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 俺が気持ちに整理をつけている間に、ガーノスト騎士団長は元の位置にゆっくりと戻って来る。


「さぁ、覚悟は決まったかね? いつでも来るが良い!」


「行きます!」


 俺は全速力でガーノスト騎士団長に近づく。


「うおぉぉぉ!」


 気合いだ!

 この人に手加減は不要!

 感覚を掴め!


 ガーノスト騎士団長の腕を目掛け、全力で金棒を横なぎに振るう。


「まだだ! まだ弱い!」


「らあぁぁぁ!」


 足を止めてしっかり振り抜く!

 地面をしっかり踏みしめろ。

 

「そうだ! 今のは良い! 一撃で無力化するなら今の力加減だ!」


 地面を踏みしめる足からの力を漏らす事なく金棒に伝える。


「強すぎる! 振りやすいからと言って上半身ばかりを狙うな! 足ならいくら打ち込んでも命までは取れん!」


 アドバイス通り足を狙って金棒を振り下ろす。


 ガーノスト騎士団長は一歩分足を後ろに下げる。

 金棒が地面を叩く。


 それと同時に腹部に鈍い痛みが走る。


「見え見えだ! 目線を固定するな! 全体を見よ!」



 どれだけ金棒を打ち込んだのだろうか。

 狙ってはいけない場所、角度、威力。

 その全てを叩きこまれる。


 致命傷を与える可能性のある攻撃、または一撃で動きを止められないようなヌルい攻撃には反撃という、非常にわかりやすい方法で対人戦のコツを教えてくれるガーノスト騎士団長。


「よし、一度休憩だ」

「ありがとうございました」


 大きく息を吐く。


 これが対人戦か……。

 

 ふと疑問に思う。

 何で俺は対人戦の訓練を受けているのだろうか。

 俺の危険度を測るのが目的だったとはずだ。


「おう、アラタお疲れ。先輩もありがとうございました」

「ガーノスト団長お疲れさまでした。アラタ殿もお疲れ様です」


 シュルーケルさんとロイさんが労いの言葉をかけてくれる。


「まだ終わってないぞ。休憩だ、休憩」

「いや、先輩。アラタが危険か否かの確認でしたよね?」

「そうだ」

「ならもういいんじゃ……」

「……」


 あの、ガーノスト騎士団長。なぜ無言になるのでしょうか。


「だがシュルーケル、娘二人を任せるのなら対人戦には慣れてもらったほうがいいのではないか?」

「正直言いまして、十分かと」

「そうか。ロイはどう思う?」

「私の目から見ても十分ではないかと」

「ふむ、君はどうだ? まだ続けたいかね?」


 俺に振られても困る。

 そしてシュルーケルさんもロイさんも困ってる。


「基準がわからないのでお聞きしたいのですが、俺の攻撃でどの程度の強さの人を制圧できるんですか?」

「今のアラタは、一対一ならその辺の賊くらいなら制圧できるだろうな」


 十分じゃないか。

 ちなみに、ビッグウルフも一体だけなら時間を掛ければ俺一人でも倒せるんじゃないかとの事だ。


「まだまだ粗削りだが、悪くはなかったぞ」


 休憩後の模擬戦を諦めたのか、ガーノスト騎士団長はまとめに入る。


 彼もミリーリアとセレイナの事を知っているので、少し熱くなったらしい。

 元冒険者として、半端な気持ちで旅をする事の危険性を伝えたかったようだ。

 

