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本日2話目です。まだの方は前話からどうぞ。

 テントの外から、セレイナに呼ばれて目を覚ます。


 外に出ると既に俺以外の三人は朝食をとっている最中だ。


「アラタが一番最後ね。ぐっすり眠れた?」

「おはよ。体調に問題がないくらいは眠れたかな」

「そ。ならいいわ。はい、朝食。急がないと出発に間に合わないわよ」


 チラリと隊員さん達の様子を確認すると、天幕の撤去作業を行っていた。

 少し急ぎ気味で食事を済ませる事にした。


 

 暖かい日差しと小鳥のさえずる声を堪能しながら、今日も歩く。ひたすら歩く。


「そういえばね、あの後“二兎を追う者は一兎をも得ず”のさらなる検証を進めた結果、日付変更で回数が復活する事がわかったんだよ」


 聞こえてた、とは言わない方がいいだろう。


「そうか。一つ前進だな。今日の夜はどうする?」

「もう回数が残ってないから、今日はナシかな」


 俺が起きる前にも試したのだろう。


「了解。じゃあ夜にでも『【コトワザ】集』借りていいか? ただ歩くだけってのも暇だし、道中何か使えそうな【諺】があれば教えながら行けたらいいんじゃないかなって思ってさ」

「お、それいいね。じゃあ、はい。今のうちに渡しておくね」


 そう言ってミリーリアは『【コトワザ】集』をポーチから取り出し、俺に手渡してきた。

 

「歩きながら読むのは無理だから、休憩中か夜しか読めないぞ」


 人の通りがある影響からか、道はできている。

 しかし、お世辞にも整地されているとは言えない道だ。

 所々に凹みがあり、油断すると足を取られる可能性もある。


「正直私が持ってても意味ないんだよね。だからアラタに預けておくよ」


 俺は自分の魔法袋に『【コトワザ】集』をしまった。


 ミリーリアにとって、この『【コトワザ】集』は大切なものだという事は、本の状態を見れば良く分かる。そんな大切なものを預けてもらえるのは、信用されていると思えて嬉しかった。

 道中、落とすわけがないとはわかっていても、魔法袋の中に手を入れ、定期的に確認したのは仕方がない事だろう。


 

 日が暮れる頃、今日の移動も何事もなく終わった。

 俺たちが野営の準備を終えた頃、昨夜と同様にロイさんがやってきた。


 期待しているロイさんには悪いのだが、今日はもう試せない事を伝える。


「ところで、アラタ殿は【コトワザ】を使えないのですか?」


 俺? そういえばどうなんだろう?

 

「実は私も気になってたんだよね。でも使おうとしなかったから何か理由があるのかなーって思って、今まで聞けなかったんだ」


 変な気を遣わせていたようだ。


「そもそもどうやって使うんだ?」

「使う【コトワザ】を想像して、声に出したら力が抜けるような感覚があったら成功かな」


 良く分からないな。

 しかし、ここにいる全員が俺に注目している。

 断る理由もないので試してみる事にする。


「ではロイさんに。【二兎を追う者は一兎をも得ず】」


 間違いなく害がないと思われる【諺】から試してみる事にした。

 特に力が抜けるような感覚はなかった。


 ロイさんは立ち上がり、昨夜と同様に俺に近づいてきた。そして、俺の肩をポンと叩いた。


「もう一度。【二兎を追う者は一兎をも得ず】」


 今度はセレイナの肩に触れる。


 その後も検証は続いたが、俺の【諺】が効果を現す事はなかった。


「少し安心したわ。アラタの【コトワザ】が発動したら、ミリーの比じゃないくらい大変な事になりそうな気がしていたのよね」


 いたたまれない空気の中、セレイナがフォローになっているのかなっていないのかわからない発言をする。

 そういえば、“痛いの痛いの飛んでいけ”を試してたっけ。

 今の俺の気持ちを理解してくれているのは彼女だけだろう。


「うーん、力が抜ける感覚ってのがわからなかったな。適正とかあるのか?」

「どうだろう? 母さん以外に使ってる人は見た事ないかも」


 ミリーリアの発言から、適正のようなものがあるのではないかと推測する。


「ちなみにミリー以外の誰でもいいので、なんて言ったかわかる方はいます?」

「何か詠唱しているのはわかりますが、どういう発声方法かは検討もつきませんね」

「私もです」


 セレイナで確認したのでわかっていた事だが、ロイさんとサーナさんも何を言っているのかわからないようだ。


 他に検証する事もないので、今夜は解散となった。

 そして、明日は街が目的地になるので、宿を取るか決めておいてほしいと言われた。


「サーナさんが問題なければだけれど、アタシ達が来るときに使った宿が空いていたら、そこに泊まろうと思っているのだけれど、どうかしら?」

「私は構いませんよ」

「じゃ、あそこでいいね」

「アラタもそれでいい?」

「わからんけど、皆がそれでいいならいいんじゃないか」

「あ、でもさ、アラタの身分証明書ないよ?」

「あっ……。そういえばそうね……」

「そんなものが必要なのか」


 セレイナの目が泳いでいる。

 

