棒を振っているわよね? 叩きつけた後、振り上げるなら左の方が動きやすいでしょ?」
マジか……。
そんなところまで見てるのか……。
連携の確認の意味がわかった気がする。
俺はウルフの魔石三個と矢をセレイナに渡す。
「ありがと。ウルフ三体なら問題なさそうね。どうする? もう少し狩る?」
「私はどっちでもいいよ」
「効率としてはコボルトを狩る方が稼ぎはいいよな?」
「今の所そうなるわね」
そうなると、これ以上ウルフを狩る意味はないのかもしれない。
でもウルフに“犬も歩けば棒に当たる”が有効かどうかも気になる。
「なぁ、ここで口笛を吹いたらどれくらいウルフが寄って来ると思う?」
それなりにこのエリアを歩いたが、ここの周辺が一番見通しが良い。
「まだ諦めてなかったの……。そうね……四体の集団は確認できてるわ。この集団は口笛を吹けばこっちに気付いて来ると思うけど、他の集団がいるのかいないのか、それがわからないのが不安ね」
「よし、普通に倒しながら戻ろうか」
「そうしよっか」
「わかったわ。四体の集団はあっちよ」
俺たちは狩りやすいウルフの集団が居たら狩るという方針で、このエリアから離れる事にした。
ある程度来た道を戻ると、先頭を歩くセレイナが小声で俺達に話しかけてきた。
「強めの反応が一つだけずっとついてきてるのよね」
「ウルフとは違うの?」
「そうね。普通のウルフは一体で行動しないはずよ」
「ウルフより強い反応があって、単独行動を取ってる……ねぇ、もしかしてビッグウルフ?」
「可能性は高いわね」
「逃げ切れるか?」
「少しづつ近づいてきているわ。逃げるよりも迎え撃った方が安全かも」
ビッグウルフの可能性があるのか。このエリアのボスなのだろう。
警戒しつつ、戦いやすそうな場所を探す。
「この辺が今までで一番マシね」
周囲は比較的、背丈が低い草が集まっている茂み。俺の膝丈くらいだ。
ビッグウルフだとしたら見失う事はないだろう。
セレイナが指し示す方向を警戒する。
「来るわよ! 周りに他のウルフの反応はないわ!」
そうセレイナが言うと同時に、奥の茂みが揺れる。
見間違う事はない。
姿を現したのはビッグウルフだ。
向こうはこちらを警戒しているのか、動きはない。
「フォローよろしく」
俺はゆっくりとビッグウルフに近づく。
五メートルくらいまで距離を縮める。
唸り声が俺の耳に届いてくる。
シュルーケルさんには、一対一でもビッグウルフを倒せるだろうと言われている。
集中しろ。動きを見逃すな。
来た!
速い!
ウルフより巨体だが、突進スピードは比にならないほど速い。
ビッグウルフは俺に飛び掛かろうとしている。
タイミングを合わせ、金棒を振り上げようと構える。
──ここだ!
マジかよ!
金棒を振り上げるが、ビッグウルフに当たる事はなかった。
飛び掛かるモーションはフェイント。
実際は俺の手前までジャンプで距離を詰めただけ。
金棒を振り上げた俺に隙が生まれる。
ビッグウルフは再び俺に向かって飛び掛かって来る。
間に合え!
振り上げた金棒を無理やり叩きつけ……る前に、ビッグウルフが金棒に吸い込まれる。
インパクトのタイミングが合わず、金棒が後ろに弾かれる。
金棒と接触したビッグウルフは空中で一回転し、俺から距離を取る。
この不自然な動きは見覚えがあった。
「【イヌモアルケバボウニアタル】!」
はっきりとミリーリアの【コトワザ】が聞こえた。
俺は全力でビッグウルフに向かって走り出す。
向こうもこちらに向かって来ている。
ここだな。
俺は全力で横なぎに金棒を振るう。
【犬も歩けば棒に当たる】がビッグウルフにも有効だとわかったんだ。
フェイントをかけようが、回避を試みようが無駄だ。
俺が振るった金棒にビッグウルフが顔面から突っ込んでくる。
完璧なタイミングで捉えた感触が伝わってくる。
吹き飛んだビッグウルフは、空中でその姿を魔石へと変えた。




