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「戻りました」


 マノト村で俺が戻ってくるところを見ていない男性陣三人は少し驚いているようだった。


「おかえりなさいませ。コトエダアラタ様が召喚された使い魔であるという事は、我々が保証いたします」


 実際に目にしたエンギード大司教からのお墨付きを得た所で、ムスクディ司教が口を開く。


「コトエダアラタ様、もう間もなく身分証明書の発行が完了いたします。もう少々お時間をいただけますか?」

「わかりました」


 さて、どうするか。

 アルさんから聞いた話を伝えたいが、ミリーリアとセレイナに聞かれるわけにはいかない。


「セレイナさんは、魔法適性を調べたいとおっしゃってましたよね? 今のうちに調べてみますか?」

「そうね。お願いしようかしら」


 サーナさんナイスアシスト!


「それなら身分証明書を受け取ったら合流って事にしようか」

「アラタは来ないの?」

「アラタ様には身分証明書に本人であるという事を紐づけする作業が残ってますから」

「あぁ、そっか。それなら私もセッちゃんと一緒に行こうかな」

「かしこまりました」


 

 一度女性陣と別れ、俺たちは先ほどまで話し合いを行っていた部屋に移動する。

 

「コトエダアラタ様、アル様からは何とおっしゃっておられましたか?」


 俺も関係者である事を含め、アルさんから聞いた話をそのまま伝える。

 ミリーリアが関係しているというのは俺の推測になるので、あくまでも俺の行動次第という事にしておいた。

 

 神妙な面持ちのエンギード大司教。


「そうですか……。コトエダアラタ様も使命をお持ちでしたか……。勇者として召喚された方々がこの世界に現れてからまだ日も経っておりません。時期が来たらユビヤド様から信託が下される可能性もありますし、コトエダアラタ様がお気になさる必要はありません」


 使命という程大袈裟なものじゃないと思う。

 ただミリーリアの願いと俺のやりたい事が一致しているだけで、たまたま被っている部分があるだけだと思う。


「私は出来る事をやるだけです。今後も何か変化があればアルさんのいる空間に行きますし、状況が変わればアルさんも何か教えてくれるかもしれません」


 希望的観測かもしれない。

 それでも、アルさんは答えられる事は答えてくれるはずだ。

 

「コトエダアラタ様にはご負担をお掛けいたしますが、よろしくお願いいたします」



 話し合いが終わると、ムスクディ司教が一枚のカードと針を取り出した。


「こちらがコトエダアラタ様の身分証明書になります。最後に、こちらに血を一滴垂らしていただければ、手続きは完了となります」


「わかりました」


 うわぁ……、針で刺すんだ……。

 内心を悟られないように、平静を装う。


 躊躇ったら負けだ。

 後でミリーリアに“痛いの痛いの飛んでいけ”で治してもらおう。


 どれくらい刺せばいいんだ?

 まだ刺さらない。時間を掛けるわけにはいかないので、針を持つ手に少し力を込める。

 チクっとした痛みが指から伝わって来たので、そのまま血を一滴絞り、カードに垂らす。


「ありがとうございます。【ヒール】」


 カードに俺の血が染み込んだ瞬間、ムスクディ司教が呪文を唱える。

 俺の指先にあった針の傷は見当たらなくなっていた。


 ムスクディ司教から手渡されたカードは、鉄のような素材で出来ていた。

 血が染み込んだということは、鉄ではないのだろう。


「ありがとうございました。皆様のおかげで私がなすべき事に集中できるようになりました。本当に感謝してもしきれません。また何かあればお世話になると思いますが、よろしくお願いいたします」

「我々はコトエダアラタ様のご来訪を何時如何なる時でも歓迎いたします。皆様の旅路に幸多からんことを祈っております」


 エンギード大司教とムスクディ司教とはここで別れる事になった。

 俺の見送りを出来ない事を詫びていたが、教会のトップが俺の見送りをすると、大変な事になるのが目に見えているので気にしないでほしい。

 ロイさんが会議の時にシュルーケルさんに対して「落ち着かない」と言った気持ちが良く分かる。


 初対面の人にそんなことを伝えられるわけもなく、タイミングを見計らってフルネーム呼びだけでも止めてもらおうと決意して部屋を後にした。



 マルセト司祭に案内され、女性陣がいる部屋に向かう。

 俺の案内を終えたマルセト司祭は、やる事があると言って部屋に入る事なく仕事に戻って行った。

 

 部屋の中では飲み物を飲みながら談笑する女性陣。


「アラタおかえりー。早かったね」

「お疲れ様。アラタも調べるんでしょ?」


 教会のトップたちと一緒の空間にいた時とは違う、普段通りの雰囲気だ。


「アラタ様、お疲れさまでした。こちらの水晶に触れていただければすぐに魔法適性の有無が判定できます」


 占い師が使うような透明な水晶が台座に乗せられている。


「急だな。まぁいいや。こうですか?」


 俺が手を触れると、水晶が白い光を発する。


「やっぱりアラタも適性があるのね……」


 そう言うセレイナの表情を見たら、彼女がどんな結果だったかわかる。


「みたいだな。でもな、俺が使える魔法って多分【諺】だぞ? だけど、移動中発動しなかったじゃん? 急に使えるようになるなんて事もないだろうし、ただ適性があるだけって可能性が高そうなんだよな」

「何でそんな事がわかるのよ」


 俺は部屋の入り口を見る。


「あぁ、説明は後でいいわ」


 アルさんの所でなにかあったのだろうと察したセレイナは、それ以上追及してこなかった。


「で、用事は終わったのかしら?」

「一通りは終わったかな」

「じゃあさ、そろそろお昼ご飯食べに行かない?」


 ミリーリアが言う通り、そろそろいい時間になっている気がする。


「そうね。そろそろお暇しましょうか」


 反対意見は出なかった。

 サーナさんはまだ仕事が残っているので教会に残るそうだ。

 仕事が片付けば、宿で教会の修行について、しばらく俺に教えてくれる事になっている。

 

 サーナさんと一度別れ、俺たちはスルタンハイム大聖堂を後にした。



「あー、緊張した」

「ホントよね。あらかじめ聞いていたから覚悟はしていたけど、あそこの雰囲気と相まって頭が真っ白になったわ」


 二人はどれだけ大変だったかを俺に聞かせてくる。

 これはつまり──。


「お昼はアラタの奢りね」

「お昼はアラタの奢りだね」


「あいよ」


 俺も緊張してたんだけどなぁ。

 ま、それくらいならいっか。

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