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 街に到着し、入場の順番待ちをしている俺は、壁を見上げていた。


「なぁ、この壁ってどうやって作ってるんだ? 俺のいた世界では街を囲むような壁なんて、手間を考えると現実的じゃなくてさ」


 わからない事は素直に聞く。


「土魔法のはずだよ。時々改修工事があって、冒険者ギルドで土魔法を使える人の募集してるみたいだしね」

「魔法かー。襲撃の時にゴブリンが使ってたのも魔法?」

「そうだね。ファイヤーボールとロックかな?」


 そのまんまだった。

 風魔法が存在するという事も聞いているので、種類は他にもあるのだろう。


「魔法って、ダンジョンの敵も使ってくるのか?」

「魔物によるかな? 奥に行けば使ってくる魔物もいるね」

「明日行くダンジョンの魔物は?」

「奥まで行く予定はないから使ってこないと思うよ」

「了解。魔法って誰でも使える?」

「誰でもは使えないかな。適正があれば使えるみたい」

「適正ってどうやって調べるんだ? 使えるなら攻撃手段になると思うんだ」


 パーティー強化のためにも是非、俺に適性があってほしい。

 そう、パーティー強化のためだ。決してロマンだとか、左手が疼くという理由ではない。


「あー、そっか。アラタは調べてないんだ」


 ミリーリアの話では、魔法適性があるかどうかを教会で調べる事ができるらしい。

 この手の話題はサーナさんの管轄だと思うのだが、彼女は微笑みを浮かべながら俺たちの様子を眺めている。


「サーナさん、教会に行ったら調べることって出来ます?」

「はい。出来ますよ。準備しておきますね」


 よし! 適正よ、あってくれ!


「ついでにアタシも調べてもらってもいいかしら?」

「ん? セレイナは瞬間移動みたいな魔法使ってるじゃん」

「あぁ、あれは『裏取り』っていうスキルで、魔法とは別なのよ」

「スキルと魔法って違うのか?」

「スキルっていうのは……そうね、努力の結晶とでも言えばいいのかしら? 技術を磨くと、ある時突然形になるというか、使えるようになるというか……」


 よくわからん。


「完成型が存在していて、その型を目指すっていうのが覚え方の基本ね。アタシの場合はお父さんに教えてもらったわ」


 なるほど。


「スキルも魔法も適性があれば使えるようになるって事でいいのかな?」

「そう言えるわね。ただ、両方ともすぐに使えるようになるとは思わない事ね」


 そんな甘い話はないらしい。


「ちなみに、セレイナの『裏取り』ってやつは使えるようになるまでに、どれくらいの期間かかったんだ?」

「どれくらいかしら? 三年? 四年? それくらいかかってるのよね……」


 これが早いのか遅いのかがわからない。

 チラりとミリーリアの方を見てみると、首を横に振っている。


「しかも、アタシが使えるスキルってこの『裏取り』だけなのよ……。お父さんは他にも剣でも素手でもスキルが使えるのよ? どうして遺伝してくれなかったのかしら……」


 地雷を踏んだのかもしれない。


「ねえセッちゃん。普段の索敵とか、弓の腕とかはどうなの?」

「そんなの練習すれば誰でもできるわよ。それに、スキルと呼べるほど突出してるとも思わないわ」

「そうかな? 私たちの歳でそこまでできる人っていないと思うんだけど……」

「お父さんくらい使いこなせないとスキルとは呼べないんじゃないかしら?」


 それは基準がおかしいと思う。いや、絶対におかしい。


「索敵だってフワっとしかわからないし、弓だってお母さんはアタシと違ってスッって感じだしでまだまだよ」

「ちなみにセッちゃんの弓ってどんな感じなの?」

「こう、ガッって感じね」

「……」


 ミリーリアの眉間に皺が寄る。

 俺もよく分からなかった。


「セレイナは魔法の適性があるか調べた事はないのか?」

「あるわよ。その時は適正なしだったけど、もしかしたら目覚めてるかもしれないじゃない?」


 魔法に適性があるかどうかは、人によって判定できるタイミングが違うらしい。

 高齢といえる歳になってから発現したという実話があるので、セレイナは諦めていないそうだ。


 そんな話をしている間に、俺たちの順番が来た。


 前の街と同じように身分証を提示し門を潜ると、やはり同じようにロイさんが待っていてくれた。

 俺たち三人はこの街でもう一泊し、サーナさんはロイさん達と王都に向かうと伝える。


「わかりました。アラタ殿に用があれば教会を訪ねる事にします。それでは道中お気をつけて」


 俺たちはここまでの道中お世話になったと感謝の気持ちを伝え、街の外へ向かうロイさんを見送った。



 俺たちはミリーリアとセレイナが普段から使っているという宿へ向かう。

 明日向かうダンジョンは二人が頻繁に通っているダンジョンで、この街にはよく訪れるらしい。

 

