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翌朝、準備を済ませた俺たちは早めに朝食をとり、ロイさん達がいる野営地へと向かった。
「では、明日の夕方王都の門の前で」
俺はサーナさんから身分証が入っている手紙を預かった。街の外へ出る時に手続きを済ませたので、今日この街に戻る分には問題ないが、王都に入場するには保証人として、サーナさんが必要になるらしい。
現在、ミリーリアとセレイナは制服を身に纏っている。
前の街で遭遇した、ナールルというクラスメイトはしっかりとした装備だったので、制服で大丈夫なのか確認したら、問題はないとの答えが返ってきた。
今日は俺にダンジョンがどのような所か経験させるために行くのであって、攻略がメインではないから無理するつもりはないとの事だ。
そして、学園の制服は借り物で、卒業時に返却の義務があるものらしい。
正式な身分証明書を所持していない俺の保証人として、学園生の証である制服を着用しているという面もあるそうだ。
これはサーナさんからのアドバイスで、念には念をという事だった。
俺たちは王都へ向かうサーナさんや隊員さんと別れの挨拶を交わし、ダンジョンへと向かった。
「さぁ、『ジェドスダンジョン』に向かおう!」
共に旅をしてきた期間、一度も見た事がないくらい生き生きとした表情でミリーリアが先導する。
この街は『ジェドス』という名前で、ジェドスにあるダンジョンだからジェドスダンジョンと呼ばれているそうだ。非常にわかりやすい説明を受けた。
ちなみに、前に立ち寄った街の名前は『アスーネ』で、『アスーネダンジョン』があるとの事だ。
ダンジョンに必ず街の名前が付いているのかといえばそうではなく、街の近くにダンジョンがある場合のみ、街の名が付いたダンジョンになるそうだ。
先頭を歩くミリーリアは、時々こちらを振り返り、しっかり俺たちが付いてきているか確認している。
「なぁ、何でミリーはあんなにはしゃいでるんだ?」
隣を歩くセレイナに聞いてみる。
「行けばわかるわよ」
教えてくれないらしい。
セレイナは微笑ましいものを見る目をミリーリアに向けていた。
街を出て、三十分くらい歩いただろうか。
ダンジョンの入り口と思われる所に着いた。
周囲に何もない草原の中心に、盛り上がった山のようなものがあり、山の一部に洞窟のような穴が開いている。
山の周りは地面に商品を並べた人が数人、俺たちを待ち構えていた。
「ポーションは忘れてないかい? 命あってのダンジョン探索だよー!」
「今日の成果を祈ったお守りだ! 今ならなんと、安全祈願までしてあるぜ!」
「地図あるよー。地図があると探索が捗る事間違いなし!」
ミリーリアは脇目も降らず露店を通り過ぎる。俺達もその後に続いた。
ダンジョンの入り口の横には、ジェドスの門番と同じデザインの鎧を着た騎士が一人。騎士の後ろには詰所のような小屋が建っていた。
「入場料は五千ヴィルよ」
並んで歩くセレイナに言われ、布袋から中銀貨を一枚用意する。
「ご武運を」
入場料を受け取った騎士にそう声を掛けられた俺たちは、洞窟のようになっている入り口向かう。
洞窟の中は下り階段になっていた。
降りている最中、ダンジョンについて気になったことをセレイナに聞いてみた。
街の名前が付いているダンジョンは、その街が管理を担っているらしい。
管理とはいっても、入場料の徴収と入場者の名簿管理しか行っておらず、行方不明になったからといって捜索してくれる等のサービスがあるわけでもないのだとか。
逆に、街の名前が付いていないダンジョンは管理者と呼べる存在はいないらしく、何が起きても完全に自己責任になるそうだ。そして、犯罪集団が根城にしているダンジョンもあるとかないとか。
そんな話をしている間に、洞窟の終点から光が差し込んでいるのが見えた。
いよいよダンジョンデビューの時が来たようだ。
長い洞窟を抜けると、草原だった。
所々に見られる太陽に照らされる花々が美しい。絶好のピクニック日和だ。
「なぁ……俺たちさ、洞窟を下に下にって降りてたよな? 地下に向かってたよな? 何でお日様の姿が確認できるんだ?」
「どう? これがダンジョンです!」
どうって聞かれても……。
「驚いたとしか言えないな……」
俺の感想に満足したのか、ミリーリアに笑みが浮かぶ。
「時間がもったいないし、ダンジョンの説明は後にして、さっそく探索といきましょーか! セッちゃんよろしく!」
「はいはい。わかってるわよ。んー、あっちね」
俺の疑問はスルーされるようだ。
セレイナに小声で「後でね」と囁かれたので、説明はしてくれるようだ。
ダンジョンに向かう道中、本当に楽しみにしていたミリーリアをこれ以上待たせるのも悪いので、探索を開始する事にした。
俺の目の前で、信じがたい光景が繰り広げられている。
セレイナに先導され、どこかに向かっている俺たちの前方に、一体の二足歩行する小型犬のような魔物が見えてきた。
獲物を見つけたセレイナは一度立ち止まり、ミリーリアに合図を送る。
俺の隣にいるミリーリアがボソっと「【イヌモアルケバボウニアタル】」と【コトワザ】を唱え、一直線に魔物の方へ駆け出して行った。
向こうも接近に気付いたのか、ミリーリアに向かって襲い掛かる。
──危ない!
と思ったのもつかの間。
長い薄桃色の髪をなびかせながら、両手で握る細長いオシャレな棒を野球の打者のように横なぎに全力で振るうミリーリア。
棒は魔物の頭を捕え、そのまま横へと弾き飛ばした。
振り返ってこちらを見るミリーリアの表情は、花が咲く笑顔と表現してもいいものだった。
ヤダ、コノココワイ。
「ミリー、油断しないの。目を離すのはしっかり魔石になってるか確認してからよ」
「コボルト相手なら大丈夫だよ。それに手応えもあったしね」
コボルトと呼ばれる二足歩行する犬型の魔物が吹き飛ばされた先には、小石程の大きさの透明な石が転がっていた。
これが魔石と呼ばれるものなのだろう。
そして、コボルトの死体は見当たらなかった。
「うん。今日も絶好調!」
魔石を確認したミリーリアが、手に持つ棒を振り回しながらそう言った。
「じゃ、次行こう、次っ!」
何から聞けばいいのかわからなくなっている俺の事などお構いなしに、ダンジョン探索は続いていく。




