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 教会で身分証明書を発行してもらい、ミリーリアとセレイナの母親のディーファさんの家で夕食会を開いてもらった日から一夜明け、今日からサーナさんによる教会という組織についての授業が始まる。

 授業とは言っても、俺は教会に身を置くわけではない。なので、学園で何か教会について聞かれてもボロが出ないようにするという程度の内容になる。


「アラタ様は冒険者科に通う事になりますし、まずはどのような修行を積む必要があるかから説明いたします」


 司祭以上の階位に就くためには、王都の遥か北にあるカムハーフェン聖教国という国で、一定期間の修行を積む必要があるらしい。

 サーナさんが語る修行の内容はどれも過酷で、途中で脱落してもおかしくはないものだった。



「以上が私が経験した修行の内容になります。とは言いましても、この後もまだまだ修行は続きますけどね」

「え? 内容にも驚きましたが、実体験なんですか?」

「そうですよ。本格的な修行を始める前に、仮の修行を行って耐えられるか否かの確認があります。望むのならそのまま本格的な修行に移れますし、一度間を空けてから本格的な修行に取り組む者もいます。私は後者ですね」


 サーナさんは王都への徒歩移動について、“シスターだから”大丈夫と言っていたが、大丈夫なのはサーナさんだからだと思う。

 雨の日も風の日も雪の日も、定期的に山を登り、山頂にある礼拝堂まで祈りを捧げに行く体力と精神力があれば、王都までの徒歩移動は苦にはならないのかもしれない。

 いや、苦しくても耐えられるっていうのが正解か。

 【心頭を滅却すれば火もまた涼し】に近いものがある。


「俺は修行の第一段階を修了したという設定になるんですよね?」

「そうですね。その後、色々な土地を巡っている時にミリーリアさんに出会い、【コトワザ】を伝える事になったという感じですね」

「なるほど、わかりました」


 第一段階を修了したという事は、よほどの事がない限り弱音を吐くわけにはいかないだろう。

 俺に修行内容を伝えてくれたサーナさんは、時々遠い目をしていたような気がするが、表情に変化はなかった。

 学園でボロが出ないよう、慎重に立ち回らないといけない。


「ところで、なぜサーナさんは修行を受けようと思ったんですか?」

「そうですね……運良く私には召喚魔法の適性があり、初めて召喚に成功した使い魔がピーちゃんでした」


 当時の事を思い出しているのか、彼女の表情は柔らかい。


「一度ピーちゃんに無茶なお願いをして、怪我をさせてしまいました。その時に先生は送還したら大丈夫っておっしゃってくださったのですが、私は泣きながら謝る事しか出来ませんでした。後日、再度召喚したら怪我なんてなかったように元気な姿で私の前に現れてくれました。ピーちゃんにその時の事をしっかり謝りたいっていう想いがあり、修行を重ねたら、もしかしたらピーちゃんといつか会話できるのではないかという考えからですね」