 『渡り鳥の集い亭』という宿に到着した。


「お、いたいた」


 ミリーリアが誰かを見つけたようだ。早足でその人物の下へ向かって行く。


「アンちゃん久しぶりー。部屋は空いてる?」

「ミリーリアお姉さんいらっしゃいませ。二人部屋は空いてるよ」

「今日は三人部屋と一人部屋なんだー」


 アンちゃんと呼ばれる十歳くらいの女の子は、セレイナとその隣に立つ俺たちに気付いたようだ。


「いらっしゃいませ。三人部屋と一人部屋だね。すぐに案内できるよ」


 部屋に案内された俺たちは、それぞれ前の街と同じ行動をとる事にした。



 冒険者ギルドに向かっている最中、ミリーリアはずっとご機嫌だった。


「アンちゃんカワイイでしょ? これぞ看板娘って感じだよね。アラタもそう思わない?」

「看板娘っていうより、マスコットの方が近いかも」

「いや、看板娘だね! いい? アラタ。チップ? だとか言ってお小遣いあげたりしちゃダメだからね? “李下に冠を正さず”だよ!」


 くっ……。【李下に冠を正さず】の使い方が正しい……。

 俺がアンちゃんにチップを渡したら案件になるのだろう。

 前の街で確認しておいてよかった。


「ねぇ、そのリカに冠をとかっていうのは【コトワザ】だったりするのかしら……?」


 セレイナが不安げな表情で俺達に確認をとってくる。


「そうだよ。果物の木の下で、被り物をかぶり直すような動きをしたら盗んだって疑われちゃうじゃん? だから、疑われるような事はしちゃダメだよーって意味だね。だよね?」

「正解」

「そう……。で、どういう効果があるのかしら?」

「何もなかったよ」

「信じられると思う? “馬耳東風”だったかしら? どうなったか忘れたの?」


 何も言えねぇ……。


「【リカニカンムリヲタダサズ】。アラタ、何かやってみて」


 おい! 無茶ぶり過ぎるでしょうが!


「ね? 何も起きないでしょ?」

「んー、盗みを働けなくするっていう【コトワザ】になるのかしらね? ミリー、魔法袋貸してくれない?」

「えっ? イヤだよ。セッちゃんのでいいじゃん」

「嫌よ」


「なぁ、アレが冒険者ギルドだよな?」

 

 二人の会話に触れないように歩いていた俺の目に、冒険者ギルドのエンブレムが映る。

 流れ弾で致命傷を負う前に、無事冒険者ギルドに着いた。


 二人が手続きを終わらせるまで、俺は掲示板に貼られている依頼を見てみる事にした。

 前の街では内容が頭に入ってこなかったが、今なら問題ない。


 今残っている依頼は、ペット捜索、清掃、荷運びなど、日常生活の手伝いがほとんどで、魔物狩りのような依頼は見当たらなかった。


「終わったわよ。何か気になる依頼はあったかしら?」

「ないな。それより、依頼ってにこういう内容しかないのか?」

「この辺はほとんど魔物はでないわ。だからこういう依頼がメインになるわね。それに、他の地域からの依頼は朝の段階でほとんどなくなるわよ」


 今貼られている依頼の報酬で、最も高額なのは清掃業務で、一日一万ヴィルとなっている。

 狼退治の報酬が十万ヴィルだったと考えると、魔物退治はかなり高額な報酬が期待できる依頼なのだろう。


「ちなみにダンジョンに一日籠ったらどれくらいの稼ぎになるんだ?」

「そうね、アタシとミリーの二人で行ったら、一人あたり三万ヴィルってところかしら?」

「俺が加わると?」

「やってみないとわからないわね。ただ、アラタは初めてだし、下がるとは思うわ。今回は効率とかよりも慣れてもらうためだし、気にする事はないわよ」


 金銭よりも、経験を優先させる方針のようだ。



 今日はサーナさんの方が先に宿に戻っていた。

 

 全員集まったので、旅の最後の夜ご飯をいただくことにした。


「長旅お疲れ様でした。皆様とご一緒できて楽しい旅になりました」

「お疲れ様でしたー。私たちの都合で途中で離脱する事になってごめんね」

「お気になさらずに。皆様がいらっしゃらなければ、馬車に一人で揺られるだけですので、それに比べたら充実した旅になりました」

「アタシ達も楽しかったわ。本当にありがとうございました」

「俺も迷惑ばかりかけた気もしますが、楽しかったです。いつかまた皆で一緒に旅をしたいですね」

「そうですね。機会があれば是非よろしくお願いいたします」


 この旅最後の四人での夜ご飯タイムは、終始和やかに進んでいった。

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