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 昨夜、サーナさんから俺が置かれている状況の説明と、今日の会談の内容の一部を教えてもらった。

 話し合いに参加するのは俺、サーナさん、司祭、司教、大司教となっている。そして、少し遅れてセレイナとミリーリアの二人が合流する事になるのだが、その方が都合がいいらしい。

 司教、大司教となると、サーナさんもこれまで会話を交わしたことがない程、遠い存在だそうだ。


 サーナさんは話が大きくなった事を謝ってきたが、無茶な俺のお願いが通らなかっただけなので、気にしないでほしいと伝えた。

 それよりも、失礼がないようにマナーを教えてもらおうと思ったのだが、最低限の礼儀だけで問題ないと返された。自然体な俺の様子を見るのも目的と言われたら反論できなかった。



 乗合馬車を降りると、スルタンハイム大聖堂はすぐそこだった。

 

 これが大聖堂か……。

 厳かな雰囲気ではあるが、どこか安心感を与えてくれる。そんな感じがした。


「こちらです」


 サーナさんに連れられ、大聖堂に入る。

 照明器具を使用せず、自然光に頼っている。差し込む太陽光で作られた道が神々しく見える。

 

 サーナさんは、黒い神父服を纏った人の下へと向かっている。


「アラタ様、こちらがマルセト司祭です」

「コトエダアラタ様、お初にお目にかかります。私、マルセトと申します」

「初めまして。コトエダアラタです。今日はよろしくお願いします」


 自己紹介を済ませ、マルセト司祭先導の下話し合いが行われる部屋へと向かう。

 マルセト司祭はそこそこ高齢に見えるが、歩く姿は背筋が伸びていて、全く年齢を感じさせない。

 そして、挨拶の時に見せてくれた柔らかな笑みは、俺の緊張を少しだけほぐしてくれた。サーナさんが信頼しているのも頷ける。


 目的の部屋の前には神父服の男性が二人立っていた。マルセト司祭に続いて俺とサーナさんも入室する。


「ようこそお越しくださいました。スルタンハイム大聖堂はコトエダアラタ様のご来訪を歓迎いたします。私、エンギードと申します」


 顎に生えた長い白髭が特徴的なエンギード大司教。マルセト司祭より年上に見える。

 その表情からは俺の訪問を歓迎しているというのが伺える。


 この人が王国にある教会のトップか……。

 探るような視線を向けられているわけではないが、ブルーの瞳に見つめられると、俺の全てが見透かされているのではないかと錯覚しそうになる。


「そして私の隣に立つのがムスクディです」

「ムスクディと申します。本日はお時間を作っていただきありがとうございます」


 黒みがかった銀髪のムスクディ司教が俺に謝意を伝えてくるが、感謝しているのは俺の方だ。

 本来ならば会話を交わす事すら難しい方たちが、俺のために時間を割いてくれているのだ。


「ご挨拶が遅れました。初めまして。コトエダアラタと申します。エンギード大司教とムスクディ司教、マルセト司祭にはお忙しい中お……私のためにお集まりいただきありがとうございます」


 雰囲気にのまれそうになる。

 この会談で俺の今後が決まるのだ。伝えるべきことは伝える、これだけは忘れてはいけない。



 一通り挨拶が終わり、いよいよ会談が始まる。


「防音結界を張りたいと思いますが、よろしいでしょうか?」


 俺の確認を取ったムスクディ司教は俺たちの周囲に魔道具を設置し、防音結界を張る。


「どうじゃ?」


 俺にはどんな変化があったかわからない。これで結界とやらは作動しているのだろうか。

 周囲を見渡していると、ムスクディ司教が席に着いた。


「正常に作動しているのを確認いたしました」


 宿でもサーナさんは会談の内容を一部しか教えてくれなかった。

 部屋の前に二人立っていて、防音結界を張る。大司教というトップがいるから、というわけではないだろう。


「それでは準備が整いましたので始めてもよろしいでしょうか?」


 ムスクディ司教の問い掛けに反対する者はいない。


「まずはコトエダアラタ様が望まれている学園に通えるかどうかという内容ですが──」


 この辺はおおよその話をサーナさんから聞いていたので問題はない。

 そして、【コトワザ】がどういったものか確認したいと言われたが、俺は【コトワザ】を使う事ができない。

 雷を操る【コトワザ】使いが過去にいたという話だが、ミリーリアから預かっている『【コトワザ】集』にも雷に関する【諺】はなかったと思う。

 何だろう? 雷……“付和雷同”? 違う気がする。

 