 ガーノスト騎士団長との模擬戦で得たものは多い。


「ありがとうございました。おかげで突然襲われても対処できそうです。そして、どう足掻いても攻撃が通じない相手がいるっていうのも改めて理解しました」


 恐らくだが、この場にいる三人には俺の攻撃は一切通じないだろう。

 この三人クラスの賊に襲われたら……時間だけは稼ごう。それしか方法はないだろう。


「必要、か?」


 ガーノスト騎士団長が俺に問いかける。


「今以上の攻撃手段は必要か?」


 頬の傷を撫でながら、俺の目を見ながら問いかけてくる。


「むやみに使うつもりはありませんが、選択肢は多い方がいいです」


 これから何が起こるかわからない。

 現状、攻撃面ではミリーリアとセレイナに頼りっきりだ。

 万が一、二人が動けなくなった時の事を考えると、俺一人でも状況を打開できる何かが欲しい。


「どれ、金棒を貸してみなさい」


 俺から金棒を受け取ったガーノスト騎士団長は俺に背を向け、両手で金棒を握り、そのまま全力で地面に向かって振り下ろした。


 地面が揺れる。

 砂が飛び散る。

 そして、金棒が叩きつけられた地点は地面が放射線状に抉れている。


「これは『スタンプ』というスキルだ。重量がある武器で使える基本スキルになる」


 使い方の説明を受けたのだが、金棒に魔力を込めて、ただ叩きつけるだけと言う非常にシンプルなものだった。


「その……魔力というものがなんなのかイマイチわからないですが……」

「『身体強化』を使っているだろう。そのまま武器にも纏わせるイメージだ。武器も体の一部だと思え」


 身体強化なんて使ってる記憶はないんですが……。

 

 金棒を返されたので、とりあえず言われた通りにやってみる。


「つっ……」

「違う。力任せに叩きつける訳じゃない。武器も体の一部だと思え」


 どれだけ地面を叩き続けても、一向に感覚が掴めない。


「アラタ殿、こちらを試してみてもらえますか?」


 いつの間にかロイさんの手には、手錠が握られている。


「装着した者の魔力を吸収する手錠です。恐らくアラタ殿は『身体強化』を無意識のうちに使っている様子。魔力が抜ける感覚を掴めば、何かしらのヒントになるかと」


 そう言ってロイさんが俺に近づいてくる。


 それ以上はいけない……。


 俺のためを思っての提案なのだろう。

 それは理解できる。

 理解できるのだが、手錠は……。


「始めは少し驚くかもしれませんが、それ程効果は強くしてありません。あくまで感覚を掴んでもらうだけです」


 もう手錠を嵌めるのは決定事項なのだろう。

 俺は素直に両手を前に出す。

 そしてロイさんに手錠を嵌められる。


 すると、何かが俺の身体からスッと抜けていくような感覚に襲われる。

 血の気が引く感覚とでも言えばいいのだろうか。

 少し寒気がした。


 ロイさんはすぐに手錠を外してくれた。


「今のが魔力を失う感覚です」


 なるほど。

 感覚はわかった。

 後は意図的にあの感覚を再現するだけだ。



 もうすぐ日が暮れそうだ。


「さて、今日はここまでか」


 ガーノスト騎士団長が、今日の訓練の終わりを告げる。

 三人は最後まで俺に付き合ってくれた。

 俺は結局手応えを得られずにいた。


「アラタ、そもそもスキルってのは一日で身に付くもんじゃねーからな?」


 シュルーケルさんのフォローが胸に染みる。


「それでは先輩、俺はアラタを送っていきますんで」

「そうか、わかった。コトエダアラタだったな。君が危険な存在ではない事は把握した。君の望み通り、存在は秘匿しよう。目的が達成できることを祈る」

「ありがとうございました。非常に有意義な時間を過ごすことが出来ました。いつか『スタンプ』をものに出来るよう精進します」


 まだ訓練施設に残るガーノスト騎士団長とロイさんに別れを告げ、俺たちは宿へと向かった。



「随分先輩に気に入られたな」


 道中、シュルーケルさんに何気なく、そんな事を言われた。


「そうなんですか?」


 聞くと、スキルを教えるというのは信用できる相手に限定するのが一般的なのだとか。

 同じような効果であっても、使い手によって過程が違う事もザラで、そのコツは秘伝のようなものらしい。


「基本スキルとは言え、先輩がコツを素直に教えてくれる事なんて滅多にない事だからな」

「そうなんですね。期待に応えられるように早めにものにしたいところですね」

「おう。その心意気だ」


 王都の門に到着した。

 ここでシュルーケルさんと別れる。

 