「俺の事は気にしないで三人は宿でいいんじゃないか? 隊員さん達は野営だって話だし、俺もそこに混ざればいいだけだし」

「ご心配には及びません。教会でアラタ様の身分は保証いたしますので、問題なく街に入る事は出来ます」


 どうやらサーナさんは、マノト村にいる間に色々手配してくれていたらしい。


「ありがとうございます。それなら俺も明日は宿って事で。テントとか買った方が良い物ってあります?」

「テントは最後までお貸しいたしますので、王都に着いてからでよろしいかと」


 王都の方が品揃えが充実しているので、街で無理して買う必要はないらしい。

 もう買い物で失敗したくないのでこのまま借りる事にした。


「それじゃ、今日は早いけどそろそろお開きかしらね」

「あぁ、ちょっと火を消すのは待ってもらってもいいか? 『【コトワザ】集』読みたいからさ」

「わかったわ。あまり遅くならないようにね」

「じゃ、私たちはテントに戻ろうかな。また明日ね」

「それでは私も失礼して。アラタ様お休みなさいませ」

「三人ともおやすみ」


 一人になり、焚火の灯りを頼りにミリーリアから預かった『【コトワザ】集』に目を通す。

 薪が弾ける音、風に乗って時折聞こえる葉が揺れる音が集中力を高めてくれる。


 正直、【諺】が使えないのはショックだった。

 シュルーケルさんに攻撃手段を持てと言われた時、【諺】で何とかならないか考えていた。

 しかし、俺が唱えた【諺】が発動することはなかった。

 こうなると、攻撃手段が思い浮かばない。

 

 先延ばしにしてもいいものだろうか。

 一番手っ取り早いのは凶器を持つ事か。で、直接振り回す。

 イメージが湧かない。

 それでも、ミリーリアに協力すると決めたからには必要になるのは間違いない。


 ふぅ、ダメだ。

 いつの間にか『【コトワザ】集』をめくる俺の手は止まっていた。


 集中力が切れたのを察した俺は、テントに戻り、眠る事にした。



 翌朝、テントに吹き付ける風の音で目を覚ました。

 

 外に出ると風で髪が乱れる。


 今日の朝食はパンのみだった。

 火が思うように着かなかったので、準備するのを止めたようだ。

 夕方前には宿に着く予定だから我慢しようという事だった。



「うー、風強すぎー」

「そんな日もあるわよ」

「この時期は仕方がないですからね」


 移動中の話題は、もっぱら風に対する文句だった。

 確かに今日の風は堪える。それでも、雨が降っていないだけマシだろう。


 風になびく漆黒のマントにテンションが上がったのは最初の内だけだった。

 ある程度時間が経つと満足感も薄れ、やはり皆と同じように煩わしく感じるようになってきた。


「ねー、アラター。“馬耳東風”ってどういう意味だっけ?」


 何気なくという感じで声を掛けてくるミリーリア。


 いや、まさか。

 それは……。

 でも、気になる。


「馬の耳に風が吹いても馬は何も感じないって意味かな」

「兎じゃなくてもいいなら馬じゃなくてもいいよね? 【バジトウフウ】」


 風が吹き抜ける音は聞こえる。

 そう。音だけ。

 体に吹き付ける風を感じなくなる。


「アンタ達また何かやったの……」


 セレイナの呆れた声も聞こえてきた。


「あの……これは……?」


 サーナさんも困惑しているようだ。


「“バジトウフウ”って【コトワザ】だね! 何か風が吹いても気にならなくなるみたい」


 ミリーリアはドヤ顔で説明する。

 説明を受けてもセレイナとサーナさんの表情は晴れない。


「別にいいのだけどね……。快適なのは間違いないし……。もしかして私の頭が固いのかしら……」

「正直申し上げますと、私も理解が追い付いておりません……」


 先程まで風で髪が踊っていた女性陣は、手櫛で髪を整えながら歩き続ける。

 そして、まるで整え終わるのを見計らったように効果時間が切れる。


「ミリー! 早く!」

「【バジトウフウ】!」


 何回か繰り返したが、途中でミリーリアがギブアップ宣言をし、風が吹きつける中の移動に戻ることになった。


 そんなやりとりをしつつ、この日の目的地である街に到着した。

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