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 街は、高さ十メートル程の壁に囲まれていた。遠目に見ても、どこまで壁が続いているのかわからない。

 近づくにつれ、壁の高さに圧倒されそうになる。街を囲む壁を完成させるのにどれ程の労力が必要なのだろうか。


 先行していた隊員さん達が、門から入場していく姿を確認することができた。


 門番は二人。

 マノト村や他の村のように自警団の団員が受け持っているわけではなく、しっかりとした鎧を身に纏った騎士が門の脇に立っている。


「身分証の提示をお願いします」


 ミリーリアとセレイナは既に準備していた身分証を提示する。

 そして、サーナさんは自分の身分証と、一通の手紙から書類を取り出す。


「確認いたしました。十九時から翌朝六時までは門が閉まっています。街の外へ出る際にはお気を付けください」


 注意事項の説明を受けた俺たちは、街に足を踏み入れる。


 街に入ると、ロイさんが待っていた。


「我々はこのまま反対側の門から街を抜けます。明日の出発予定時刻は朝八時で考えておりますが、問題はないでしょうか?」


 出発時間は特に問題はないので了承する。


 ところで、なんでわざわざ野営なのだろうか?

 この街の規模ならば宿泊施設の一つや二つくらいありそうな気がする。


 ロイさんの表情が渋いものに変わる。


「話しても問題はないのですが、あまり良い理由ではないので気にしないでいただけると助かります」

「ごめんなさい。忘れてください」


 我々の事を想っての質問だというのは伝わってるので、気にしなくていいと言い残し、ロイさんは街の外へ向かって行った。


「さぁ、宿に向かうわよ。ほら、アラタは気にしないの。アタシも気になってたけど色々あるのよきっと」


 気になっていたのは俺だけではなかったようなので安心した。


 

 街はそれなりに賑わっていた。

 道は石畳が敷かれ、これまでは見られなかった二階建て以上の建物が目に入る。

 建物は木造と思われる物や、レンガ造りなど様々な素材で建てられているようだ。


「何か気になるものはあった?」


 俺が興味深そうに周囲を観察しているのに気付いたミリーリアに声を掛けられる。

 

「村と建物の様子が違うなーって思ってさ」

「それはそうだよ。壁があるかないかで安全性が全然違うからね」


 言われてみたら確かにそうか。

 柵に囲まれている村と、壁に囲まれている街。魔物の襲撃があるこの世界で、建物の倒壊リスクがあると考えると、納得ができる。


「さ、もうすぐ着くわよ」

 

 メイン通りから少し外れた所に、今日の宿はあった。

 二階建ての建物で、真っ白な壁。

 入り口には『とまり木亭』と書かれた看板。


 中に入ると、受付には十歳前後の男の子が座っていた。


「いらっしゃいませ。お泊りですか? お食事ですか?」

「泊まりで。部屋は……サーナさんはどうします?」

「私は皆様と一緒で構いません」

「三人部屋一つと一人部屋一つ空いてるかしら?」

「空いてます。三人部屋は一泊九千ヴィル、一人部屋は三千五百ヴィルです。ご飯は別料金になってます」

「わかったわ。それでお願いするわ」

「ありがとうございます」


 料金を払った俺たちは、男の子に案内され、それぞれの部屋へ移動した。


 俺が案内された部屋は、ベッドが一つと、鏡付きのテーブルが一つというシンプルな部屋だった。

 狭過ぎるとも広過ぎるとも感じない、丁度いい空間と言ってもいい。

 掃除も行き届いており、快適なひと時を過ごせそうだという感想を抱いた。


「お湯が必要なら、受付に声を掛けてください。お持ちします」

「ありがとう。何時でもいいのかな?」

「多分大丈夫? 聞いてきます」


 そう言って、男の子は誰かに確認するために部屋から出て行った。


 それにしても、あの子の年齢でしっかり働いてるんだな。

 俺があの子の年齢の頃ってどうしてたっけ?

 手伝いなんて嫌がっていたような気がする。


「おまたせしました。お湯は火を消す二十一時までです。料金は二百ヴィルになります」

「わかったよ。ありがとう」

「何かあったら声を掛けてください」


 そう言って、男の子は自分の仕事に戻って行った。

 

 ところでチップ文化とかはあるのだろうか?