「んじゃま、しばらくは会わねーと思うけど、元気でやってけよ」

「はい。今日もありがとうございました。もうすぐ俺も学園に通う事になるので、気合を入れて頑張ります」

「ん。いい顔だ。そんじゃ、二人の事よろしくな」


 そう言い残し、シュルーケルさんは人込みの中へ消えていった。



 ◆



 アラタを王都の門まで送り届けたシュルーケルは、再び騎士団の訓練施設へと向かう。

 施設に着くと、騎士団長とアラタの模擬戦を見ていた他の隊員達の姿はなかった。


 誰もいないグラウンドを通り抜け、シュルーケルは二階建ての建物に入る。

 

 目的地である応接室には、ガーノストのみ。


「戻ったか」

「はい。アラタはどうでした?」

「アレとは違うな。問題はないだろう」

「先輩がそう言うのなら大丈夫そうですね」


 シュルーケルの顔に安堵の表情が浮かぶ。

 それほど心配はしていなかったが、ガーノストのお墨付きを得た事で、自分の見る目は間違っていなかったと確信する事が出来た。


 ──『予感』


 頬の傷に触れると、どうすれば物事が上手く運ぶか何となくわかる。

 明確な定義がある訳でもなく、ひどく曖昧なものだが、ガーノストと深い付き合いのある者はこの『予感』を信頼している。


「さて、今日来てもらったのは山狩りであった出来事を伝えるためだ」


 シュルーケルの表情が強張る。


「さて、どこから伝えるか。先ほどの使い魔……コトエダアラタか。最近召喚された人型の使い魔は彼一人ではない」


 突然の告白にシュルーケルに緊張が走る。


「使い魔というと語弊があるな。召喚されたのは勇者と呼ばれる存在だ。男女五名の勇者が先日この世界に現れた」


 シュルーケルは黙って話の続きを待つ。


「山狩りにはこの勇者も参加していた。当然騎士団の補助もあったが、一部を逃したそうだ」


 この発言で状況を理解した。

 過去一度も魔物がマノト村に流れてくることなどなかった山狩りに第三者が介入した。それが失敗した理由。


「で、その勇者とやらのせいでうちの村が襲われたと」

「いや、勇者が悪いわけではない。悪いのは我々騎士団だ。済まなかった」


 そう言ってガーノストは頭を下げる。


「頭を上げてください。先輩が悪いわけではないです」


 頭を上げたガーノストが口を開く。


「領民を危険に晒したのは事実だ。騎士団長として上には提言した」

「幸いな事に死者は出ませんでした。物的被害のみで済んだのでこれ以上は言いません」


 魔物の襲撃事件が起こった原因は把握した。

 そうすると、気になるのは勇者と呼ばれる存在についてだ。


「で、その勇者ってのは何者なんです? 召喚されたって話ですが、誰に召喚されたんですか?」


 ガーノストは、自身が知る勇者が召喚された理由をシュルーケルに伝える。

 勇者召喚の際、ガーノストら各騎士団長も現場に居合わせている。

 教会からはエンギード大司教らもその場には居合わせているので、ある程度の事は聞いている。


「なんだってまぁ……。で、その話を俺にしてどうしろと?」

「どうにもな、俺の『予感』が反応するんだ。打てる手は打てってな」

「それで俺にも知っておけと」

「そういう事だな」

「体が訛ってるのは自覚してるんですけどね。動けるようにはしておきますよ」

「それでいい。何が起きるかは俺もわからん。だが、備える必要はある」


 二人の話し合いは、夜遅くまで続いた。



 ◆

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