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俺払いの昼食を済ませた後、王都を案内すると提案されたが、先に旅の間に足りないと気付いた必需品の買い物に付き合ってもらう事にした。
テント、方位磁針、時計は全て魔道具屋で買えるので、二人の行きつけの店に向かう。
魔道具屋と聞き、棚にポーションや怪しい魔道具が並んでいる小さめの店を想像していたが、案内された店は少しお洒落なスーパーマーケットと表現するのが適切な広さと内装の店だった。
「ここで大体のものは揃うはずだよ」
普段から利用している二人に案内され、目的の物をどんどん選ぶ。
「後は足りない物って思い浮かばないか? この手の買い物って何を買ったらいいかわからないから、細かく教えてくれると助かる」
聞けば聞くほど必要な物が増えていく。
その中でも俺が買うべきだと判断したのは肌着。
消臭の効果が付与された下着は旅をする者にはほぼ必須と言える品のようだ。
ある程度の数の下着を選び、会計を済ませる。
ついでにシュルーケルさんから借りた下着と同じ枚数の新品の下着も購入しておいた。
残金が残り三万ヴィルを切った。
「冒険者って大変だな……」
「一気に揃えようとすると、どうしてもお金は掛かるわよ」
「普通は少しずつ揃えていくからね」
「そういえば、この前ダンジョンで稼いだ分をまだ渡してなかったわよね」
矢が自分に返ってくるとは考えていなかったセレイナが、ショックでふさぎ込んでいた日の事ですね。
声には出さなかったはずなのに、何故か冷たい視線を向けられた気がした。
ジェドスダンジョンは、普段セレイナとミリーリアの二人で潜っているため、いつでも分配できるという思い込みがあったようだ。
昨日の夜、分配しようという話になって気付いたのだとか。
確かに今までずっと一緒に行動していたし、その気持ちが理解できた。
俺がパーティーメンバーとして、一緒に行動するのが自然な事だと認識してくれていると考えると嬉しくもある。
だが、パーティー間の報酬の分配で揉めて、解散という話はよくある事らしいので、今後はしっかり即日分配という形を取ると強い口調で言われてしまった。
ミリーリアとセレイナが二人で潜る時は均等割りという決めでダンジョンに潜っているらしいので、俺もそれに同意した。
「そんなにあっさり決めていいの?」
心配そうな表情のミリーリア。
どういう事か聞くと、人によって一回のダンジョン探索に掛かる経費に差がある事もあり、報酬の分配方法は、しっかりとすり合わせを行わないとトラブルの元になると教えられた。
「経費って言っても、俺は特に掛かってないからな。セレイナの矢とかが経費になるのか? それなら取り分を増やすとかでも構わないぞ」
俺がそう言うと、二人は呆れたといわんばかりの顔でじっと俺を見つめてくる。
「いい、前衛のアラタは最も攻撃を受ける可能性があるの。そして、後衛のアタシ達はそれほど攻撃を受けないわね」
「怪我したらポーションを使うんだろうけど、ミリーの【コトワザ】もあるしそれほど変わらないんじゃないか?」
「話は最後まで聞きなさいよ」
例えば、俺が借りている漆黒のマント。これは魔道具のように魔石を消費して衝撃吸収、耐熱性の効果を維持している。
このマントで敵の攻撃を防ぐと、徐々に効果が落ちていく。そして、最終的には特殊な効果を持たない、素材の強度のみの装備になるそうだ。
そうなる前に魔道具屋に行き、修復を依頼するのが一般的なのだとか。
修復には魔石を消費するため、ダンジョンで入手した魔石を持ち込み依頼するか、魔石を持ち込む代わりに代金を支払うかの二択になる。
どちらを選んでも技術料は変わらないが、魔石を持ち込んだ方が若干安く済むとのことだ。
「と、言う訳で。はい、これ」
セレイナに電池のような形をした黒い物体を渡される。
手触りはガラスのような感じがする。
「これが魔道具を動かす黒魔石よ。効力が弱くなってくると段々透明になっていくわ。アラタが使ってる水筒の底にその魔石を装着する場所があるから、後で確認してみなさい」
装備品と、日用品では手入れの方法が違うようだ。
「ありがと。どうせならさっき教えてくれたら良かったのに」
「報酬の分配が遅れた事に対するお詫びだと思ってちょうだい」
「ディーファさんの家に着いたら正式に魔石の分配もするからね」
「おう?」
ディーファさんの家に着いたら?
「お母さんが一度アラタに会いたいんだってさ。今日の夕飯は家で済ませちゃいなさい。サーナさんには伝えてあるわ」
あ、はい。決定事項なんですね。
いくらミリーリアの使い魔とはいえ、見ず知らずの男が娘二人とパーティーを組むっていうのは親としては不安にもなるか。
「了解。行く前にお菓子屋さんがあれば寄りたいかな」
「いらないわよ」
悪い事はしてないのに、なぜか今から緊張してきた。
「私たちの緊張はそんなもんじゃなかったんだからね」
「そうよ。少しはアラタも味わいなさい」
えぇ……。
あらかじめ聞いていたのと突然聞かされるのでは全然違うと思ったが、大司教という教会のトップとは、関係者であるサーナさんでさえ言葉を交わしたことがないという事を思い出し、甘んじて受け入れる事にした。
「他にどこか行きたいところはないの?」
王城の正門を見てみたいと伝えたが、正門があるのは貴族街という区画になるため、一般の人は近づく事さえ出来ないと言われた。
「それなら、学園を一度見てみたいな」
二人に案内され、スルタンハイム学園までやって来た。
「ようこそスルタンハイム学園へ!」
ノリノリのミリーリアはこちらを振り返り、満面の笑みで学園を紹介してくれる。
チラっとセレイナに視線を向けると、やらせてあげなさいとでも言いたげな表情で返された。
正門は柵が閉まっており、中に入る事は出来そうにないが、かなり広い敷地に校舎が建っているのが確認できる。
学校に通うという事に特別な感情は持っていなかったが、今は少し楽しみだったりする。
「とは言っても、きっと学園にはそれほどいないと思うよ」
学園に通う最終年は、課題をこなすために、ほとんど学園での授業というものはないそうだ。
「冒険者科は特に現場主義って感じよね」
他にも貴族科や商業科など、様々な科が存在しているが、冒険者科のように外での活動がメインという科は存在しないそうだ。
それでも定められた日に学園に戻る必要があったり、課題の達成報告のために学園に戻る事もあるらしい。
「無事、二人と一緒に学園に通える事になった事だし、しっかり卒業しないとな」
ただ卒業するだけではない。
当然パーティーとしてトップの成績で卒業したい。
学園を目にした俺は、強くそう思った。
学園を後にし、俺は南区にあるセレイナの母親が住む家へと案内される。
住宅街にある、同じ形の平屋の一つが彼女たちの母親が住む家だ。
「ただいまー」
「お母さんただいま。連れて来たわよ」
「あら、早かったわね」
玄関で待っている俺たちの下に、ディーファさんの声が聞こえてきた。