 【コトワザ】の効果は、ミリーリアとセレイナが来てから確認するという事になった。

 ところで二人はこんなメンバーで会談を行っているって知ってるのだろうか。少し不安になる。


 俺の設定もサーナさんから聞いていた通りだった。


 聖女が治めるカムハーフェン聖教国という国で修業を行ったという設定になるのだが、どんな修行を行ったかなどはサーナさんから教えてもらう事になっている。

 彼女は聖教国での修業を終えているらしい。どんな事をするのか宿で聞いたのだが、一瞬だけ生気を感じない目になったので、俺は即座に話題を逸らした。きっと過酷な修行だったのだろう。

 シスターだから徒歩移動が問題ないと言っていたが、修行の成果なのだろうか。


「後ほど教会が発行する正式な身分証明書をお渡しいたします」

「私のために様々な手続きを行っていただきありがとうございます」

 

 概ね俺の希望通りに事は進んでいる。

 今日初めて会ったサーナさん以外の三人も、何故か俺に敬意のようなものを払ってくれている気がする。

 俺が人型の使い魔で珍しいからなのか、それとも対価を要求されるのか。

 まだ油断はできない。



 少しの沈黙。

 俺の立場についての説明をしてくれていたムスクディ司教に替わり、エンギード大司教が口を開く。


「コトエダアラタ様。もしも失礼があったら申し訳ございません。一つ、確認してもよろしいでしょうか?」


 そんなに改まって何だろう?


「貴方は神の使徒でしょうか?」


 は?

 ちょっと待った。どうしてそうなる。どうしてそんな考えに行きつくんだ。


「神の声を受け取れるのはこの世界では聖女のみです。ですので、アル様と会話を交わせるコトエダアラタ様は神の使徒ではないかと考えております」


 そうなるのか……?

 違うんじゃないか?

 

「違うと思います……。どこにでもいる一般人です」


 おかしな事は言えないので、俺はそう答えたのだが、エンギード大司教にもムスクディ司教にも落胆の色は見えなかった。


「貴方がそうおっしゃるならそうなのでしょう。不躾な質問をしてしまい申し訳ございません」


 ちょっと待った。何でわかってますって顔をしているんだ。

 盛大に勘違いしている。

 俺はアルさんの言葉を届けるとか、そんな崇高な使命は持ち合わせていない。

 

 なんとなーく敬意のようなものを感じたが、俺の勘違いじゃなかったのか……。


「本日、一度アル様の下へと向かわれると聞き及んでおりますが、私どもの願いを一つだけ届けてはいただけませんか?」

「期待に沿う回答が返ってくるかはわかりませんが、アルさ……まに伝える事はできると思います」

「おぉ! ありがとうございます。では──」


 一体今日は何回驚けばいいのか……。

 勇者召喚って……。


 聖女と呼ばれている人は、ユビヤド様からの神託を受け取る事はできるが、こちらの声を届ける手段はないらしい。

 なので、上位存在と思われるアルさんと直接話が出来る俺に、勇者として召喚された人が帰還するにはどうすればいいのかの確認をしてきて欲しいと。


「必ず確認してきます」

「感謝いたします、コトエダアラタ様」


 俺の返事を聞いたエンギード大司教は、安心したのか目を瞑り、一つ頷いた。


 話を聞く限り、エンギード大司教も、ムスクディ司教も、マルセト司祭も信用しても良いと思った。

 教会という大組織のトップたちが、この世界に現れた勇者のために俺に頭を下げて頼み込んでくるのだ。


 この世界に危機が迫っているというのは気になるが、俺に出来る事はないだろう。

 そもそも危機を救うために現れたのが勇者なのだ。

 俺はミリーリアを救うために現れた勇者……考えてて恥ずかしくなってきた。


 大司教、司教といった高位の教会関係者と会談すると聞いて身構えていたが、終わってみれば平和な会談だったと思える。

 これならミリーリアとセレイナが参加しても問題はないだろう。


 ないよね?

 この世界の一般人が大司教と直接言葉を交わすってのは問題にはならないよね……。

 ならないといいなぁ。


 ドアをノックする音が聞こえた。


 全員に確認を取ったムスクディ司教が一度結界の魔道具を止める。


「どうぞ」

「失礼いたします。お客様がお見えです」


 ミリーリアとセレイナが着いたようだ。

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