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 どうにかミリーリアを宥める事に成功し、金棒の支払いを済ませる。

 何の変哲もない金棒のお値段三万ヴィル。一メートルにも満たない長さで、先端が太くなっているタイプの鬼が持っているような金棒だ。

 俺一人で支払いを済ませる事も可能だったが、今後も色々お金を使う機会もあるという事で、ミリーリアとセレイナの二人がそれぞれ一万五千ヴィル貸してくれた。


「アラタが戦えるようなら、ジェドスダンジョンの奥に行くのも悪くないわね」

「ある程度奥まで行けたら、これくらいすぐ稼げるから気にしないでね」

「ありがとう。早く稼がないとなあ」


 正直な話、今すぐにでもジェドスダンジョンで金棒の力を試したいと思っている。

 武器を手に入れたら使ってみたくなるのは当然だと思う。それが初めての自分用の武器であれば尚の事だ。


 とはいえ、俺の本分はダンジョンに潜って稼ぐことではない。稼ぐのは悪い事ではないが、必要最低限でいいだろう。


 買い物を終え、宿へ戻る道中、ミリーリアがそういえばといった感じで問いかけてくる。


「私たちは明後日から学園が始まるから、明日から寮に戻るけど、アラタはいつから寮で暮らすの?」

「まだ未定らしいんだよな。それほど遅くはならないみたいだけど、初日から通うって事にはならないみたいだ」

「そっか。アラタはアラタで今日も勉強してたみたいだしね。まずは勉強が終わらないとダメだもんね」

「それもあるな。後は、なるべく俺を学園に関わらせないって配慮もあるみたいだぞ?」

「あー、そっか。初日からいたら課題前の最後のパーティー勧誘とかありそうだもんね」

「ミリーに【コトワザ】を伝えるためって理由があるから、その辺は配慮されてるとは思うんだけどな」

「それでも初日に留学生として紹介されるよりは、余計な揉め事は起きにくいとは思うわよ」

「目立たずひっそりとなじめるといいなあ」

「難しいと思うわよ?」


 冒険者を目指している冒険者科の人達にとって、教会関係者の俺と繋がりを持つというのは魅力的に映るものらしい。

 しかも学園の最終学年に留学してくるのだ。様々な思惑で近づいてくる者が現れるだろうと教えられた。


「そっか。友達出来るかなとか言ってられないのか……」

「そもそも冒険者を目指している私達にとっては同期はライバルか仲間かって感じだよ?」

「他の科の人と知り合いになれば友達付き合いもあるんでしょうけど、アタシたちは休みの日はほとんどダンジョンに潜ってたから付き合いもないのよね」

「そういうもんか。ところで、次の休みってのはいつなんだ?」

「あら? デートのお誘い? 悪いわね。アタシたちは次の休みはジェドスダンジョンに行くの」

「へぇ。随分有意義な休みを過ごすみたいだな。そういえば、金棒を入手した使い魔がダンジョンに行きたそうにしてるって話を聞いたんだけどどう思う?」

「そうねぇ、ミリーはどう思う?」

「んー、どうしよっかなー。確かに私たち二人じゃ奥に行くのはちょっと心細いよね。その使い魔さんってどんな人?」

「そうだなぁ、まず──」


 気安いやり取りを交わしながら、俺が泊っている宿へと向かう。



 宿に着き、次の休みまで会う機会がない事がわかったので、ミリーリアに『【コトワザ】集』を返しておく。

 学園で会ったら、今度は寮に置いてある『【コトワザ】集』を貸してくれるらしい。

 いつか本屋巡りもしたいとミリーリアが言うので、俺も「そうだな」と応えた。


 俺の武器選びに付き合ってくれた二人は「また学園で」と言って、遅くなる前にディーファさんが待つ家へと帰って行った。

 

 そして、本屋巡りで思い出した。

 言語理解の影響で全部日本語に見えるんだった。

 言語理解を手に入れる前に『【コトワザ】集』を見ていれば日本語で記されているかわかったが、今の状態ではわからない。

 言語理解のオンオフ切り替えが出来るかアルさんに確認するつもりだった。

 

 アルさんの言葉を思い出す。

 世界の危機、か。

 金棒一つで対抗できるようになったとは思わないが、ミリーリアに関わる事なのか、それとも俺が関係しているのか、全く無関係なのか。いずれにしても指を咥えてみているだけの状況にはならないだろう。

