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セレイナの先導で、俺たちは地上へと向かう。
珍しく落ち込んでいるセレイナの空気が伝搬してか、誰も口を開こうとしない。
「ところでさ、出入口ってどこにあるかわかるもんなのか?」
これだけ歩き回ると方向感覚を失い、現在自分がどこにいるのか見当もつかない。
少しでも重苦しい空気が変わる事を祈って、俺は声を掛けてみる。
「これがあればどこから来たかはわかるよ」
ミリーリアはポーチから小型の方位磁針のようなものを取り出すと、俺に見せてくれた。
赤く塗られた針が指し示す方向へ向かって歩いているので、その方向に出口があるのだろう。
「ちなみにセッちゃんは方位磁針がなくてもどこに行けばいいかわかるんだって」
「へー」
「アラタはわかったりする?」
「わかるわけないだろ。あんなに動き回ったら自分がどこにいるのかさえわからなくなるのが普通だろ」
「だよね? 前になんでわかるのって聞いたら、今いる場所から入り口に向かってるだけっていう意味がわからない答えが返ってきたんだ」
「あれか。頭の中に地図が出来てるタイプの人間なのか」
「そうなのかも」
「コンパスってのがあるって事は、セレイナが特殊って事でいいんだよな?」
「そうだね。クラスでもコンパスを持ち歩かないのはセッちゃんだけかも」
俺たちが会話している間も、セレイナは前を向いたまま黙って歩いている。
「それも凄いけどさ、セレイナがコボルトを引き付けてた時の動き。あれはヤバイ。もう何ていうかヤバイ」
「でしょ? セッちゃんはヤバイんだって」
意図を察してくれたのか、ミリーリアも乗ってくる。
「ミリーは見てたかわからないけど、コボルトの攻撃を避けるついでにクルって横に回って俺の様子を見たりしてたんだぜ? どんだけ余裕あるんだよって話だ。こっちは必死にコボルトの攻撃を避けてるってのにさ」
「見た見た。あれカッコ良かったよね!」
「経験に裏打ちされた動きなんだろうな。俺に出来るとは思えないし」
「そう? アラタの動きも悪くなかったと思うよ?」
「そう言ってもらえるのはありがたいけど、セレイナのあの動きを見た後だとどうしてもなぁ。あれって前衛の動きの一つの完成型なわけじゃん? ほとんど無駄がないように見えたし、俺なんてまだまだだよ」
「それを言うなら私だってまだまだだよ。今日はコボルトが相手だったから何とかなったけど、次の階層から出てくるホーンラビットが相手だったらほとんど何もできないもん。この前もセッちゃん──」
セレイナが足を止め、勢いよく振り返る。そんな彼女の頬は少し赤い。
「あぁあ! もう! 悪かったわよ! 反省会は宿に戻ってから! もう大丈夫だからそれ以上は止めてちょうだい!」
そう言って再び歩き出すセレイナ。
俺とミリーリアは互いに顔を見合わせ、安堵の表情を浮かべる。
そして、ミリーリアはすぐにニヤっと不敵に口元を歪め、セレイナの横へそっと早足で近づき、彼女の顔を覗き込む。
「お? セッちゃん珍しく照れてる?」
「ちょっと! いきなりいきなり近づいてこないでよ! ビックリするじゃない!」
「ビックリしただけって顔じゃないんじゃないかなー?」
「あ、ちょっと! 何逃げてるのよ!」
大丈夫そうだな。
走り出す二人を見失わないように、俺も二人を追いかける事にした。
『渡り鳥の集い亭』に戻った俺たちは、夕飯までまだ時間がある事もあり、反省会を行う事にした。
「反省会とは言っても、アラタとミリーに言う事はないから、主にアタシのためよね」
やはり気にしているようだ。
「んー、私も一つだけ自分で気づいた事はあるんだよね」
「俺は反省だらけなんだが?」
少し強張っていたセレイナの表情が一瞬緩む。そして真剣な表情に変わる。
