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サーナさんがミリーリアとセレイナを迎えに行く。
知らない人に案内されると不安になるだろうという配慮からなのだろう。
部屋にやってきた二人は、制服姿だ。
セレイナは制服を着崩していない。さすがに時と場所は弁えていた。
二人ともブラウスの襟元にリボンが装着されている。これが本来の制服姿なのだろう。
途中合流した二人が自己紹介と、時間を取ってもらった事に対する感謝の気持ちを述べ、いよいよ本題に入る。
俺はどういう立場で学園に通うか説明する。
そして、その設定が通じるか確認してもらうため、ミリーリアの【コトワザ】がどういったものかを見てもらう必要があることを伝える。
「ねえアラタ、何がいいかな?」
「この場で使える【コトワザ】となると、“心頭を滅却すれば火もまた涼し”じゃないか?」
「火を使うのはちょっと……失敗したら嫌だし……」
ミリーリアの歯切れが悪い。
初対面の人が三人もいる。それも教会のトップの人達だ。
不安になる気持ちもわかる。
「ミリーなら大丈夫だ。それに、やっぱり実感してもらうのが一番早いと思うんだ」
「アラタがそう言うなら……」
それでも、ミリーリアは覚悟を決めてくれたらしい。
全員が俺とミリーリアのやり取りを見ている。
「サーナさん、ロウソクはありますか?」
「用意いたします」
サーナさんがロウソクを用意している間に、【心頭を滅却すれば火もまた涼し】の説明を済ませておく。
念のため、まずは俺が実演し、その後に他の三人も順番に試す事になった。
サーナさんが持ってきたのはかなり大きいロウソクだ。
この大きさなら勘違いとか、気のせいとはならないだろう。
「【シントーヲメッキャクスレバヒモマタスズシ】」
まずは俺がロウソクの火に手を近づける。
「よし、大丈夫」
俺はそのままロウソクの芯を指でつまみ、火を消す。
パフォーマンスが効いたのか、【コトワザ】を見た三人は驚いたような、納得したような表情だ。
火傷の痕がない事を確認してもらうため、俺の手を見てもらう。
芯をつまむ時に触れた蝋が、指に少し付着しているだけだ。
「なるほどのぅ。儂らも試してもいいかのぅ?」
「ミリー、大丈夫か?」
ミリーリアの顔色が悪い。
「も、申し訳ありません。先に私とセレイナが試してもよろしいでしょうか?」
俺はミリーリアの【コトワザ】は信用しているが、彼女はまだ自分の【コトワザ】を完全には信用していなのだろうか。
あるいは、教会のトップに何かあったらと考えているのか。
恐らく後者か。
これは選択ミスだったかもしれない。
とはいえ、“二兎を追う者は一兎をも得ず”を公開するには、ここにいる教会関係者が信用できる人達だと説明しないといけない。
そのためには二人が来る前の会談の内容を説明する必要が出てくる。
勇者召喚の事は極秘事項だから、そこを伏せて説明するとなると無理だ。
俺がそんな事を考えている間に、ミリーリアとセレイナは、自身の手をロウソクに近づけたり、炙ったりしている。
安全が確認できたので、【コトワザ】を初めて体験する三人も同じようにロウソクに手をかざす。誰一人として不安そうな表情は見せない。
そろそろ効果時間が不安になってきたので、早めに切り上げてもらう。
「ムスクディ司教、どうじゃった?」
「私は魔法にそれ程あかるくないのではっきりとは言えませんが、火に対する完全耐性と考えると、上位魔法に相当するかと」
「マルセト司祭は?」
「はい。私もそう感じました」
「一致したのぅ。ところで、【コトワザ】は他にもまだまだあるのじゃろ?」
エンギード大司教の視線がミリーリアに向く。
「は、はい。ですが、それほど数は多くありません。私はまだまだアラタ……さんに教わっている最中です」
「これからも共に学び、成長していくが良い。正式に学園に通えるように手続きを行う。異論はないな?」
こうして俺は教会の助力を得て、正式に学園に通う権利を得る事が出来た。
「さて、次は送還なんじゃが……」
エンギード大司教はチラリと俺の方を見る。
余計な事は口にしない。俺は頷くだけにとどめる。
送還は別の部屋で行うらしいので、全員で移動する。
移動先の部屋の床には、淡く輝く魔法陣。
以前と同じように、魔法陣の上に移動しようとすると、誰かにマントを掴まれた。
「ねぇ、戻ってくるんだよね?」
不安そうな表情のミリーリア。
「当然。そういえば、この前の送還の時ってどれくらいの時間で俺は戻って来たんだ?」
「本当にすぐだったよ。いなくなっちゃったって思ったら、またすぐに魔法陣が光り出して、アラタが帰ってきた」
「んじゃ今回もそんな感じだな」
結構長い間アルさんの所にはいたと思うけど、すぐだったのか。
「わかった。待ってる。いってらっしゃい」
「おう」
俺は魔法陣の上に立つ。
「あの、アラタ様。前回はガウテオ様に祈りを捧げたのですが、今回はどうすれば……」
「前回と同じで大丈夫です。少し特殊な場所らしいので、何かを変えると逆にマズイかもしれません。なのでサーナさんに送還をお願いしているわけですしね。負担をかける事になりますが、よろしくお願いします」
「承知しました」
サーナさんが祈りを捧げると、魔法陣がの輝きが強さを増す。
気づけば俺は、何もない、真っ白な空間に佇んでいた。




