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第05話 ニトヲオウモノハイットヲモエズ

 夕食を済ませ、デザートに先ほど購入したグレープフルーツを四人で食べたのだが、本当に普通のグレープフルーツだった。食材の買い付けは任せようと決意するには十分だった。

 三人のフォローが心に染みる。


 隊員さん達が張っている天幕とつかず離れずの位置に、セレイナとサーナさんも魔法袋から取り出したテントを張る。


 セレイナのテントは二人用、サーナさんのテントは、一人用にしては少し大きいといった感じだ。

 二人がテントを張る様子を眺めていたら、ミリーリアに声を掛けられた。


「アラタのテントは?」


 シュルーケルさんから説明を受けた魔道具にテントは含まれていなかった。

 そもそもこの魔法袋には他に何が入っているのだろうか。


「ちょっと待って。探すから」


 一通り魔法袋の中に入っている物を取り出したのだが、テントは見当たらなかった。

 俺が説明を受けていない物で、魔法袋の中に入っていたのは寝袋・毛布のお泊りセット、元々俺が着ていた部屋着、そして着替え。


 テントはどこだ。


「これで全部なの?」


 どうやらそのようです。


「出発の前にちゃんと確認した?」


 してません。

 荷造りをシュルーケルさんに任せた俺のミスなのだろうか。

 いや、確認しなかったのがミスなのだろう。


 シュルーケルさんが気づかないはずがない。

 寝袋と毛布は用意してくれているのは優しさなのだろう。


 普段テントを使わないから完全に忘れてるって事はないと思う。

 ないよね? でもシュルーケルさんならテントはいらないと思っるような気もする。


「ちょっと、もしかしてテントがないとか言わないわよね?」


 テントの設置を終えたセレイナが俺たちの様子に気付いたようだ。

 その声は呆れの色合いが濃い。


「もしかするんだなぁ……」


 こうなるともうどうしようもない。

 俺の確認ミスなので、おとなしく外で寝るつもりであると伝える。

 幸いな事に、寝袋と毛布はあるので問題はないだろう。

 

「ミリーリアさんとセレイナさんが問題ないのであれば、私がお二人のテントにお邪魔してもよろしいでしょうか? そうすればアラタ様は私のテントでお休みいただけますし」

「それしかないわよね」

「私はいいよ」


 サーナさんの提案に、二人は同意する。


「本当にいいのか?」

「体調崩される方が困るのよね。今は良くても夜中はまだ冷えるし、油断は出来ないのよ?」

「そうそう。マノトに向かうときも夜は寒かったからねー」

「すまん。お言葉に甘えさせてもらう事にするよ。サーナさんもありがとうございます」

「お気になさらずに。旅にも慣れていないでしょうし、これくらいならお安い御用です。と、いうわけでお二人ともよろしくお願いしますね」

「はーい」

「狭いけど、こちらこそよろしくね。ま、アラタには高級デザートを奢ってもらったから、そのお礼だと思ってもらいましょうか」


 俺は苦笑いするしかなかった。



 今夜の寝床も決まり、俺たち四人が焚火を囲んで一息ついていると、ロイさんがこちらにやってきた。


「夜分遅くに失礼します。お疲れの所申し訳ないのですが、昨夜の検証の続きは可能でしょうか?」


 検証の続きとは、昨日効果を実感できなかった【二兎を追う者は一兎をも得ず】の事だろう。

 そう尋ねるロイさんは、申し訳なさと、楽しみでソワソワしているという感じが同居しているように見えた。


 俺たちも検証する必要性を感じていたので、ロイさんを加えた五人で検証する事にした。


 庭で検証した際、俺とミリーリアが立ち止まった状態でも、【二兎を追う者は一兎をも得ず】はセレイナに対して効果があった。

 わざわざ離れた所に移動して試すのは、念のために秘匿するという観点から得策ではないので、この場で試すことにした。


「まずはロイさんでいいのかな?」

「はい。お願いします」

「【ニトヲオウモノハイットヲモエズ】。これでどうかな? ロイさん、誰かを触ってみて」


 ロイさんは立ち上がり、俺の背後に移動する。

 振り向くと、期待感に満ちたロイさんの顔が。


 どれだけ楽しみにしてたんですか!