 ダンジョンで俺がどこまで活躍できるか、少し楽しみにしながらジェドスダンジョンに潜る日を待つことにした。



 ◆



 いつものようにサーナさんが泊っている部屋で教会についての授業を受けていると、ドアをノックする音が響く。


「お客様、シュルーケル様とロイ様がお見えです」

「わかりました」


 シュルーケルさんとロイさんが来たという事は、以前言っていた騎士団長という人に会う事になるのだろう。


 サーナさんと受付に行くと、シュルーケルさんとロイさんが待ち構えていた。


「おう、アラタ元気してたか? ダンジョンに潜ったんだってな? どうだったよ?」

「お久しぶりです。元気でしたよ。ダンジョンは不思議な所だなーって感じですかね? 王都へはいつ到着したんですか?」

「昨日だな。久しぶりに朝から走ったけどよ、南区に着く頃には日が暮れてきやがってよ」


 俺たちが出発してから数日後にマノト村を出たと判断したのだが、勘違いだったようだ。

 俺たちが約一週間かけて歩いた道のりをシュルーケルさんは一日で走破したと言う。


 ロイさんに確認したところ、こんな芸当が出来るのはシュルーケルさん位だと言われた。


「先輩、そろそろ本題に入らないと団長が……」

「そうだな。サーナ殿、これからアラタをお借りしても?」

「はい。問題ありませんよ。勉強漬けというのも飽きがくるでしょうし、気分転換も必要ですからね」

「ではお借りします。そういう事だからよ、準備してこい」

「はい」


 部屋に戻り、漆黒のマントを装備して皆が待つ受付へと戻る。

 マントに縫い付けられた魔法袋の中には先日買った金棒が入っている。

 これを見た時、シュルーケルさんがどんな反応を見せてくれるのか少し楽しみだ。

 時間があったらシュルーケルさんにも金棒を使ってもらいたいと思っている。

 間違いなく似合うだろう。



 俺たちは王都を出て、南区にある騎士団の訓練施設へと向かう。

 

「で、ダンジョンにも潜ったアラタは攻撃手段は見つけたのか?」

「ええ。期待は裏切らないと思いますよ」

「ほぉ? 自信ありって顔だな」

「アラタ殿の武器ですか。私も気になりますね」


 金棒を手に入れる前の俺の戦闘力を知っている、戦闘の達人が二人もいる。

 この二人を唸らせる事が出来れば十分と言ってもいいだろう。


「そういやロイ、アラタには先輩の事どこまで伝えてあるんだ?」

「団長にはアラタ殿の事をある程度は伝えましたが、団長の事はアラタ殿には伝えていませんでしたね」


 これら会う人はロイさんが所属する王都第七騎士団の団長で、シュルーケルさんにとって先輩にあたる元冒険者だった人だ。


「王都第七騎士団騎士団長で、名前はガーノストです。私がアラタ殿の事を伝えた際、それ程警戒された様子もなかったのでアラタ殿は自然体でいいと思います」


 戦闘力に特化した人型の使い魔ではないという事は向こうも把握してくれているようだ。


「そういえば、この世界の実力者同士の戦いってのを見た事がないので、訓練施設に行ったら騎士団長さんとの模擬戦とか見せてもらえたりしないですかね?」


 何気なく言い放った俺の一言は、禁句だったようだ。


「バッカヤロー! 間違っても先輩の前でそんな事言うんじゃねーぞ!」

「私も今日は非番なので、団長と模擬戦をするくらいなら先輩と……いや、どちらも遠慮したいですが……」

「まぁ、恐らくアラタは先輩と一戦交える事になると思うが、俺たちを巻き込むなよ? どうしても見て何かを感じたいって言うなら俺とロイの模擬戦で我慢してくれ」

「結局私も模擬戦に参加するんですね。先輩と戦うのなんて何年振りですかね」

「セレイナとミリーリアが学園に入学した時以来になるのか?」

「そうすると二年振りくらいですかね?」

「どれくらい成長したか確認してやるよ」

「いい加減先輩を超えないと部下に示しがつかないですからね」

「ハッ、言ってろ」


 二人の戦闘狂は、俺の事なんかお構いなしに盛り上がっている。

 火を着けたのは俺なので、止める事も出来ない。

 騎士団長がガーノストさんって情報しか入手できなかった。


 二人が模擬戦を嫌がる程強い人との模擬戦か……。

 

 模擬戦な訳だし、何事も経験だと思う事にしよう。


 盛り上がっているおじさん二人の案内で、俺たちは南区にある騎士団の訓練施設に到着した。

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