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俺も声が聞こえた方を向く。
そこには金髪の少女。
白のローブに身を包み、手には木製の杖。
少し吊り上がった目は真っ直ぐにセレイナに向いている。
目を引くのは、頭の両サイドにある縦ロールと先端が尖った耳。
エルフ……なのか?
そしてお嬢様?
「あら、こんなところで会うなんて奇遇ね。ダンジョン探索の帰りかしら?」
「そうですわ。セレイナさんは……あら、ミリーリアさんもご一緒でしたのね」
ミリーリアとセレイナの表情から、あまり会いたくない相手だという事が俺にもわかった。
「ナールルちゃんお疲れ様」
「肩慣らし程度でしたので別に疲れてはいませんわ」
「そっかー、春休みでも頑張ってるんだね」
「当然ですわ。そういう貴女こそもっと頑張るべきではなくて?」
「少しずつ手ごたえは感じてるんだけどね」
「へぇ、そうですの。ところで、私のパーティーに加入するってお話は考えてくださいましたか?」
ん?
「何度も断ってるじゃない。アタシはミリー以外とは組む気はないわよ」
「セレイナさんの力は私のパーティーでこそ輝くはずですわ」
「残念だけど、アタシはそうは思わないわね」
セレイナはチラリとミリーリアと俺を見る。
「……そちらの男性はお知り合い?」
セレイナの視線で俺の存在に気付いたエルフ? のお嬢様? はセレイナに疑問を投げかける。
「ウチで面倒を見てた人よ。王都に用事があるから一緒に来てもらったの」
俺の事をどう説明しようか少し迷った後、セレイナはそう説明した。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたくし、ナールル=ネクレーガーと申します。セレイナさんとミリーリアさんは王都にあるスルタンハイム学園で同じクラスですの。以後お見知りおきを」
「これはご丁寧にありがとうございます。コトエダアラタです」
余計な事を言うわけにもいかないので、最低限の自己紹介にとどめておいた。
「コトエダアラタさんですね。お知り合いとはつゆ知らず、個人的な用事で足止めをする事になってしまった事をお詫びいたしますわ」
「お気になさらずに。学友との触れ合いは大切な時間ですから」
「そう言っていただけると助かりますわ。それでは、私はそろそろお暇させていただきますわ。セレイナさん、まだ時間はありますので気が変わったらいつでもいらしてくださいな。では、皆様ご機嫌よう」
そう言い残し、金髪ツインテールドリルエルフはパーティーメンバーと思われる面々と冒険者ギルドを後にした。
「はぁ、なんだってこんなところで会うのかしら」
セレイナはやっといなくなったといった表情で、ため息交じりにそう零した。
「ダンジョン帰りみたいだったしね。課題に備えてって感じじゃないかな」
「それはわかってるけれど……はぁ。アラタは依頼票が気になるんだったわよね。軽く見てから戻りましょうか」
二人と一緒に依頼票を見て回るが、内容があまり頭に入ってこなかった。
セレイナの「この時間はそれほど依頼票は残っていないし、受ける予定もないから戻りましょうか」という提案を受け、俺達は宿に戻る事にした。
宿に戻ってきたが、サーナさんはまだ戻ってきていないようだった。
サーナさんが戻ってきたら全員で夕食をとろうという事になり、それぞれの部屋で待機することになった。
俺はナールルいう名の少女と、ミリーリア、セレイナの関係が気になっている。
恐らくだが、セレイナのみナールルのパーティーに誘われているのだろう。
ナールルが冒険者ギルドから出て行ったとき、彼女を含めて四人が一緒だった。
既にパーティーメンバー四人が決まっているとしたら、セレイナとミリーリアの二人が加わるという事は考えにくいだろう。
そして、ミリーリアの表情。
笑顔ではあったが、心の底からの笑顔には見えなかった。