 ロイさんの手が俺に伸びてくる。

 そして空を切る。


 ロイさんの表情が驚きに変わる。


 何度試しても俺に触れる事は叶わなかった。

 そして、俺の隣に座るミリーリアとサーナさんにも触れようとしたが、効果時間中の二十秒間は触れる事が出来なかった。


「これは凄いと言うか何というか……。不思議な感覚でしたね」


 昨日効果を実感できなかったロイさんは、どこか納得した表情で感想を伝えてくれた。


 そして、一日に使用できる回数に制限があるのが確定した。

 昨日は俺、セレイナ、シュルーケルさんの三人が、それぞれ一度だけ効果を実感した。

 その後のロイさんとサーナさんは効果がなかったので間違いないだろう。


「そうすると、次は日付が変われば二回目でも効果があるかどうかかな? 俺かセレイナのどっちかにかけてもらえるか?」

「どっちにする?」

「セレイナでいいんじゃないか?」

「わかったわ」


 次に試したセレイナにも【二兎を追う者は一兎をも得ず】の効果が現れた。


「二回目だけど、やっぱり変な感じね。この感覚は何なのかしら?」


 これで、ある程度時間を置けば、同一人物に再びかけても効果がある事も確定した。


「んじゃ、最後の一回はサーナさんかな?」

「私よりもミリーリアさんがよろしいかと。昨日は効果がなかったとおっしゃっていましたし、効果がなければ私に。もしも効果が現れたら、昨日との違いはどこにあるのか検証も出来ますしね」


 なるほど。もっともだ。


「それじゃ試してみるよ」


 ミリーリアは自身に【二兎を追う者は一兎をも得ず】をかけ、まずは隣に座る俺に触れようとする。


 俺が触れられることはなかった。

 逆隣に座るロイさんに触れようとしても触れられない。

 彼女は立ち上がり、サーナさん、セレイナの順に触れようとするが触れられなかった。


 最後の方はセレイナに後ろから抱き着こうとしていたようだが、まるで膜でも張られているように、直接触れる事は出来ないようだった。


 そして効果時間が切れる。


「ちょっと!」


 体を預けていたのだろうか。効果時間が切れた影響で、セレイナに一気に力が加わったようだ。


「ごめんごめん。いやー、これは不思議な感じだね。みんなの言ってることがわかったよ。ところで、なんで今日は効果があったんだろう?」


 本当になんでだろうか。


「ねぇアラタ、この【コトワザ】の意味、もう一回教えてくれないかしら?」

「“二兎を追う者は一兎をも得ず”。二つの事柄を同時に上手くやろうとすると、どっちも失敗するって意味だな」

「なるほどね。ミリー、昨日はどんな気持ちでアタシ達を捕まえようと思っていたの?」

「ん? どんな気持ち? アラタだけは絶対捕まえてやろうって感じだったかな?」


 何故だ? 俺が何をしたというんだ。

 ……。

 俺が悪いな。

 

「アタシは?」

「逃げるセッちゃんを捕まえるのは無理でしょー」

「そういう事ね」


 あー、俺もわかった。


「どういう事?」

「ミリーは二兎、まぁ、この場合は二人かしら? 二兎を追っていなかった。だから効果が現れなかった。こう考えると辻褄が合わない?」

「あっ!」


 ミリーリアも気付いたようだ。


「そっか! 言われてみたらセッちゃんを捕まえる気はなかったかも!」

「今日の検証結果も踏まえると、複数人を追う、捕まえようとすると失敗するって感じだと思うのよね」

「今の所矛盾はないな。そうすると、本人の意識が関係してくるって事か?」

「そうなるわね。これがどの程度の意識で判定されるかって事になるんだけど──」


 セレイナは俺の方をジッと見ている。


「アラタはアタシを捕まえられると思っていたって事になるのよね。少しショックだわ……」


 あー、どうだっけ?

 何を考えていたか覚えていない。


「遊びは全力でやらないと楽しくないからさ。集中狙いも良くないし、その辺が関係してたんじゃないか?」

「それならいいのだけれどね」


「じゃあ、次の検証内容はどんな気持ちなら効果が現れるか調べるの?」

「それも難しそうだよなぁ。意識なんて本人次第だしな」

「そうよね。意識して追うか追わないかを調整するっていうのは難しいと思うわ。そうなると、効果は絶大だけど、過信は良くないわよね。万が一相手に追う気がなければ効果が現れないのだかから」

「緊急時の保険って扱いが無難そうだな」

「回数制限もあるし、作戦に組み込むのは危ないよね」


 俺たちの議論がひと段落ついた時、ロイさんが口を開いた。


「お話を聞いていましたが、私も皆さんが考えた通り緊急時の保険という扱いに賛成ですね。回数制限があるのもそうですが、これは十分切り札になり得ます。普段から使って、わざわざ晒す必要はないかと」


 ロイさんのお墨付きを得たところで、今日の検証はここまでとした。

 

 なかなか有意義な検証が出来たのではないだろうか。

 こうして俺たちの一日は終わろうとしていた。

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