 サーナさんは本当にピーちゃんの事を大切にしている。マノト村でもピーちゃんと会話が出来ないか俺に確認してきた程だ。

 彼女の想いはピーちゃんに届いてるんじゃないかな。

 俺が初めてピーちゃんに会った時も、サーナさんの側に居たいように見えた。


「アラタ様の場合は少し違うかもしれませんが、考えている事はしっかりミリーリアさんに伝えてくださいね。きっと安心できますから」

「わかりました。覚えておきます」


 確かに最初は不安そうにしてたっけな。

 今の所俺はこの世界を楽しめているし、ミリーリアが気にしているようなら伝えないと駄目かな。

 でもタイミングがなぁ。


「そろそろお昼ですし、お昼休憩にしましょうか」

「わかりました。午後からもお願いします」

「ここまでは順調ですので、お二人が来るまでには今日の分は終わると思いますよ」


 昼休憩を挟み、午後からもサーナさんによる授業は続く。



 時刻は夕方に差し掛かろうとしている頃、ミリーリアとセレイナが宿にやってきた。

 サーナさんの授業も丁度キリがよかった事もあり、今日はこれで終了となり、この後は自由時間だ。


「これから、シュルーケルさんに紹介してもらった武器屋に行くって事でいいのかな?」

「だな。所持金約四万ヴィルで何が買えるんだろ……」


 ミリーリアが所持しているオシャレな棒は、重量軽減効果だけではなく、消費魔力減少効果も付与されていて、お値段二十万ヴィル。

 効果付与なしだったら買えるかもしれないが、選択肢が限られそうだ。


「貸してもいいわよ?」

「私も少しなら出せるよ」


 二人は何てことないように提案してくる。


「借りるの前提ってのもおかしいから、まずは行ってみてからだな」

「どうせパーティーで活動するのだし、妥協して安い武器を選ぶっていうのは許さないわよ?」

「そうだよ。武器は攻撃だけじゃなく、身を守るためにも使うんだからね」

「二人の意見も参考に選ぶから色々教えてくれると助かる」



 シュルーケルさんに教えてもらった武器屋に着いた俺は、二人に付き添われながら店内をうろつく。

 剣一つを見ても、長さや太さに違いがある。


「これは迷うなぁ」


 現在俺が見ているのはナイフが置かれている区画だ。

 隊員さん達との訓練初日に剣、斧、ハンマーは試している。

 恐らく重量軽減効果が付与されていなかったのだろうが、どうしても手が伸びなかった。


 そして、非力な俺でも手軽に扱えそうなナイフを発見した。


「ナイフ自体は取り扱いは簡単だけど、結局効果付与頼りなのよね」


 そう、セレイナの言う通り、ナイフ自体は重さがそれほどないので、攻撃手段としては技術を磨くか、特別な効果を付与するかしないと俺には扱えないだろう。


「属性付与ってのはロマンはあるんだけどなぁ」


 例えば、ナイフに風属性の効果を付与すると、持ち手の部分に組み込まれた魔石の魔力を消費して、切れ味が増す。

 当然便利なのだが、費用面がネックになる。


「一応候補に入れておこうか」


 まだ全てを見たわけではないので徘徊を続ける。

 すると、見覚えのある武器が目に付いた。


「なあ、これってミリーが使ってる棒だよな?」

「そうだよ。私の棒は少し光ってるでしょ? 黒鉄に魔石の欠片を混ぜて、この魔石からも【コトワザ】で使う魔力を供給してるんだよ」

「そういう仕組みなのか」


 魔法使いと言えば杖のイメージだったが、魔石を利用したら杖にこだわる必要はないのかもしれない。

 

 他にも色々な棍棒が並んでいる。

 先端が太くなっている棍棒なんてシュルーケルさんに似合いそうだ。

 持たせたら【鬼に金棒】とか言って、手が付けられなくなったり……。


 【鬼に金棒】……。


「なぁ、武器の試し振りって出来るかな?」

「あら、気になる武器でも見つけたの? 聞いてくるわ」


 セレイナが店員さんの許可を取ったので、店の裏の試し切りスペースへ金棒を持って移動する。


「さすがにそれは無理じゃないかなー」

「正直どうしてその金棒を選んだのかわからないのだけれど……」

「まぁまぁ。ちょっと思いついてさ。なぁミリー、シュルーケルさんがこの金棒を使ってたら強そうじゃないか?」

「そりゃシュルーケルさんが使うなら何を使っても強いと思うよ」

「ちょっと待ってアラタ。すっごく嫌な予感がしてきたわ」


 セレイナは何かを察したようだ。


「そうだよな。“鬼に金棒”って言ってな。だたでさえ強い者に、より一層強くなるようなモノを加える意味の【諺】なんだ」

「へー。“鬼に金棒”かー。でも……」


 ミリーリアは何か言いにくそうにしている。


「あー、まぁ、それ程強くない俺にはどうなのかって事だろ? 大丈夫だ。吸血鬼も鬼の一種だ。つまりミリーの【コトワザ】なら効果が出る可能性がある」

「結局そういう事よね……」

「……」


 諦めたようなセレイナと、何故か不満そうなミリーリア。


「と、いうわけで、まずは素の状態で使ってみたいと思います」


 金棒を見た時にピンと来てしまった。

 これなら自分を切ることも無いし、折れる心配もない。ぶつけるだけで、ある程度のダメージも期待できそうなので、俺が持つにはピッタリだと思う。


 まずは野球の打者のように素振りを試してみる。

 風を切り裂く鈍い音が聞こえる。

 

 振り下ろしたり、打ち上げたり、片手で振り回してみたり……。

 ん? 片手で振り回せる……。


「もしかして、アラタは棒術の心得があるのかしら?」

「いや、ない」

 

 断言できる。

 そして、店の裏に来てから金棒が妙に軽く感じる。


 試し切り用の巻藁に向かって、金棒を思いっきり叩きつける。

 

 バキっという音を立て、巻藁は真っ二つに折れた。


「ミリーが【コトワザ】を使ってるとか?」

「使ってないし。アラタは鬼じゃないし」


 あー、やっちゃったか……。


「いや、そういう意味じゃなくてさ、ほら、何て言うか【コトワザ】の効果範囲の例えとしてさ……」


 セレイナに視線を向けたが、今回は助けてくれないようだ。


「ごめん!」


 素直に謝るのが一番だろう。

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