クラスメイトという事だったが、仲が良さそうには見えなかった。
考え過ぎなのか……。
会議室でのミリーリアの涙が脳裏をよぎる。
──落ちこぼれなんて呼ばれて
言葉が通じるようになってから、ミリーリアが使える【コトワザ】は増えた。
これが自信になっているのは間違いないだろう。
だからといって、俺からナールルとの関係を聞き出す気にはならなかった。
コンコンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「アラタ、今いいかしら?」
ドアを開けると見慣れた部屋着のセレイナとミリーリアがいた。
二人を部屋に案内する。
二人にはベッドに座ってもらい、俺はイスに座る。
「どうした?」
「一人部屋ってこんな感じなんだ。一人なら丁度いいかな?」
少し間を置いて、ミリーリアがこの部屋の感想を伝えてくる。
「ミリー、部屋の感想なんかより──」
「わかってるよ、わかってる」
何かを決心したミリーリアが口を開く。
「えっと、あの子はナールルちゃん。学園のクラスメイト。時々パーティーを組んでた子。精霊魔法使いだね。で、一緒に出て行った他の三人もクラスは違うけど同じ学園の生徒。彼女たちはパーティーを組んでるんだと思うよ」
俺は黙って頷きを返す。
「それで、ナールルちゃんのパーティーは後一人入れる枠があるからセッちゃんは誘われてるの」
そこまでは何となくわかっている。
そして、恐らく……。
「残念だけど、私は誘われてないんだ」
そういう事なのだろう。
「それでね、ナールルちゃんがセッちゃんを誘ってる時に、たまたま私が近くを通りかかってね……“あんな落ちこぼれとパーティーを組むより、私達と一緒に活動してはいかが”って聞こえたの……」
その時の事を思い出しているのだろう。
ミリーリアの表情がどんどん悲しみに染まっていく。
「それが悔しくって、情けなくって……。それでってわけでもないけど、もっと頑張ろうって思って……」
「ん。ナールルって人との関係はわかった」
わざわざつらい記憶を呼び起こしてもらう必要もない。
そもそも俺がミリーリアに召喚された時におおよその話は聞いている。
「あっ、でもね、きっとその話を聞かなかったとしても、召喚魔法でアラタの事は召喚してたと思うよ」
何故か焦りながら弁明するミリーリア。
「ナールルって子を見返してやりたいって事かな?」
「ん-、見返してやりたいって事なのかな? 私もここまでできるんだぞって感じ?」
それを見返してやるって言うんです。
「なるほどね。俺が召喚されてから使える【コトワザ】も増えてるし、もっと自信もってもいいんじゃないか? ん? そもそも俺が人型じゃなかったら召喚魔法を披露できた……?」
あれ? 俺足が引っ張ってる?
でも俺だから【諺】を教える事ができてるわけで……。
「アラタは何も悪くないよ! むしろアラタで良かったと思ってるよ!」
本心からそう思ってくれているように感じる。
面と向かって伝えられるとやっぱり照れる。
「ありがと。で、見返す方法ってのはどんなのを考えてるんだ?」
恐らくこれからが本題なのだろう。
「ナールルちゃん達のパーティーより上の成績で学園を卒業したいって思ってるんだ。今日はそれを伝えに来たんだ」
「約束したからな。全力で協力するって。俺に出来る事なら何でもするぞ」
「ミリーの考えはわかったわ。そこまで考えていたなんてね。当然、アタシも最善を尽くすわ」
「二人ともありがとう。これからもよろしくね!」
「任せとけ」
「任せて」
「任せっぱなしにするつもりはないよ!」
パーティーの目標を改めて確認する事ができた。
「ところでさ、俺って部外者扱いじゃないのか? 助っ人が加入したら成績に影響があったりしないのか?」
『あっ!』
あっ! って何?
「使い魔として扱えないんだったわね……。そもそもパーティー組めるのかしら……」
そうだよな……。そうなるよな……。
新たな問題が浮き彫りになってしまった。




