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13

 ダンジョン探索は順調過ぎるくらい順調といっていいだろう。


 セレイナがコボルトを探し、ミリーリアが撲殺する。

 実に簡単なお仕事に見える。


 ──あ、コボルトが二匹飛んで行った……。


 【犬も歩けば棒に当たる】という【コトワザ】を使えば、コボルトが武器に当たり、安全に倒せるという話は聞いていた。

 地面に棒を刺し、近づいてきたコボルトをセレイナが仕留めるという流れを想像していたのだが、俺の目の前で繰り広げられている光景は全く違うものだった。


 最初の方は、ミリーリアがコボルトに狙いを定め、殴りつけていると思っていた。しかし、ミリーリアに向かって飛び掛かったコボルトが野球の変化球のように逸れ、自ら棒に当たりに行く姿を目にした時、これが【コトワザ】の効果だと理解した。


 そもそも、今飛んで行った二匹は別方向から飛び掛かっていたはずなのだが、ミリーリアは一振りで二匹とも吹き飛ばしていた。片方は強力な磁石でもついているのではないかと錯覚するほど、不自然な動きで棒に吸い込まれたように見えた。



「そろそろお昼にしましょうか」


 それなりの時間狩り(虐殺)を眺めていたと思ったら、お昼になっていたようだ。


「ダンジョンはどう? セッちゃんと二人の時はこんな感じで探索してるの」


 そう聞いてきたミリーリアの表情は、どこか得意気だった。

 もしも彼女に尻尾がついていたらブンブン振られていることだろう。

 今、棒を振り回したらミリーリアが吸い込まれてもおかしくはないのではないだろうか。


 そんな事を考えていると、微妙な間ができてしまったからかミリーリアの表情が少しずつ曇ってきている。


「ダンジョンについては置いておくとして、ミリーが直接戦うっていうのは意外だったな。今後は先に教えてくれ。コボルトに襲い掛かられた時、正直焦った」

「あっ、心配かけてごめんね。そっか、そうだよね。うん、ごめんね」


 先程までの表情はどこへやら。彼女は焦った様子で謝罪の言葉を口にする。


「あぁ、謝る必要はないよ。今日は俺がダンジョンに慣れるのが目的って話は聞いていたし、安全マージンは確保してたんだろ? 認識の違いはあるだろうけど、少しずつ慣れるさ」


 午前中の俺は、二人の狩りを眺めていただけだった。

 なので、コボルトと戦うというのがどれくらい危険なのかはよくわからない。

 それでも、マノト村で戦った狼の方が迫力も速度も上に見えたので、それほど恐ろしい相手ではないのだろう。


「うん、わかった。私も次からはちゃんと伝えるね」


 ところで、何故ミリーリアは俺をジーっと見つめているのだろうか。


「ん? どうした? 俺の顔に何かついてる?」

「いや、別に……」


 あぁ、そっか。


「“犬も歩けば棒に当たる”ってさ、ミリーのその棒じゃないと効果がなかったりするのか? 後は他の人にかける事が出来るかも気になるな」

「うーん……多分これじゃなくても問題はないと思うけど、これが一番向いてると思うんだよね」


 そう言ってミリーリアは棒を掲げる。


「借りてもいいか?」

「いいよ。はい」


 そう言ってミリーリアは棒を地面に置く。


 俺は何の気なしに棒を拾い上げようとした。

 重っ! は?

 片手で持てない事もないが、思っていたよりも重量がある。

 こんな物を振り回すミリーリアって……。


 俺が怪訝な目でミリーリアを見つめていると、悪戯成功といった感じの彼女は種明かしをしてくれた。


「ここを持つと軽くなります。面白いでしょ」


 指し示された場所を持つと、軽々と片手で持つ事が出来た。先ほどまでの重さが嘘のようだ。


 持ち上げた棒を、軽く指で(はじ)いてみると、金属のような感触が返ってきた。

 左右に振ってみたが、ミリーリアが近づいてくることはなかった。


「へー。これも魔道具なのか?」

「そうだよ。これは持ち手の所に魔物の素材が埋め込まれてて、そこを持つと重さを感じなくなるように出来てるんだよ」


 なるほどね。軽く振り回してるけれど、実際の重量は変わらないわけか。

 この重さの棒をあの速度でフルスイングされたら……。考えないでおこう。


「こういうのは王都には売ってるのか?」

「売ってるよー。効果によるけど、結構高いよ?」

「ちなみにこれはいくらだったんだ?」

「二十万ヴィルくらいだったかな」


 ただのオシャレなデザインの鉄の棒に二十万ヴィルと考えるとふざけるなと思うが、重さを感じなくなるという効果が付与されているなら妥当なのだろうか。

 このダンジョンでの一日辺りの稼ぎが三万ヴィルって話で、狼二匹分で三十万ヴィルだが……わからん。


「俺が武器を買えるのはいつになることやら」

「午後からはアラタがやってみる? それ貸すよ」


 ミリーリアの視線の先には、先程までコボルトを撲殺し続けたオシャレな細長い棒。


 そうだよな。

 慣れるっていうのはそういう事だよな。

 彼女たちにとってはこれが日常なのだろう。ミリーリアに協力すると決めてから覚悟はしていたはずだ。


「いいのか? じゃあさ、最初はミリーの【コトワザ】なしで戦ってみて、ある程度経ってから【コトワザ】をかけてもらうかな」

「わかったよ。じゃあ午後からはアラタメインでやってみよう!」


 俺は内心を悟られないよう、努めて明るくそう告げた。

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