「そろそろ始めましょうか。まずはアタシから。“一石二鳥”の効果を甘く考えていたわね。今までは両方とも貫通した事がなかったからそこまで考えが及ばなかったわ。今回はたまたま射線上に居たのがアタシだったから自己責任って事でいいんだけど、これがミリーやアラタだったらって考えるとどうしてもね」
「俺のイメージになるけど、弓を放つのってかなり集中力が必要なんだろ? そこに最近になってからミリーの【コトワザ】が追加で乗るようになったんだし、考えが及ばなかったってのはそこまで問題があるとは思わないんだよな。そのための検証でもあるんだしさ」
「そうそう。アラタの言う通り。そもそも指輪をしている以上、セッちゃんの矢が刺さる事はないんだし、心配はいらないよ」
「それでも、次からは射線をしっかり考えて矢を放つタイミングを計る事にするわ」
「セレイナがそう言うならそういう事でいっか。ところでさ、二体目も貫通したって事は、三鳥もいけるのか?」
『……』
あれ? どうしたんだ? 二人とも黙ってしまった。
「気になるのは気になるけれど、反省会の趣旨から逸れる気がするのよね……」
「うん。セッちゃんの言う通り。後で考える事にしよう」
それもそうか。
セレイナの動きに関しては他に気になったところはなかったので、次はミリーリアの番となった。
「私が気になったのは、アラタに方向を指示した時逆に伝わったって所かな? どうすればよかったんだろ?」
そんな事もあったな。
「咄嗟の事って考えたら、動く人基準で指示を出すって感じでいいんじゃないか?」
「そうね。それが無難ね」
「じゃあ、このパーティーの基準は動く人にとってどっちかって言う事で決定で!」
満場一致で可決された。
「最後に俺か。俺は躊躇いの気持ちかなー。もう大丈夫だとは思うけど、二人の話を聞いた後も体が動かなかったし。後は前衛としてもう少し安定感が欲しいって所かな。セレイナの動きを見ちゃったし、俺も頑張らないとって思ったな」
「それはもういいから」
照れくさそうにしているセレイナ。
それでもこれは俺の本心なので仕方がない。
「俺はこんなところかな? 二人からは俺に何かないか?」
「気付かなかったかー」
ミリーリアが口を開く。
どうやら何かあるらしい。
「一番最初の戦闘の時に、アラタは私達に“危ない”って言って危険を知らせてくれたけど、覚えてない?」
あっ!
「その顔は覚えてるし、気付いたって事でいいんだよね?」
「言葉が足りなかったって事だな。あの場合はどうするべきだったんだ?」
思い返せば勝手に声が出て、勝手に体が動いていた。
「一概には言えないけれど、後ろ、とか右とか左とか? 基本的には私が周囲を警戒しているから、アラタはそれほど気にしなくてもいいかも」
コボルト相手には無双できるが、他の敵が相手だとセレイナのサポートしかできないから、というのがミリーリアの言い分だ。
「これから【コトワザ】で攻撃する機会も増えるだろうし、そうも言っていられないんじゃないか?」
「何か攻撃用の【コトワザ】があるの!?」
食いつきがすごい。
「学園の寮にまだ『【コトワザ】集』があるんだろ? こっちは攻撃用になりそうなのはなかったから、そっち次第かな」
「よし、早く寮に戻ろう!」
「明日王都に着くけど寮に戻るのはまだ先よ。ほら、やっぱり逸れちゃったじゃない。でもいいわ。反省会はお終いね。そろそろ食堂も営業再開する頃でしょうし、早めに済ませて明日に備えて休みましょう」
家に帰るまでが遠足っていうし、反省会までがダンジョン攻略の醍醐味なのだろう。
こうやって徐々に練度を高めていくっていうのは悪くないと思った。
夕食の後、今日の狩りの成果を共有し、報酬の分配は王都に着いてからという事で、早めの解散となった。
さぁ、明日は王都だ。どんなところか楽しみだ。
次話は5月10日(月)10時に投稿予定です。




