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反省会の後、単独行動を取っているナイフを持たないコボルトを何度か倒したが、躊躇う事はなくなった。
二人の話を聞いて、納得も理解も決意も出来たと思っていた。
しかし、いざ実行となると体が反応してくれなかった。
一度躊躇うと、相手のペースになり防戦一方となる。
回避に専念していた俺だったが、足がもつれ体勢が崩れた。その隙を見逃さず、体当たりしてくるコボルト。
反射的に手でコボルトの体当たりを止めたのだが、体温を感じなかった。
熱さも冷たさも感じない、不思議な感覚だった。
ダンジョンって何なのだろうか?
疑問は尽きなかったが、目の前のコボルトを倒すことにした。
一度意識してコボルトを倒してからは、慣れからなのだろうか。徐々にコボルトを倒すことに抵抗感がなくなり、ミリーリアほどではないと思うが、コボルト狩りに心の余裕が出来た。
そうなると、連携の確認がしたくなったので試してみようと提案したのだが、コボルト相手に連携も何もないと言われた。
むしろ、棒で殴れば一発なので、変なクセがつく可能性があるから他の相手でという事になった。
なので、先ほど二人が話していた“一石二鳥”の効果がどう及ぶか試してみる事にした。
二体で行動しているコボルトを発見する。
俺が一体を引き付けつつ移動し、セレイナとミリーリアがコボルトに挟まれる形を作るという作戦を取る事にした。
棒はミリーリアに返した。
棒で殴ったら一発で倒してしまうというのと、いくらコボルトが弱いといえども余計なリスクを負う必要はないと思ったからだ。
俺は二体のコボルトに向かって走り出す。
そして、片方のコボルトを殴りつける。
そのままコボルトに背を向け位置を変えるために走り出すが、二体とも俺についてくる。
足を止め、二体のコボルトの攻撃を回避しながら隙を見つけて、俺は拳を繰り出す。そして位置を変えようと離れるのだが、やはり二体ともついてくる。
なかなか思い通りの配置にならない。
回避しながらどうしようかと思案していると、いつの間にかセレイナがコボルトの背後に現れた。
そして、俺に攻撃を加えようとしているコボルトに対して流れるような動きでハイキックを浴びせる。
おぉ……。
……メッチャ武闘派だ。近接もいけるのか。さすがシュルーケルさんの娘と言ったところか。
セレイナのおかげでコボルトが一体、俺から剥がれる。
この隙に俺は位置を変える。
セレイナに蹴り飛ばされたコボルトは、ターゲットをセレイナに変えたのか、俺を追ってくることはなかった。
「アラタはもうちょっと右ー。逆逆ー。そう、そっちー」
ミリーリアから指示が飛んでくる。
それにしてもセレイナの回避技術は見事としか言いようがない。遠目に見ると舞っているように見える。
彼女は最小限の動きで、流れるようにコボルトの攻撃を避けている。
「ちょっと、まだなのー」
体を捻って攻撃を回避したついでに、ひらりと一回転して俺の方を確認する余裕まであるようだ。
「そこでいいよー。【イッセキニチョウ】!」
ミリーリアの【コトワザ】を確認したセレイナは、コボルトを俺がいる方向と逆に蹴り出し、矢を放つ。
俺は矢がいつ飛んできてもいいように警戒していたが、無駄だったようだ。
「ダメみたーい。もういいよー」
もういいって言われても、どうすればいいんだこのコボルト。
「アラタ前蹴り!」
セレイナの声に従い、コボルトを前方に蹴り飛ばす。
俺とコボルトの距離が開くと同時に、セレイナが放った矢がコボルトに突き刺さり、魔石へと姿を変えた。
「お疲れ様ー」
「おう。お疲れ」
「二人ともお疲れ様。んー、ダメみたいね。二体とも視界に収めないとダメなのかしら?」
どうやら対象を視界に収めないと効果はないようだ。
「もう一回試すか?」
「そうね。左右はある程度わかっているし、前後でも試すべきでしょうね」
同じ手順でコボルトの位置をコントロールする。
今度は俺とセレイナがコボルトを挟む位置につき、コボルトを縦に一直線に並べて貫通させるようだ。
セレイナがコボルトを蹴り飛ばす。
そして、コボルトが立ち上がると同時に、事前の打ち合わせ通りに俺は横っ飛びで地面に転がる。
あれ? 反応がない。
立ち上がり、辺りを見渡すと、呆然とした様子のセレイナとミリーリア。コボルトの姿は見当たらなかった。
何かあったのだろうか?
転がっていたからいまいちわからない。
二人の下へ駆け寄り、声を掛ける。
「どうしたんだ? 何か問題でもあったのか?」
「問題と言うか……。少し認識が甘かったわ」
「セッちゃん大丈夫だった!?」
落ち着いた二人に話を聞くと、セレイナは俺が引き受けたコボルトを先に狙い、返ってくる矢で自分に近いコボルトを倒すつもりだったらしい。
俺の方のコボルトを貫いた矢は、予想通りUターンして返ってきた。そして、二体目のコボルトに後ろから刺さり、そのまま貫通してきたそうだ。
刺さって終わりだと思い込んでいたセレイナは一瞬反応が遅れ、あわや自分に矢が刺さりそうになったのだとか。
しかし接触寸前に、矢はピタっと止まり、そのまま地面に落下したとの事だった。
「まさか指輪に助けられるなんてね……」
そう零し、指輪をしげしげと眺めるセレイナ。
自分が放った矢が、自分に返ってくるのは想定していなかったようだ。
ブーメランでもあるまいし、普通そんな事は考えないだろう。
「二人には悪いんだけど、今日は終わりにしないかしら?」
傍から見ても明らかに落ち込んでいるとわかるセレイナの提案にを受け、予定よりも早いがダンジョンを後にすることにした。
次話は5月9日(日)22時に投稿予定です。
5月10日(月)からは10時投稿に戻ります。