 あるなら失礼だっただろうし、なかったとしてもお小遣いをあげたくなる。

 勝手にお小遣いをあげたらマズイのだろうか。

 自分があの男の子くらいの年齢の時、接客できたかと問われたら恐らくできなかったと答えるだろう。

 そう考えると、応援したくなる。


 後で誰かに聞いてみよう。



 ベッドに横になりながらミリーリアから預かっている『【コトワザ】集』に目を通していると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


 ノックの主はセレイナで、今からミリーリアと二人で冒険者ギルドと呼ばれる所に行くとの事だ。

 聞くところによると、冒険者ギルドがある街に着いたら、報告をする必要があるらしい。

 これは、万が一行方不明になるなどのトラブルが発生した場合、足跡を辿るのに役立つのだとか。

 冒険者の義務というわけではないので、報告は必須というわけではないのだが、学園に通っている生徒は義務付けられているそうだ。


「それは俺も行った方がいいのか?」

「どっちでもいいわよ。ついて来たいならそれでもいいけど」

「それならついて行くかな。今後も必要になりそうだし」


 冒険者を目指している二人と行動を共にするなら、今後も冒険者ギルドと呼ばれる所に行く機会もあるだろう。

 そう考えると、一度行ってみる必要があるような気がした。


 サーナさんも教会に向かったらしいので、俺たちも受付に鍵を預け、冒険者ギルドへ向かう事にした。



 二人を先頭にメイン通りを進むと、ひと際大きな建物が目に入ってきた。

 建物の屋根には、盾の背後に剣と槍が斜めに交差しているエンブレムが描かれた看板。


「ここが冒険者ギルドだよ」


 ここがそうなのか。

 ついて行くと言っておきながら、いざ目の前にすると入るのを少し躊躇する。

 おいおい、女連れとかナメてんのか? とか、坊やはお家に帰ってお手伝いでもしてな、とか言われないか心配になってくる。


「アラタのいた世界は治安が悪いの?」

「そんな話聞いた事ないわよ」


 俺の心配は杞憂らしい。

 二人はマノト村に帰る際にもこのギルドに立ち寄っているが、絡まれなかったそうだ。

 それどころか、どこのギルドでも絡まれた経験はないと言う。


「俺の勝手なイメージだ。気にしないでくれ」


 二人は何も気にする事なく冒険者ギルドへ入っていく。

 遅れないように俺もすぐにその後をついて行った。


 冒険者ギルドの中に入ると、横に長い受付が目についた。

 そして、それぞれの受付にはキレイなお姉さんが座っていた。


 これが冒険者ギルドか……。


 受付があり、受付嬢がいる。

 受付には列が出来ており、順番待ちの冒険者たち。

 奥の方には別の部屋があり、そちらからは香ばしい匂いとアルコールの匂いが漂ってくる。

 役場とレストランが合わさっていると表現するのが適切だろう。


「ね? 何ともないでしょ?」


 周囲の様子を伺っている俺に、ミリーリアが声を掛けてきた。


「じゃ、私たちも報告のために並ぶから、アラタはそこで待っててね。夕飯は宿でとるから、あっちに行かないように」


 そう言い残し、セレイナが並ぶ列へと向かって行った。


 俺は一人、ソファーに腰掛け冒険者ギルドの観察を続ける。

 壁には依頼なのだろうか。

 掲示板に紙が数枚張り付けられている。

 元々依頼の数が少ないのか、もう夕方だから依頼が残っていないのかわからない。


 近づいて内容を確認したいが、二人が戻ってきてからでもいいだろう。


 それにしても何も起きない。

 トラブルを期待しているわけではないが、俺が絡まれないところを見ると、冒険者だからといって、荒くれ者が就く職というわけでもなさそうだ。


 そもそも冒険者を目指す学園というものが存在する以上、ギルド内でトラブルを起こすようなマナーの悪い人は少数なのだろう。

 受付の列も、淡々と捌かれている。


 そんな事を考えていると、二人は報告を済ませ戻って来た。


「お待たせ。何か気になる事はあった?」


 セレイナにそう聞かれたので、壁に貼ってある依頼が気になると伝えた。


「わかったわ。少し見ていきましょうか」


「あーら? セレイナさんじゃありませんの。ご機嫌よう」


 誰かに名前を呼ばれたセレイナは、一瞬嫌そうな顔をして、声の主の方を向いた。

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